3月27日 14:35

 昼食を食べ終わった後、陽人は陸平と別れて家に戻った。


 中に入ると誰もいない。結菜は中学校に行ったようだし、両親は当然仕事である。


 一人しかいない居間でテレビをつけた。ネットにつなげてプレミアリーグの試合に合わせる。


 録画放送のマンチェスター・メトロポリスとベルグレイヴィアFCの試合が始まった頃、玄関から音がした。


 ただいまという軽やかな声がして、すぐに結菜が入ってくる。


「あれ、それ先週の試合だよ?」


「知っている。俺は観ていないから」


「ふーん」


 結菜はコーヒーを作り始めた。朝も飲んで、おそらく昼ごはんの時も飲んでいるはずだ。恐らく夜と寝る前にも飲む。しかもブラックで。


 妹の、ここまでのコーヒー好きはさっぱり理解できない。


「……そういえば、サッカー部がどうなるのか聞いてきたの?」


「聞いてきた」


「監督は?」


「……俺かもしれない」


 陽人の返事に、結菜は「はぁ?」と間の抜けた、しかし、当たり前の反応を示す。


「藤沖監督が戻るまでは、サッカーを知らない教師が顧問になる予定で、サッカー部内で監督を決めるってことになった。ただ、上級生はあまりやる気がないから一年から選ぶことになりそうだ」


 結菜はすぐに合点がいったようだ。ハハンと声をあげた。


「上級生は藤沖監督が来るなんて思ってなかったし、必死にサッカーをやりたくないってことね」


「そういうこと」


「で、一年から選ぶんだったら、兄さんになりそうだ、と。あ、お湯が多かった。兄さんも飲む?」


「二杯飲めばいいんじゃないか?」


「ケチね~。で、監督になりそうだからマンチェスター・メトロポリスのやり方を勉強しているというわけね」


「無茶を言うな」


 マンチェスター・メトロポリスは世界でも屈指の富豪が抱えるチームであり、世界中の名選手が揃っているチームである。


 これまでよりは有望株が来るかもしれないとはいえ、日本の県立高校とは所属選手のレベルが違い過ぎる。竹やりで戦闘機に挑むくらい無謀なことと見えた。


「でも、監督になってやりたいことはないんでしょ?」


「当たり前だろ。高校に入学したばかりだぞ。指導者が何をするのかもさっぱり分からん」


「どうせ分からないんだったら、思いっきり上に挑戦してみたら? それで失敗したら、別のことをすればいいんだし」


「……」


「もうすぐメトロポリスが先制点を取るよ」


「馬鹿! 言うな!」


 陽人が文句を言う横で、ガーランドが豪快に左足でけり込んだ。


「……」


 背丈も体格も全く違うが、エースストライカー候補の瑞江達樹もまた左利きである。


 リプレイの姿が一瞬、瑞江ともかぶった。

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