8月29日 18︰45

 地域予選2回戦が終わった。


 初戦を8─1で勝利した高踏高校は、次の漆原工業からも前半だけで8点を取り、最終的には9─1で勝利した。


高踏 8─1 高木北

得点者︰篠倉3、櫛木2、鹿海2、戸狩

卯月メモ︰園口さん7アシスト! 守備は終盤の失点以外問題なし。


高踏 9─1 漆原工業

得点者︰瑞江6、芦ヶ原、颯田、鈴原

卯月メモ︰瑞江さんが圧巻の6ゴール。60分以降はペースダウンして盤石の勝利。


 地域予選決勝の相手は田坂高校と決まった。試合開始は翌月2日の午後2時。

 これに勝てば、10月頭からの県予選に進むこととなる。


「田坂高校は地区リーグでは1位ですが、圧倒的に強いところではないです。私達は2位の高木北に圧勝できているのでいつもの力を発揮できれば、きっちり勝てると思います」


 過去のリーグ戦結果を踏まえて説明する結菜の言葉も力強い。


「監督、副監督はああ言っているけど、どう?」


 瑞江が陽人に対して、笑いながら問いかける。


「相手が強かろうと弱かろうと、いつも通りにきちんとやるだけでしょ」

「了解」

「ただ、越えなければいけない壁は田坂高校だけじゃない」

「……おっ? 自分達を超えろみたいな話?」


 陸平が少しとぼけた様子で問いかけるが、陽人は首を横に振った。


「そんな大層な話じゃない。来週から二学期だけど、夏休みの宿題が終わっているかという話だ」


 途端に颯田が「ゲッ」と声をあげた。全員の視線がそこに向く。


「進んでないのか?」

「ほとんどやっていない」

「……留年とかなったらシャレにならないから、終わるまで来なくてもいいよ」

「ち、ちょっと待ってくれよ! 決勝だけ無しってあんまりじゃないか?」


 颯田は大慌てとなり、全員が思わず笑う。


「とはいえ、俺もまだ結構残っているなぁ」


 道明寺と石狩、マネージャーの高梨も頭をかいている。


「高踏はサッカーだけで大学やプロ選手の未来が開けるわけじゃないし、親からサッカーやっていてプラスにならないと思われるのは本意じゃない。監督を引き受けた以上、サッカーのことで誰かに文句を言われる覚悟はあるけど、俺のせいで勉強しなくなったなんて言われたくないから、そこはしっかりやってもらいたい」


 陽人はそう言って、全員を見回す。反論する者は一人もいない。


「本当はもっと早くこういうことを言っておけば良かったんだけど、勝ち抜いて試合が続くって想像していなかったからね。今更言うことについては悪かったと思う。だけど、みんなの親に文句言われるのは本当嫌なんで、そこは承知してほしい」

「……あぁ、分かっているよ」


 四人とも、小さくなって頷いた。


「ということで、三人はいないかもしれないということで、地域予選決勝のメンバーを決めておく。もちろん、当日の体調にもよるけどね」


GK:鹿海

DF:園口、武根(石狩?)、林崎、立神

MF:芦ケ原、陸平、鈴原

FW:稲城、瑞江、篠倉(颯田?)



 練習解散になった後、陽人は結菜達にも尋ねる。


「みんなも勉強の方は大丈夫?」

「当然でしょ。耕雲館だって行けるって言われているわよ」


 結菜がスマホに保存している模試の結果を見せてきた。それに続いて我妻と辻も「私も大丈夫です」、「僕も7月中に終わらせています」と続く。


「それなら安心だけど、結菜はともかく二人の志願も高踏なの?」


 我妻と辻の二人はデータ記録や録画などをしっかりやってくれて、頼りになる戦力である。来てくれるとうれしいが、本人の意にそわないのなら、無理強いするわけにはいかない。


「私の家は、父が高踏だから、文句は言いません」


 我妻が先に答えて、辻も「ウチも公立なら構わないって言われています」と答えた。


「前も言ったけど、来年は私が監督で、佳彰がヘッドコーチ、彩夏がデータ部長。兄さんは単なる補欠選手」

「へいへい、では来年は頼みますよ、新監督」


 陽人は呆れ笑いを浮かべて、投げ槍気味に答えた。

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