4月10日 17:30

 入学して最初の月曜日。


 すなわち、学校生活が本格的に始まる一日である。


 この日から、学校は7限まで行われ、部活動が行われるのはそれ以降となる。


 つまり、16時半スタートだ。



 ここまで入部している17人に、新しい生徒が3人入った。


 ……のであるが。


「あれはダメそうだな」


 一時間ほど経った頃、近くを通った立神翔馬がボソッとつぶやいた。


 陽人も無言だが、同意見だった。


 どうやら、藤沖監督がいないことで現場を一年坊主が見ているという噂が広まっていたようで、冷やかし半分にやってきたようだ。

 明らかにレベルが低く、最初の基礎運動や体幹運動の段階で「こんなのは聞いていないよ」という不機嫌そうな態度をしている。


「筋力は成長度合いにもよるから、いきなりつけすぎるとマイナスになるかもしれないからね。当面は体幹トレーニングがメインになるから、このくらいは普通にやってもらわないと困る」


 陽人の視線の先には、涼しい顔でより厳しい姿勢をとっている陸平の姿がある。


 結局、三人は腹痛を訴えて次々と去っていった。




 近くで見ていたわけではないだろうが、三人の新参者が姿を消したところで。


「お待たせ~」


 結菜が、二人の男女を連れてきた。


「別に待っていないけど?」


 中学からここまで自転車でやってきたらしい。それはいいのだが、何のためにわざわざ高校までやってきたのかが分からない。


「何ぃぃ? せっかく助けに来てあげたのに、そういう態度をとるわけ?」


 明らかに不機嫌な顔になった結菜に、二人が苦笑いを浮かべた。


「天宮先輩、こんにちは」

「あぁ、こんにちは。君が辻君に我妻さん? いつも妹が世話になっています」


 初顔ではあるが、おそらく結菜がよく名前をあげている映像研究会の技術系生徒の二人だろうと考え、その予想は当たっていた。


「いえいえ。結菜がいるから、映像研究会には人が集まってきますので」


 辻佳彰が答えつつ、辺りを見回している。少し離れたところにある木に目を止めた。


「あの木にカメラを設置しても良いですか?」

「構わないけど、何をするの? 防犯カメラ?」

「何が悲しくて、サッカー部に防犯カメラを設置しなきゃいけないのよ。プレー映像を録画するために決まっているでしょ」


 結菜が「バカじゃないの?」と言い、我妻彩夏が「まあまあ」と笑う。


「せっかくですので、サッカー部のメンバーと、メトロポリスの布陣がどうなっているかをチェックできればと思っていまして」

「そこまでできるんだ?」

「いえ、私たちも自信はないですけれど、実験してみようかなと思います」

「そうなんだ。頼もしいな」


 陽人は感心した。周囲で聞いていたメンバーも驚いている。


「ということは、自分たちがどうプレーしているかを毎日チェックすることになるわけ?」

「はい。個人のプレーなどももちろん映像にしたいですが、全体の動きもしっかり確認できればと思います。今やプレーを映像で解析するのは当たり前ですからね」

「確かにそうだけど、君達は今年受験でしょ? いいの?」

「かまいませんよ。文化祭でこういうことをしていました、と発表したいので」


 辻の言葉に、立神が「やば」と焦った顔をする。


「そんなテーマとして取り上げられるとなると、実はこのチームは一回戦負けでしたなんてなったら恥ずかしいな。せめて一つは勝てるようにならないと」

「本当だな」


 中学三人の来訪で中断していた練習が再開される。


 陽人は、辻と我妻の動きを見ながら、練習全体を監督する。


 そこに近づいてくるものがいた。気配に気づいた陽人は、思わず目を見張る。


「あれ、君は……?」


 やや遠慮がちな様子で近づいてくるのは、温和そうな顔をした中背の少年。


 それは土曜日、颯田が来た後に来るのかと見せかけて、ラグビー部のほうに向かっていった少年であった。

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