9月3日 10:45

 地域予選が終わった翌日。


 日曜日であるが、この日の10時から県予選本選のトーナメント抽選が行われる。



 高踏高校からは、今回も真田と甲崎が行くことになっており、サッカー部は朝から通常通りの練習だ。


 とはいえ、前日試合をしてきたばかりなので、出場者は軽めの調整になっている。午後からはフィルムチェックでポジショニングなどの確認と修正を行う予定だ。


 フィルムチェックは試合に出ていない者も参加するため、午前が軽めだと休ませ過ぎとなる。


 そのため、不出場者は4対3のミニゲームなど強めの練習を行っていた。


 もちろん、そこには監督である陽人自身も参加している。



 30分のミニゲームが終わって一休みしていると、クラブハウスから着信音が聞こえてきた。


 急いで中に入る。甲崎からの着信だ。


「もしもし」

『抽選が終わったよ』

「お疲れ様です」

『鉢花のブロックに入った』

「鉢花ですか」


 県内の4強、深戸学院、鳴峰館、珊内実業、鉢花。


 鉢花は第4シードであるから、この中では一番下という扱いである。


 とはいえ、過去3年、総体にしても選手権にしても、この4チーム以外から準決勝進出チームは出ていない。従って、第1シードでも第4シードでも変わらない、というのが他の評価となる。


『で、申し訳ないことに竜山院高校に勝ったら、2回戦で鉢花と当たることになった』

「あらま……」


 4強を含めた県内の8校が1回戦をシードされている。


 その1回戦免除の4強の一角・鉢花高校と、2回戦で当たることとなる。




 電話を切ると、瑞江が「どうなったんだ?」と尋ねてきた。


 電話の中身はもちろん、周りも分かっている。全員が「どこでも良いのではないか」と言ってはいるが、それでもどこと対戦するのかは気になるようだ。


「緒戦は竜山院高校で、それに勝ったら鉢花だって」

「おぉ」


 鉢花という響きに、全員が一斉に反応する。さすがに県内四強ということもあるので、勝てるとは思わないが……


「強いところと早めにやって、思い切りぶつかるのも悪くないんじゃないか?」


 という立神のような意見の方が多い。


 陽人もそれは同感だ。


 今のところ簡単に勝て過ぎているが、これが本当の強さということはないだろう。


 もう少し客観的な指標で強さを測りたい。


 その点では、四強と対戦するというのは悪くないだろう。もちろん、竜山院を甘く見ているわけではないが。



「ただ、日程はどうなんだろう?」


 陸平が疑問を投じた。ちょうど甲崎が写真を送ってきたのでそれで確認する。


 高踏高校は四つあるブロックの左下側にいた。一番下に第四シード鉢花がいて、その一つ上である。


「緒戦は9月30日の土曜日で、二回戦は……10月1日の日曜日だ」

「連日は辛いね」

「確かに……」


 休暇期間ならともかく、そうでない場合、高校部活の試合日程は、基本土曜と日曜で組むしかない。従って、連日の試合という非常識な日程もありえてしまう。


 その結果として、一回戦免除のシード校を相手に、連戦二日目で対戦するという気の毒なチームが複数出てくることになる。


 主催する側は、シード校以外が勝ち抜くなんて思っていないだろうから、連日でやっても特に問題ないと考えているのだろう。そこに文句はないが、実際にその立場に放り込まれるとまた変わってくる。


 鉢花に勝つことは想定していないが、できればベストの状態でやりたい。


「となると、竜山院には違うメンバーで挑む?」

「うーん……」


 これまた悩ましい問題である。


 違うメンバーで挑んだ試合となると、地域予選緒戦の高木北戦では8点取って快勝した。しかし、その試合には園口が出ていて、しかもその園口が圧巻の活躍をして勝利している。園口は当然、ベストメンバー側だ。


 地域予選を勝ち抜いた竜山院に園口を抜いたメンバーで通用するのか。


 鉢花とベストでやりたいがために違うメンバーで挑んで、竜山院に負けたのでは元も子もない。



 陽人はしばらく考えたが。


「まだ一か月あるし、すぐに結論を出さなくてもいいだろう」


 とりあえず、結論を先送りにした。

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