8月6日 14:54
前半終了の笛を聞き、夏木は大きく溜息をついた。
「どうしたの? 随分と点を取られたじゃん」
後ろから声がしたので振り返ったら、真田がいる。
「何でこっちにいるんですか。自分のチームを見ていてくださいよ」
この点差なので余裕ムーブを見せられているのか。一瞬カチンとなるが、真田は「いやいや」と首を横に振った。
「俺は何もしていないんだって。チームは天宮含めて生徒たちが勝手にやっている」
「学生達だけで!?」
驚いたが、確かに前半の間、真田がベンチで何かをしている様子は見ていない。リードしている高踏側は特にやることもないとはいえ、時々テクニカルエリアに出ていたのは背番号8をつけた選手だったのは記憶にある。
「本当なんですか?」
とはいえ、現在、高踏ベンチはその背番号8が話をしていて、全員真剣に聞いている。
(高校一年生が、監督……? そんなチームに前半だけで5点取られたのか?)
とぼとぼと元気なく戻ってくるメンバーを集める。前半は主審をやっていたもう一人のコーチ五十嵐とともに善後策を考えるが、練習試合のうえにこの点数だとできることはほとんどない。
「正直、我々は相手を舐めてしまっていた。とんでもない相手だった。ただ、これも経験だ。前半のことは忘れて、後半はしっかり強豪だと思って、これまでやってきたことを行うこと」
「はい!」
気を引き締めようと思った時に、嫌なものが来た。
一軍コーチの土屋からメッセージが届いたのである。
『今、深戸学院との前半が終わって1-1。そっちは?』
悪意はないのだろうが、返事をしなければならないとなるとへこむ。
とはいえ、そのメッセージで思い出したことがある。
夏木は『こちらは5-0。コテンパンにやられている』と返事し、真田の方に振り返る。
「先輩、高踏のマネージャーらしい子が試合を録画していますが、あれ、こちらにもくれないですか?」
一軍の試合は録画しているが、二軍ということもあって、また、相手が弱いと踏んでいたこともあって全くそうした準備をしていなかった。
個人で撮影している選手もいるが、少し見下ろす形で撮影している高踏のマネージャーの方が良いものを録画しているはずだ。
欲しい理由は二つある。
まずは負けたことの言い訳として。
深戸学院に行った一軍側は、こちらの対戦相手を「名前も知らない県立高」という認識でとらえている。少なくともそうではなかったのだ、ということを証明する必要があった。
二つ目は反省材料として使うためである。
やられたことは仕方ない。
自分達の課題をあぶりだすためにも、また今後のためにも、試合の映像が欲しい。
「録画? ちょっと待ってくれ。聞いてみる」
真田は「天宮~」と声をかけた。呼ばれた生徒が「何ですか?」と走ってくる。
「高梨と卯月が撮影している映像、北日本も欲しいって言っているんだが……」
「構いませんよ。容量デカくなりますんで、記録媒体をもらっていいですか?」
天宮の答えに、夏木はメモリーカードを探す。
「あと、すみません。ウチ、後半、ゴールキーパーを前に出すんですけど、あいつは元々フォワードもやっている奴なので、舐めて変えたとかそういう交代ではないです」
ピッチを指さして弁解をしてきた。
「あ、そうなんだ。全然気にしないよ」
答えて、夏木はピッチを確認した。中にいる高踏のメンバーに「うっ」とうめき声をあげる。
前半、大活躍していた6番、7番、11番の三人がいない。
お役御免ということだろうか。そちらの方がプライドに響いてくる話である。
しかし、夏木は別の可能性も考える。
もし、後から出て来る選手まで優秀であったとすれば。
このチームは真に脅威となってくるかもしれない、と。
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