3月27日 13:15

 陽人と陸平は、高校を出るとそのまま駅の方へと向かった。


「クラブハウスに立派な食堂はあったけれど、食事はどうするんだろうね? 作ってくれる人がいると有難いんだけど、そこまでは難しいかな」


 そんなことを言いながら、陸平がランチを食べる店を物色している。


 食べやすいものに流されやすい陽人と異なり、陸平は食事もシビアに選ぶ。


 そのため、大抵定食屋やレストランになり、しかもそこでも揚げ物などは一切頼まない。


 この日の選択はファミリーレストランであった。

 ただし、陸平が頼むものは生姜焼き定食あたりに落ち着くのだろうが。



「今、確定のメンバーはっと……」


 陸平はノートを開いて、書き込み始める。


「僕の中学だと真人まさひと鈴原すずはら)とまもる久村ひさむら)は確定だ」


「俺のグループだと、達樹たつき瑞江みずえ)と翔馬しょうま立神たつかみ)、康太こうた須貝すがい)に大地だいち林崎はやしざき)、徹平てっぺい石狩いしかり)、雄大ゆうだい後田ごだ)、かける武根たけね)と真治しんじ戸狩とかり)だな」


「……GKは須貝君、DFは林崎君、石狩君、武根君、中盤は立神君、真人、護、陽人、僕、FWは瑞江君と戸狩君。おぉ、一チームできるじゃん。これでもまあまあできると思うし、他に藤沖監督目当てに来る有望なのがいたら、かなりいいチームになるんじゃないか?」


「……特に中盤にうまい選手が入ってきたら俺はベンチ行き、だから監督役でも問題ないってわけだな」


「そう自虐しなさんな。そういうことじゃなくてまとめ役として評価できるって思っているから」


 陸平はメンバーを書き込み、隣のページには四つの名前を書き始める。


「とりあえず、二年でトップ4の一角に食い込めたりすると面白いよね」



 トップ4とは、県内でほぼこの四校が準決勝まで勝ち抜く、という四校である。


 選手権では3年連続県代表、通算でも14回代表になっている最強校・深戸学院ふかどがくいん


 近年はやや低迷しているが11回代表になっている珊内実業さんないじつぎょう


 五年前から急激に予算を増やし、選手を集めている鳴峰館めいほうかん


 指揮官40年沢渡が指揮する鉢花はちばな


 この三年間は、選手権はもちろんのこと、総体の県予選でもこの四校で準決勝を独占している。

 ほぼ鉄板、といっていい4チームである。



 現在、監督すらいないチームがそこに入り込みたいというのは無謀極まりない。


「怜喜さ、俺に何か恨みでもあるの?」


 いきなり自分を監督として勧めて、更にトップを4狙え。


 無謀極まりない。


「できないかな? 割とできそうな気がするんだけどなぁ。まあ、トップ4はさすがに辛いかもしれないけど、せめて三谷や樫谷の上には行きたいかな」


「そんなに甘い世界じゃないと思うぞ」


「夢がないなぁ。これから高校に入るんだし、全国制覇目指すぞ、くらいでもいいんじゃない? 陽人が一年目でガッチリチームを掌握して、藤沖監督と共に二人三脚で優勝を目指すってノリでね」


「漫画じゃないんだから」


 そう答えつつも、陸平はもちろん、瑞江や立神のようなトップクラスがいるのも事実である。


 この三人は別格である。


 代表やプロまで行けるかについては見当もつかないが、少なくとも大学まではサッカーだけでできるだけの才能がある。


 しかし、仮に自分が監督になった場合、迂闊なことをすると一年間でこの三人をダメにしてしまうかもしれない。


 他の選手にしても同様だ。


 自分が下手なのはともかく、周りを下手にするわけにはいかない。


 プレッシャーを急に感じ始める。今、チーズハンバーグを食べているはずなのに、まるで味を感じなかった。

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