高校一年編

始動・メンバー集合

4月7日 12:50

 4月7日。


 入学式が終わると、陽人は学校を出て、山の方にあるグラウンドへと向かった。


「おーい、陽人ー!」


 呼び止める声に振り返ると、同じ中学で一緒だったメンバーも勢ぞろいして向かってきている。


 3月27日に甲崎から監督を選ぶ方針を聞いて10日以上が経っていたが、陽人も陸平もこのことを他のメンバーには話していない。


 4月になったら話が変わっている可能性もある。変に「陽人が監督役だ」と思わせて、そうでなかったら困る。


 実際に甲崎や顧問となる真田の口から方針が語られてから動く。

 そう決めていた。



 サッカー部のクラブハウスに入ると、甲崎と30前後のスーツ姿の男がいた。


 スーツ姿の男がまず自己紹介を始める。


「顧問の真田順二郎だ。ただし、藤沖先生が退院して、通常の生活に戻るまでの間のリリーフであって、サッカーについては詳しくない。もちろん安全面など最低限の管理はするが、競技的なことについては、君達に任せたいと考えている」


「主将の甲崎恭太です。27日に天宮君と陸平君には話しているけれど、僕達上級生は君達のレベルに達していないと思う。素直に引退して、受験に専念したいと思うから、一年の君達が運営するといい」


 方針は、以前と同じだった。


 陸平が前に進み出る。


「27日に聞いていたけれど、ひょっとしたら入学までに方針が変わるかも、と思って、みんなには言わなかった。それはすまない。で、僕の考えだけど、チームのことは陽人に任せるのがいいんじゃないかと思う。陽人は中学時代にも地元地域でメンバーや作戦を決めていたというし、性格的にもリーダーに向いていると思う。どうだろう?」


 そう言って、陸平は全員を見渡した。


 陽人が周囲を見渡すと、全員、突然の話で戸惑っているようだが。


「まあ……、確かに陽人は中学でもキャプテンだったし、監督でもいいんじゃないかな」


 高踏中学のメンバーはすぐに同意し、久村、鈴原の二人も「怜喜が言うなら」と同意した。



「じゃあ、ひとまずは天宮君で決まりだね」


 甲崎の言葉に一同が頷く。


「ただ、この後も入部してくる新入部員がいるかもしれない。喧嘩にはならないと思うけど、あまり揉めないようにしてね」


「分かりました」


「それじゃ、僕はこれで」


 甲崎はお役御免とばかりにそそくさと部屋を出て行った。



 陽人が全員の前に出る。


「えぇっと、正直、27日に怜喜から言われた時にはびっくりしたけど、誰かが監督をやらなければいけないんだろうし、俺が引き受けることにした」


 ペンを取って、ホワイトボードに近づく。


「この十日間ほど、どういうチームを作るか考えてみた。当たり前だけど、俺は指導者の経験とかそういうものはないから、他の高校のようなことはできない。ただ、こういうチームにしたい、という希望はある」


 全員、黙ってホワイトボードと陽人の中間あたりに視線を向けている。


「とことんまで前へ向かうサッカーだ。相手がボールを保持している時には即時奪取を狙う、ボールを保持したらスペースを狙う。スペースを攻め切ったらゴールを狙う」


「プレミアの強豪みたいなサッカーだな」


 立神翔馬の言葉に頷く。


「もちろん、そんなにうまく行けば誰も苦労はしないと思う。当然、リスクも大きいから莫大な失点を積み重ねることもあるかもしれない。ただ、どうせ分からないなら、欲張ったことをしてみたいと思う。三年間、よろしく頼むよ」


 陸平が手を叩いた。すぐに全員が続いて、一斉に拍手に包まれた。

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