6月17日 12:00
陽人はコーチ陣の動きも見ていたが、特に指導らしい指導はしていない。
むしろ、スポーツドリンクや飲み水をこまめに提供するなど、マネージャーのような働きをしているように見える。
「新一年生候補はお客さんだから、この時点ではあまり指導めいたことはしないのかな」
「そうだな。この段階であまり厳しいことを言ったら、来てくれないからな。今の俺は分かるけど、去年の俺は分からなかった」
宍原がそう言って笑った。
「それに一日で分かるものでもないだろうし、な」
宍原のその言葉には同感であった。
グラウンドで行われているのはミニゲームのみであり、参加していない選手達はコーチから説明を受けたり、練習場を回ったりしている。
これでは、スキルや体力の良し悪しは分かるかもしれないが、その学生がどういう選手であるかを見極めるのは不可能と言っても良いだろう。
再びピッチに目を向けると、浅川光琴が機敏なプレーを見せている。
ポジションは前の方で、結構背が高い。180前後はありそうだ。
スキルもかなりありそうで、スピードもある。中央少し左寄りの位置から何度も突破を図り、チャンスを演出していた。
「天宮さんの知り合いの人、中々凄いですねぇ」
一緒に見ている稲城にも印象的なようだ。
30分のミニゲームが終了し、参加者それぞれにドリンクが配られていた。そこから練習場の案内になるようだが、浅川がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「天宮のお兄さんじゃないですか?」
どうやら、向こうもこちらを覚えていたようだ。当時は妹の友達ということで挨拶くらいしかしていないが、こういう場面で挨拶されると少し嬉しくなる。
「久しぶり、浅川君」
「天宮さんも、深戸学院にいたんですか?」
「いや、そうじゃなくて、誘われて見に来ただけ」
陽人は谷端と宍原の二人を指さした。二人も逆に陽人を指さす。
「こいつ、今、高踏高校で監督やっているんだよ」
谷端の説明に、浅川は目を丸くした。
「監督!? あ、そういえば、高踏って藤沖さんが事故で宙に浮いているんでしたね」
「そう。復帰するまでの代わりを探すのは難しいし、去年までの高踏は弱いところだから先輩は全員引退。一年軍団の監督をしている。これで良かったっけ?」
「そうだな」
「そうなんですか。大変ですね」
浅川が同情するような顔になった。
「いやあ、別にプレッシャーもないし、楽しんでいるけどね」
陽人の回答に、谷端と宍原も乗ってくる。
「それに結構面白いことやっているんだ。こいつのところ。今度あれだろ? 8月6日に北日本短大付属の二軍と試合をするんだろ?」
「8月6日だっけ?」
8月に試合をすると聞いていたが、正確な日時は聞いていない。
ただ、一軍が深戸学院と試合をして、二軍が来るというから、多分同日だろう。
「そうだよ。というか、自分のところの試合スケジュールくらい押さえておけよ」
「いやあ、まだ一試合もしていないしさ。藤沖さんもいないし、練習試合も中々組めないよ」
「あれ、総体の県予選はなかったんですか?」
浅川が目ざとく気づいて、痛いところを突いてきた。
陽人は苦笑しながら答える。
「エントリー期限までに出さなかったから、不出場」
「あちゃあ……」
「選手権の登録はさすがに済んでいる」
「いや、それって当たり前ですよ。書類出し忘れて、参加資格ありませんでしたなんて聞いたことがないですから」
耳に痛い指摘である。
「もしかして、天宮も高踏に行くんですか?」
「結菜? どうだろう? 聞いたことがない」
と言いつつも、成績さえ問題がなければ、多分辻、我妻らとともに来るものだろうとは思っている。
思っているのだが、そう決めつけるのも危ういかもしれない。
実際、浅川は深戸学院に入学するつもりのようだ。結菜もできれば強いところの方が良いだろうから、深戸学院の進学部に切り替える可能性もなくはない。
彼女達が仮に来ないとなると、データ管理の面で来年以降非常に大変なことになる。マネージャーの二人卯月と高梨にそこまで求めるのは酷だ。
一度、聞いておいた方がいいのかもしれない。
陽人はそう思った。
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