6月3日 12︰00
土曜日の昼休み。
クラブハウスの会議室に、七人の男女が座っていた。
「今日、皆さんに集まってもらったのは、兄さんから現時点でのレギュラーを考えてほしいと言われたからです」
最前列に座る結菜が説明する。
「兄さんも考えているようですが、中からいる自分と、外から見る私達とでは違うかもしれないので、別に決めてほしいと言われました」
「なるほど......」
辻義彰がうなずく。
「私達はあまりそういうものは分からないのですが」
と不安そうに答えるのは卯月亜衣であった。隣にいる高梨百合も頷いている。
マネージャー2人は、もちろんルールくらいは知っているが、詳しいわけではない。中学生の映像研究会のように分析しているわけでもないので、自信なさげである。
「それでも、近くから見ているから分かることもあると思います。彼はさぼっているとか、誰かの悪口を言っていたとか、タバコ吸っていたとか」
「例がことごとくネガティヴなんだけど」
辻が苦笑した。隣の我妻彩夏も同じである。
残る2人は、クラブ顧問の真田と、主将の甲崎である。
顧問とはいっても、いるだけで活動をほとんど見ていない真田と、主将とは言っても引退状態の甲月。ただ、この2人だから知っていることもあるかもしれない。
「まずチームの形ですが、基本的に心臓部を睦平さん、前線の柱が瑞江さん。右サイドに立神さんを置くということは間違いないと思います」
「異議ありません」、「同じく」
結菜の言葉に辻の我妻が賛成し、残りの四人も同意する。
「ゴールキーパーは大きさと足元をとるなら鹿海さん、トータルで行くなら須貝さんだけどどうする?」
「チームコンセプトから行くとやはり鹿海さんですね」
「一番上手い鈴原さんも欠かせないと思います」
初めて卯月が提案した。
「あとは運動量が圧倒的な稲城さんと、スピードのある颯田さんも欠かせないと思います」
甲崎がノートにフォーメーションを書いていく。
「中盤は睦平君に鈴原君、ボールハンターとして稲城君という3人を中に置くのが良さそうだね」
「それなんですけれど......」
結菜が少し申し出にくそうに切り出す。
「かつては中盤にボールハンターを置くのが一般的でした。エドガー・ダーヴィッツとかクロード・マケレレとかエンゴロ・カンテのような技術がなくてもひたすら守れるような選手です」
「そうだね」
「ただ、現代では中盤の密度・速度がかつてより上がっています。そこからすると、ボールコントロールに疑問のある稲城さんを中盤に置くのはリスクが大きくなるのではないかと思います」
「......とすると、どこに置くの?」
「私なら前線に起きたいです。稲城さんの追い込み方は独特ですが、すごく効果が高いですし、ファーストディフェンダーとして頑張ってもらいたいと思います。あとはスピードもあって縦への推進力も強いので、ボール奪取後に抜け出してもらえる使い方もできるはずです」
「でも、稲城さん、シュート練習は全くしていないですよ?」
卯月が言うように、稲城はシンプルなキック練習を徹底していて、シュート練習の類はまったくやっていない。
「使い古された言葉ですけど、ゴールにパスする感覚で良いのではないかと思います。あとは切り込んでパスという形でも良いですし」
結菜が説明をすると、甲崎も頷いた。
「練習をしっかり見ている結菜ちゃんが言うのならそれで良いと思う。となると、中盤の残りは誰になるのかな?」
「キープ力という点では園口さんがいいかなぁ」
辻の提案。
「スピード面はともかく、スタミナもあるし、やっぱりセンスもチーム内では高いし」
「義彰に同感です」
我妻も答える。
「ただ、園口さんの現状のスピードでは左サイドをカバーできる人が必要になって、必然的に曽根本さんが入ります。となると、フォーバックにして、立神さんを右サイドにする形になるのではないか」
我妻の提案を受けて、結菜がホワイトボードに記入していく。
前線は、稲城、瑞江、颯田
中盤は、園口、睦平、鈴原
最終ラインは、曽根本、CB、CB、立神
GKは鹿海。
という布陣が出来上がった。
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