8月6日 15:47
後半26分、北日本短大付属が1点を返した。
ロングボールに高踏のセンターバック二人武根と道明寺が重なってしまい、揃ってクリアミスしたところに途中出場の下橋拓斗が詰めたのである。
「やっぱり6月組はまだ辛いね」
高踏ベンチの陸平は淡々とした様子だ。
6点リードしているから、という余裕ではない。
仮にこの状況から逆転されたとしても、それは仕方ないことである。
「南羽と櫛木も含めて、できない連中ではないけど、やっぱり習熟度に問題ありだな」
立神も落ち着いて眺めている。
「しかし、監督もグラウンドに入ってしまったけど、ここから先、指示はどうすんの? というより、副監督は来ないの?」
「副監督?」
浅川がけげんな顔を向けた。陸平が答える。
「陽人の妹だよ。結菜ちゃんっていう可愛い子」
浅川がびっくりした。
「えっ、結菜が高校まで来ているんですか?」
「うん。ほぼ毎日来ているよ。映像研究会の辻君と我妻さんって子達と一緒に色々録画とかしてくれて、とても参考になっている」
「確か今日は模試があるって言っていた」
瑞江の言葉に、陸平も立神も「それは仕方ない」と頷いた。
「あちゃあ……、またあの二人、やってしまった」
瑞江の溜息。
今度は道明寺と南羽の間でパスミスが発生し、それを再び下橋に取られて失点した。
スコアは7-2。残り15分なのでさすがに逆転までは行かないだろうが、まだまだやられそうな雰囲気がある。
「北日本も大分バラバラになっているけれど、それ以上にこっちのミスが増えてしまっているな」
「仕方ないよ」
陸平が立ち上がって、ピッチに声を出す。
「落ち着いていこう! 自分のやるべきことに集中!」
つられて、ベンチのメンバーも「頑張れ!」とか「落ち着け!」と声を出す。
「最後に入った3人は厳しいですね」
浅川が顔をしかめる。
確かに、道明寺、南羽、櫛木は失点にも絡んでいるし、良いところがほとんど見えない。
「個人としてダメってことはないと思うんだけどね。道明寺君は今でこそ慌てているけど、練習ではパス出しできているし、南羽君と櫛木君も身体能力は高いから」
南羽聡太は野球部、櫛木俊矢はラグビー部に入っていたが、それぞれ方針や人間関係がうまくいかず退部した。
そこに道明寺がサッカー部にポンと入ったという話を聞き、移ってきた者同士である。
技術面でも戦術面でも難はあるが、南羽はスタミナが豊富で、櫛木はパワーとスピードがある。
「深戸学院みたいな強豪校ならいらないってなるんだろうけれど、僕達、高踏はそうはいかないからね。彼らだって、来年には貴重な戦力になっていると思うよ」
「やっぱり高踏くらいだと、選手集めは大変なんですね」
「そうだね。ここには偶々達樹と翔馬がいるから、うまくいっているように見えるけどね」
「陸平さんだって凄かったですよ。いや、確かに、みんな凄いですよね……」
「そうそう。相手は二軍だけど東北の強豪でしょ。こっちは中堅くらいの公立高で全員1年だからね。前半が良すぎただけで、後半の状況も立派なものだよ」
後半30分を過ぎると、互いに間延びしはじめ、北日本短大付属のボールキープが長くなる。
高踏は第一プレスのポイントをハーフラインまで下げて、どうにか対応しようとする。
10分ほど持ちこたえていたが、後半2得点の下橋が最後に魅せる。
「おっ?」
中盤で前を向くと加速して陽人をかわし、ペナルティエリア内に入って道明寺、武根と連続でかわして、ゴールキーパーの須貝までかわして無人のゴールに蹴り込む。
「すげぇ!」
4人抜きのゴールに、北日本ベンチはもちろん、決められた高踏側も歓声をあげた。
「ナイスゴールなうえにハットトリックじゃん! あいつ、すげえな! あ、あいつじゃなくてあの先輩だった」
ホワイトボードには20番・下橋拓斗(2年)と書いてある。先輩だ。
「いや、瑞江さんだってハットトリックしているじゃないですか」
真面目に驚いている瑞江に、浅川が笑いながら突っ込んだ。
その4分後、五十嵐が試合終了のホイッスルを吹いた。
高踏高校 7 – 3 北日本短大付属
得点者
(高踏)瑞江3、立神、芦ケ原、戸狩、鹿海
(北日本)下橋3
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます