8月6日 15:06
後半も高踏のハイプレスから始まった。
ただ、陽人の目には前半ほど効いているようには映らない。
理由は大きく二つ。
まずは北日本短大付属が前半で慣れたということがある。
もう一つはメンバーをかなり替えたので、ボール回しやプレス精度が落ちていることがある。特にサッカーIQの高い瑞江と陸平が下がったことで、最初の起点と攻守のリンクが前半ほどしっかりしていない。
そこまではメンバー交代の時点で承知していたことだが、更にもう一つの問題があるように見えてきた。結果、全体の動きに円滑さを欠くようになる。
ただし、北日本短大付属も前半の5失点を少しでも取り返したいという意気込みが強すぎるようでパスが空回りしている。力んで乱れてしまうのだ。
後半から入った
一進一退の状況のまま5分が経過した。
「膠着状態だな……」
ベンチに座っている瑞江が水を飲みながら、隣の颯田と話をしている。
「純と希仁はともかく、優貴のポジショニングが甘いな。そこが逃げ道になって、余分に走っている感がある」
「純にしても、達樹と比較したら一歩遅いように思うけど、優貴はちょっとまずいかなぁ」
二人の会話に、陽人も頷く。
現在、3トップの配置は左に稲城、中央の
鹿海と篠倉は共に長身だが、中央に向いているのは篠倉というイメージがあった。
バスケットボールでセンターをプレーした経験もある篠倉は身長188センチ。競り合いにも強いし、足が長いので少しズレたボールでも受けられる。
やや古典的なCF。基準点として機能できるタイプである。
一方の鹿海は前線では鋭角的に動いて一気にゴール前まで向かいたがるタイプである。長身だがポストプレーや基準点的なプレーは苦手で、一気に上がらせて長身を利してのヘディングなどをさせた方が良い。
そのため、篠倉が中で基準点となり、外から鹿海を走りこませる方が良いのではないかと考えたが、この配置は相手がボールを持つ局面でまずいことが分かった。
相手最終ラインにボールがある場合、中央の篠倉はきちんとプレスをかけ、左の稲城もそれに応じてきちんと動く。一方で鹿海のプレスは雑だ。だから、右側に流されると相手に僅かだが時間の余裕を与えることになり、それまでの間の味方の動きが無駄になってしまう。
特に鹿海に合わせて動くことになる篠倉や鈴原は、その分の動きなおしを連続して強いられることになり、僅かずつではあるが余分な消耗を強いられる。
「……これは良くないな」
ボールがラインを出て、高踏のスローインとなった。
陽人はすぐに立ち上がり、テクニカルエリアまで進んだ。
近くにいる曽根本英司に声をかける。
「英司! 純と優貴に、ポジションを替えるよう伝えて! 中に優貴で、純は右!」
「おう!」
「あとプレスの開始点は5メートルほど下げよう」
「了解」
曽根本がすぐに中にいるメンバーに伝えた。
精度の低い鹿海に最初に行かせれば、それに応じて修正できる感覚が稲城と篠倉には備わっている。
更にプレスの起点を下げて残りの9人をコンパクトに集めれば、鹿海の守備面の問題をある程度は補えるのではないかという意図だったが、これが思わぬ副産物を生む。
スローインで鹿海が中に入ったことで、相手はロングスローを警戒したようだ。鹿海と篠倉にディフェンダーがつき、高さを意識する。
「こっちだ!」
気づいた鈴原が素早く動き、エリアのすぐ外にいた
後半から入った戸狩はスタミナが無いという弱点があるが、それを補って余りある技術と瞬発力がある。マーカー二人を一瞬で切りかわしてエリア内に入り、他のDFが詰めてくる前にすぐシュートを放った。
長身二人についていたディフェンダーが反応する間もなく、シュートはゴール左隅に突き刺さった。
後半最初の得点。トータルでは6-0。
「これは……、0-0でやったなら神采配なんて言われるかもね」
陸平が茶化すように言い、周りが全員笑った。
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