9月4日 12:15

 昼休み、陽人はいつものように弁当を広げる。


 日頃は陸平が隣に来るが、今日は諸々の事情で弁当を作れなかったようで学食に行っている。


 だから一人で弁当かと思っていたが、代わりに隣のクラスから道明寺と篠倉がやってきた。


「陽人、ちょっといいか?」

「……何だい?」

「さっき英司と話をしていてさ、今日か明日にさ、レギュラーとサブとで紅白戦をしたいんだ」

「紅白戦?」


 紅白戦に近いことは定期的にやっている。


 とはいえ、ボールがない時も多いし、完全に主力とそれ以外のメンバーに分けて行ったことはない。


「……まずいか?」

「いや、そういうことはないよ。竜山院との試合に向けてどうしようか考えていたし、それも一つありかもしれないな」

「で、だ。ちょっと考えてみたのだが……」


 と、道明寺がノートを取り出した。


 レギュラー:GK鹿海、DF園口、石狩、林崎、立神、MF陸平、鈴原、芦ケ原or久村、FW稲城、瑞江、颯田


 サブ:GK須貝、DF曽根本、武根、道明寺、南羽、MF久村or芦ケ原、戸狩、天宮、FW櫛木、鹿海、篠倉


 と書かれてある。


 現状でのレギュラーとサブ。概ねその通りだ。


「で、サブがレギュラー相手に良い試合をするには、レギュラー以上にラインを上げてコンパクトにしないといけない」

「そうだな」


 能力値はレギュラー組の方が高い。もちろん、櫛木のフィジカルや、篠倉の高さとキープ力、戸狩の技術とスピードに久村の背丈以上のフィジカルのように、一部上回る部分もあるが、総合的にはかなり劣っている。


 同じような形では普通に負けてしまう。差を埋めるためにはコンパクトさとポジショニングが絶対に必要だ。朝、結菜とも話をしていたボール非保持の88分である。



「ただし、ラインをあげた場合に二つ問題がある。当たり前だが、ラインを上げると裏を取られる危険性が高まる。その場合に、DFラインは英司と聡太はまあまあ速いが、俺と駆は遅い」

「……そうだな」


 スピードに関してはタイム測定もそうだし、試合中を見ても明らかに遅い。


「GKも同様だ。康太は広いスペースをカバーできない」

「そうだな」


 単純にゴールキーパーの守備面だけを見れば、須貝の方が鹿海より上である。


 ただ、フィールドプレーヤー経験が豊富で、走力もある鹿海はとにかく広い範囲をカバーできる。前から圧力をかけるサッカーとの相性は、鹿海の方が上だ。


「だから、スピードのある徹平をサブ側に回せないか?」

「徹平か……」


 石狩はCB陣の中ではもっともスピードがある。


 裏を取られた場合に、石狩がいれば追いつける場面も出てくるかもしれない。



 以前、結菜達も色々な組み合わせを検討していたように、CBの能力はトータルで見るとほとんど差はない。レギュラーであるか否かは本人の能力というより、得意能力がより戦術にマッチしているかどうかという点で決められていた。


 交代したとしても大きく能力が落ちるわけではない。


 レギュラーはチームとして見た場合、陸平の広い守備範囲があるし、鹿海も前に出られる。石狩のカバーリング能力は、もちろんあるに越したことはないが、無かったとしてもカバーできるはずだ。


 逆に、サブチームは明確に石狩のスピードを求めている。


 一方、武根は強さと高さに秀でている。レギュラー組には欠けている高さをもたらす存在としてセットプレーなどで武根が活躍できる機会はあるかもしれない。



 試す価値はある。



「分かった。後で駆と徹平にも話をしてみるよ」

「あと、怜喜は散らし役とかできないか? できれば、真人もこちらに来てほしいんだが」

「うーん」


 サブチームがレギュラーチームに能力以外に劣る点として、パスの配給役の少なさがある。意外とパスを出せる道明寺以外には、戸狩くらいしかいない。


 一方、レギュラー組には林崎、鈴原、園口、立神と四人いる。


 この人数差を埋めたいという道明寺の考えは分からなくもない。その視線がシンプルに正確にパスをさばいている陸平に向けられるのも理解できる。


「できなくはないんだろうけどねぇ」


 陽人は苦笑しながら、陸平のことを話し始めた。

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