8月6日 14:48

 ハーフタイム。


 陽人は、左手で髪をかきむしりながら、全員を出迎えた。


「……いや~、正直、ここまでうまくいく展開というのは予想していなかった」

「そうだね。これだけポポポーンと点が入るのは予想外だったね」


 陸平がスコアを見て同意する。


「どうする? 後半はメンバーを変えてもいいんじゃない?」

「それは同感なんだが……」


 貴重な練習試合である。もちろん全員使いたい。


 とはいえ、一つ気がかりなことが陽人にはある。


「優貴を前線で使うのは、まずいかねぇ」


 GKの鹿海優貴は中学時代FWもプレーしていたというから、後半はフィールドプレーヤーにしようと考えていた。


 しかし、これだけリードしている段階でGKを前に出したら、相手から「あいつらは自分達を馬鹿にしているのか」と思われるかもしれない。


「大丈夫でしょ。監督が陽人の時点で、相手を馬鹿にしまくっているし」


 陸平の身もふたもない指摘に、皆が笑う。



「それもそうだな。プラン通り進めるとしよう」


 陽人はノートのフォーメーションに修正を加える。


「GKは康太に交代、優貴は五樹に変わって前線に。達樹に替えて純。怜喜は真治と、徹平は駆に、翔馬は護に交代だ」

「あれ、三人とも下げるの?」


 颯田が不安そうな声をあげた。


 5点リードしているとはいえ、それは瑞江、立神、陸平の大きな貢献によるところであることは敵・味方とも全員分かっている。後半はまだ45分ある。逆転される危険性を考えればできれば残しておきたいが。


「最初に言ったけど、勝ち負けは目的じゃないから。全員が実戦経験を積むことが大切だから、後半のスコアは気にしなくていい。とにかく、前半と同じでやるべきことをやる。技術的なミスは気にしなくていいけど、動きのミスや勘違いは各自気づいたら指摘しよう」

「オウ!」


 後半出場予定のメンバーが一斉に叫ぶ。


「後半25分まで行けば、大地にところに尚、隆義のところに聡太、希仁は俊矢と交代だ。展開によっては俺も入るかもしれない。耀太は悪いけど、負傷者用に待機。あとは一応、雄大も」

「……分かっている」


 園口は小さく咳をしながら答えた。本来は左サイドバックとして出る予定だったが、コンディション不良である以上は仕方ない。全員交代した後に怪我人が出た場合に備えるだけで、基本お休みの予定だ。


 道明寺尚どうみょうじ なお南羽聡太なんば そうた櫛木俊矢くしき としやの三人は六月以降にクラブに入った後発組であるため、練習理解度がまだ追いついていない。


 この三人を後半フルで出してしまうと、完全崩壊の危険性がある。


 少なくとも後半途中まではチームの秩序を保ちたいから、終盤の交代である。



 そこから先が予想外に酷くて大逆転を食らったとしても、それはやむをえない。



 高踏高校・後半メンバー

 GK 鹿海⇒須貝康太

 DF 曽根本英司

 DF 石狩⇒武根駆

 DF 林崎大地(道明寺尚)

 DF 立神⇒久村護

 MF 陸平⇒戸狩真治

 MF 鈴原真人(天宮陽人)

 MF 芦ケ原隆義(南羽聡太)

 FW 稲城希仁(櫛木俊矢)

 FW 瑞江⇒篠倉純

 FW 颯田⇒鹿海優貴



「そういえば、先生はどこにいるんだ?」


 立神が顧問の真田が自分側のベンチにいないことに気づいて、反対側のベンチを向く。


 相手コーチ夏木と何か話し合っている姿がそこにあった。


「顧問らしくしろとは言わないけど、ハーフタイムに相手ベンチに行く顧問ってどうなのよ」

「本当だよ」


 立神の言葉に、また全員が笑った。

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