4月8日 9︰20

 始動2日目となる8日は土曜日だった。


 学校は休みということもあり、チームも午後からの紅白戦だけの予定である。


 映像の完成予定は日曜日らしい。


 なので、休みでも良かったのだが、前日、鹿海のあとに加わった曽根本英司、芦ケ原隆義の二人が入部してきていた。


 人数が増えたことで、彼らの力量チェックとチーム間の能力確認を行いたいということからまず紅白戦をするということが決まったのである。


 それが午後からとはいえ、陽人は一応主将兼監督である。


 土日とはいえ、入部希望者や見学者がいるかもしれないので朝から出てきていた。


 午前9時時点、陽人は広いミーティングルームで全員の入部届をまとめている。


 一人ではない。その前には、雑誌をのんびり読みたいという理由で早めに来ていた瑞江達樹の姿もあった。紅白戦のことを話題にする。


「鹿海も、曽根本、芦ケ原も全員中学時代に全国に近いところまでは行っているって言うし、どのくらい凄いのか楽しみだな」

「おまえと翔馬がいるから、あまり下手だとまずいしね」

「いや〜、県は広いぞ。俺よりうまい奴なんていくらでもいるだろうし、二人とも俺より凄いんじゃないか......おっ?」


 瑞江が不意に外に視線を向けた。陽人もつられて視線を移すと、長髪の学生がクラブハウスに向かってきていた。


「入部希望者っぽいな」


 瑞江の言葉に陽人も「そうだな」と応じ、昨日作成した入部届と簡単なアンケートをカバンから取り出した。


 程なく、ドアが開く。


「すみません。ここがサッカー部ですか? 俺、入りたいんですけれど」

「ようこそいらっしゃい。それじゃ早速だけど、これを書いてもらえるかな?」


 渡した入部届とアンケートに、学生はすらすらと記入していく。かなり難読な字を書いているが颯田五樹さった いつきと名前を書いた。ポジションはフォワード希望。売りは足の速さとある。


「足の速さというけれど、どのくらい速いんだ? あ、ちなみに俺も陽人も一年だから、堅苦しい言葉じゃなくていいよ」


 瑞江が確認しつつ問いかけた。


「中学時代に走り合いで負けたことはない」


 答える表情は自信に満ちあふれている。走力にはかなりの自信があるらしい。


「ただ、足元の技術には難ありと言われていて、強豪校からは声がかからなかった。藤沖監督の下で力をつけようと思っていたから残念だけど、まあ、仕方ない」

「なるほど。結構キャリア計画考えているんだね〜。俺とは大違いだ」


 瑞江が腕組みして感心している。


「おまえはそういうの考えていないの?」

「俺はバスケットにも未練があるんだよなぁ」

「......身長的にバスケは無理じゃないか? 俺も165だから無理だけど......」


 瑞江も現在171センチ。バスケをやるには低すぎる。


 瑞江は苦笑しながら抗弁する。


「いや、ワンチャン180くらいまで伸びたら......」

「両親の背は高いの?」

「普通くらい」

「じゃ、無理じゃないか?」


 颯田の容赦ない言葉に、瑞江はガックリ頭を落とした。


「でも、達樹は理想的な条件ならダンクもできるんだよ」


 陽人がフォローを入れると、颯田が「それはすげぇ」と驚いた。


 ただ、理想的な条件ならということは、邪魔が一切ない状態でダッシュして理想的な距離からジャンプした場合だ。実際のバスケットの試合で、そんな展開はほとんどないだろう。


「ま、本人が希望する才能と、違う方面に才能が特化していることは午後になれば分かるんじゃないかな。おっと、もう一人来た」


 ジョギングで駆けてくる生徒を確認し、陽人は更に一枚、入部届を準備した。

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