3月27日 10:15
午前10時、自転車を漕ぐ陽人は、学校正門の前で陸平と落ち合う。
早めに来ていたらしい陸平は山の方を指さした。
「もう少し上に行ったところにグラウンドがあってサッカー部とラグビー部が使っているみたい」
「とりあえず行ってみるか」
そこから緩斜面を登っていき、グラウンドを目指す。
もう少しと言っていたが、実際に漕ぎだすと登り道ということもあり更に15分ほどかかった。
ようやくたどりついたグラウンドを一望し、
「うわ、すげぇ……」
思わず驚きの声があがった。
ピッチだけで四面、更にクラブハウスと言って良さそうな二階建ての建物まで設置されている。
整備は不十分のようで芝は伸びているが、とても県立高校のグラウンドとは思えない。
「クラブハウスも行ってみようか」
「入っていいのか?」
「あと一週間もすればここの生徒だし、いいんじゃないの?」
それもそうか、と陽人も同意し、自転車を道路わきに止めて、中に入る。
建物の横に古びた看板がかかっていた。「サッカー部」と書かれてあるが、その下に消えかかった文字で「高踏カントリークラブ」ともある。
どうやら、かつてはゴルフ場だったらしい。
「すいませーん」
玄関ドアを開いて声を投げかける。一瞬置いて、奥の部屋から一人出て来た。
身長は170あるかないかで、細身のひょろっとした、柔和な顔立ちの人物だ。サッカー部の部室にいる以上、部員なのだろうが、制服姿だ。
「僕達、四月からの新入生で、サッカー部に入ろうと思っていて、やってきました」
二人は直立して、挨拶をする。
「あぁ、新入生か。そうか、今年はやる気のある新入生が入ってくるって聞いていたものなぁ」
独り言をつぶやいて、頭を下げる。
「僕は新三年の
甲崎は自信なさげに自己紹介をして、丁寧な態度でクラブハウスの案内を始めた。
「ここは元ゴルフ場のクラブハウスを改造したもので、ね。だから、ショップとかレストランとして使われていたところもそのままだ。綺麗になってはいるけどね」
「そうなんですね。施設が凄くなったとは聞いていましたが、これは本当にすごいです。うわ、大浴場まで」
「そうそう、ただ、大浴場はお湯代が大変だから使えないようになっている。こっちのシャワールームにしてね」
「分かりました」
「君達みたいな有望株も来るということで、準備していたんだろうね。逆に僕らはどうしようと思っていたよ」
甲崎は苦笑した。
「ここが寄付されたのが去年の連休明けで、秋に工事が終わって使えるようになった。それまではサッカーもラグビーも運動場を共有していたのが、いきなりこれだからね。他のクラブの視線が凄いし、結局初戦敗退だから立場がなかったよ。しかも、今年は監督も変わって、有望株も来るらしいということで、これは大変だとみんなで思っていたんだ」
「甲崎先輩、その監督の話ってどうなるんですか?」
相手が話題を出してくれたので、聞きやすくなった。
二人はもっとも聞きたかった質問を投げかける。
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