5月21日 11︰55
翌日、再度やってきた大溝夫妻に対して、ほとんどのメンバーが一週間何を食べて来たかを提出した。
「よし、これは夕方までにチェックしておこう」
そう言って、今日のメニューが始まった。
「繰り返しになるが、現時点でのおまえさん達はサーキットトレーニングを繰り返して90分しっかりと動ける体を作る方がいい。パワーはその後だ」
午前の部のトレーニングが始まった。
二日目ということで慣れていることもあるのだろうし、園口の件で信用していることもあるのだろう。昨日よりも集中してできている。
特に園口は、昨日サーキット系のメニューをしていなかったため、より集中して取り組んでいた。
11時半になると、大溝が満足そうに頷いてトレーニングを止める。
「みんなよくできているじゃないか。おまえさん達はサッカーを色々考えながらやっているようだが、トレーニングも同じだ。このトレーニングは何のためにやっているのか、それを意識する、しないで、効果がものすごく変わってくる。漫然とやるのではなく、意識してやることが大切だ。それでは昼休憩」
昼休みの宣言に、全員が弁当を取り出した。日曜なので学校は空いていないため、この日は全員が弁当持参である。
大溝夫婦も弁当を取りにワンボックスカーに戻った。
そこに一人近づく者がいる。稲城希仁だ。
「朝、うっかり取り出し忘れたんですけれど」
そう言ってメモを提出してきた。大溝は苦笑する。
「おまえさんは大丈夫だろう? まさかボクシングをやめて、コーラをがぶ飲みしてますなんてこともないだろうしな」
軽口を叩いて、表をちらっと見て口笛を吹く。
「完璧だねぇ。おまえさんのお母さんは本当にたいしたもんだ。しかし、ボクシングはもうやんないのかね?」
「やりたいはやりたいですけれど、サッカーもサッカーで面白みがありますからね。大学に入った時に、また考えればいいかなと思います」
「そうか。でも、両親はおまえさんに裁判官になってもらいたいと思っているんだろう? また別の選択も出て来るな」
「そうですね」
稲城は弁当も持ってきていた。ワンボックスカーの近くで開いて食べ始める。
「サッカーをやって分かったこともあるんですよ。考えることって大切なんだなと」
「今まで考えずにやってきたんかい」
大溝がまた苦笑した。
「そんなことはないと言いたいのですが、実際考えていませんでしたね。試合していて、相手のガードが空いた場所に強いパンチを打ち込めばいいと思っていて、それが簡単に出来たわけですので」
「それが簡単に出来るんだから、やっぱりおまえさんは天才と言うしかない」
「サッカーだとそうはいかないんですよ。瑞江さんや鈴原さんはどんな蹴り方でもできますが、私は簡単なキックで正確につなぐしかありません。でも、ボクシングでも『左(ジャブ)を制するものは世界を制する』とも言うし、簡単なキックも馬鹿にするものでもないだろう、と」
ああ、そうだ。大溝は頷いた。
「中途半端にあれこれ試すよりかは、一つを徹底的に極めた方がいいんだろう。おまえさんの場合は、スピードやスタミナはけた違いだ。できることとできないことを見極めて、できることをきちんと活かす。それで十分だろう」
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