3月27日 11:00
新学期から監督を務める予定だった藤沖が交通事故で重傷。
当面サッカー部には携われないだろう。
その間は、どうなるのか。
甲崎は二人の質問に、「はー」と息を吐いた。
「昨晩、校長先生と話をしました。藤沖先生の代わりになる人はいないから、復帰するまで待つしかない。その間は真田先生を据えるという話ですが、この人はサッカーのことを全く分かりません」
陽人と陸平、二人そろって落胆の溜息をついた。予想していたとはいえ、代わりの監督は来ないということである。
「主将である僕がチーム運営も任されるということで決まりましたが、ここにも問題があります」
「何ですか?」
完全に納得できたわけではないが、藤沖が不在で顧問が頼りにならない以上、主将がチーム作りに携わるというのは無難な考えとは思えた。
「さっきも言いましたが、藤沖先生が来るという話でしたので、新一年には優秀でモチベーションの高い子が多いでしょう。一方、僕達三年と二年はそうなる前の弱小チームのメンバーです。一緒に活動すると、足を引っ張ることになるかもしれません。受験もありますしね」
「うーん……」
先輩に対して「そうですね」と認めるのは失礼だが、確かにそうかもしれない、と陽人は思った。
やる気にあふれたメンバーの横で上級生がだらけていたら、お互いにとって悪影響になる。
「だから、僕達三年は早めに引退して受験に専念しようと思っています。二年は三人しかいないし、どちらもお世辞にもうまいとは言えないので、邪魔なようなら僕が説得しようかなと思います。そのうえで君達一年の中から、チームを実質的に率いる子を選ぶのがいいんじゃないかと思います」
「一年から監督役を!?」
「一年がまとまっていれば、藤沖監督が戻ってきた時にスムーズにチーム強化が出来るんじゃないかと思っています。君達が三年の時に、ベスト16くらいまで行ってくれれば僕達もちょっと鼻が高くなりますしね」
「はあ……」
二年以上は負け犬根性が身についている。監督も来ないのなら一線を引いて、一年だけにやらせて、一年が強くなる頃に藤沖が合流すればいい。
それはもっともな話ではある。
「ということで、入学式までにそのあたりを決めてもらえれば、上級生については考えてもらわなくて大丈夫です。もちろん、人数が足りないのなら、数合わせくらいにはなりますが」
甲崎本人の中では決めてしまったことらしい。
有無を言わさぬ様子で結論づけられた。
クラブハウスを眺め、グラウンドをしばらく踏みしめた後、二人は帰路についた。
「一年から監督役って無茶苦茶だなぁ。誰がやるんだろう」
陽人のつぶやきに、陸平が「えっ?」と声をあげる。
「そんなの陽人に決まっているでしょ」
「えっ、何でだよ?」
「だって、高踏中をまとめていたのは陽人でしょ? 僕もゲームで一緒だったから陽人の性格は大体分かっているし、それだけで9人になるじゃない。鈴原と須貝も、陽人なら文句言わないよ。他の人間にしたらまとまらなくなる」
「いや、でも、監督って結構大変……」
「それもある。有名なバスケ漫画でも監督役をエースがしていて、それで言い訳めいたことになっていたじゃない。陽人なら少なくともエースじゃないから、チーム的にも問題ない」
「ぐっ……」
陸平の意見は、的を得ていた。ぐぅの音も出ない。
しかし、陽人は思う。そこまではっきり言わなくても、と。
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