6月3日 12:15

「センターバックはどうします? 林崎さんと武根さんでしょうか?」


「展開力のある林崎さんに、高さのある武根君というわけね」


 結菜と我妻のやりとりに、卯月が入る。


「一番速いのは石狩さんではないでしょうか?」


「石狩さんは左利きだから、左側のセンターバックに向いているというのもありますね」


「ただ、石狩さんは高さには難ありでは......」


「高いというよりヘディング面では武根さんしかいないというのがありますね」


 いわゆるディフェンダー登録は、曽根本、石狩、林崎、武根、道明寺である。ここに中盤もできる久村も入りうる。




 ディフェンダーの重要な素質の中にはクロスボールやロングボールに対する高さや強さが問われる。ほとんどのチームにおいて、もっとも高い選手はレギュラーのセンターバックにもっとも近い存在である。


 高踏のDFは高さという点では難があった。入部まもなくで能力的に未知数な道明寺を除くと、県内の平均を超えるだろう存在は武根くらいで、他は平均以下である。


 ポジションを問わなければ、193センチの鹿海と、188センチの篠倉がいる。ただし、この二人とも他の守備的な素養が低い。いくら何でも高さだけのためにこの二人をコンバートまではできない。


「天宮君のコンセプトはハイボールを競ってどうこうじゃないからね。地上戦に徹して、高さは完全に捨ててしまうという見方もあるにはあるけど」


 甲崎の発言に、全員「うーん」という顔になる。


 彼の言う通り、前から守備をかけて相手にきちんとしたパスを出させない考え方を徹底すれば、中央に高さがなくても大丈夫という理屈にはなりうる。


「でも、さすがにセットプレーもありますし」


 それでも、相手にコーナーキックやフリーキックを全く与えないということは難しい。高さで対抗できないと、そうしたケースでほとんどピンチになってしまう。


「みんな、紙に組み合わせを書いて、それで決めてみようか」


「そうですね」


 甲崎の提案に全員が賛成した。紙を切って、それぞれに渡して、めいめいが記入する。


「ごめん。俺はそこは分からないので」


 顧問の真田だけは辞退したが。




 5分後には全員が書き終わったようで、一斉に開く。


 結菜と卯月が「石狩、林崎」、我妻と辻、高梨が「林崎、武根」、甲崎が「石狩、武根」という取り合わせだった。


「6人中5人が林崎君を選んでいるから、彼は決まりだ。残りは4人が武根君だから、この2人になるかな」


「そうですね。是が非でも石狩さんでなければならないというわけではないです」


 結菜も同意し、データ班とマネージャー班のチームは決定した。


 携帯メッセージで「決まったよ」と送ると、陽人が現れる。



 結菜と我妻から説明を受けた陽人は、「なるほど」と頷いた。


「希仁(稲城)を前線で使うのは考えなかったなぁ。でも、確かに彼の能力は前線の方が活きるかもしれない」


 その一方で、バックラインの並びには首を傾げる。


「これは多少の理想主義もあるけど......」


 と言いながら、陽人が書いた並びは、フォーバックの左に園口、右に立神、中は石狩と林崎だった。


「左サイドバックに園口さんだと、攻撃的過ぎない?」


「俺もそう思うけど、両サイドに何かができる人を置きたいんだよね。結菜がさっき言った通り、現代サッカーは中央のプレッシャーとスピードが半端じゃない。だから、サイドから組み立てるケースも増えると思うんだ。だから、ボールを扱える耀太(園口)と翔馬(立神)を置いて、状況に応じてサイドから組み立てたい」


「守るためのサイドバックではなくて、攻めるためのサイドバックというわけね」


 結菜が頷いた。


「そう。俺の中でぼんやりと浮かぶ中だと、ゴールキーパーの優貴(鹿海)、サイドの耀太と翔馬、中央で怜喜(睦平)と大地(林崎)がゲームを組み立てられる形になるといいかなと思うんだ」


「監督がそう言うのなら、それでいいんじゃない?」


 甲崎も頷いた。


「せっかく面白いコンセプトを作ったんだ。なるべくそれに従った編成にした方がいいと思う。ただ、スタメンを外れた人にしても、持ち味はあるから出番はあると思うしね」


「それに道明寺も、これから馴染んでくれば別の使い方があるかもしれないし、今後の練習でまた変わってくるかもしれない。ただ、例えば、明日練習試合をしなければならないなら、基本的にはこのメンバーで臨もうと思う。今後も、何かあったら言ってほしい」


 その言葉で、昼休みの会議は終わりとなった。

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