第3話 ー無関心と生きる屍ー
私と荒船に淵上をどうこうする手段はない。
悔しくも彼は天才だった。
死んだような生気のない私と、人を全く信用しない荒船では太刀打ち出来ない。
どう足掻いてみても淵上の宗教的支配体制を崩せる未来が浮かばなかった。
学校全体を巻き込むのも時間の問題だろう。
私もない頭を使って考え、実行した、せめて荒船の友人である数人だけでも救う方法を。
だが、常に淵上本人の存在が邪魔をする。
数日前のあの日だってそうだ。
「並木先生、それと荒船莉奈。貴方達は勘違いをしているようだ。貴方達からしたら僕は悪者でしょうか? いやいやいや、みてくだいよ。今の現状を。僕が赴任する前より確実に良くなってるでしょう? 学校の雰囲気も、生徒教師間の中も、成績も、何もかも。それを邪魔しようとしてるのは貴方達なのではありませんか? 悪者はどちらだと思う? 皆」
いつの間にか淵上の信者と呼べるようになってしまった一年生複数人が淵上の背後に立っていた。
信者と化してしまっている周囲の人間に同意を求め、反論する余地を与えない正論で追い詰められる。
「悪者でも何でもいいけどさ、淵上先生。一つ質問があるんだけど、何で私とこの冴えない教師だけ取り残されたの?」
荒船が強気に質問をする。
それは私も気になっていた。
特に共通点のない私達だけがどうして洗脳されなかったのか。淵上と話していてもまともな精神状態でいられるのか。
荒船の質問に対し、鼻で笑うように答える淵上。
「簡単だよ、荒船莉奈。君の場合は人を信じていなさ過ぎる。これでも僕から君へのアプローチはかなり多かったと思うよ。だが、君には他人の言葉が何一つ届かない。聞く気がないとかそういう次元じゃなく、聞いてない。何も聞こうとしていない。君のバックボーンに興味はないが、君と会話をしていて、君を形成する人格が心配になるくらいだったよ」
淵上は一息置き、私の方へ向き、言葉を続ける。
「並木先生。貴方は死んでいる。生きようとしていない。日々を怠惰に過ごし、その日々を受け入れている。改善も肯定も否定もせずただただ日々を浪費している。だから誰の言葉も届かない。死んだ目をした生きる屍のような貴方には僕じゃない誰の言葉も届かない。荒船と並木先生と話していて僕はそう感じたけどどうかな? 当たっているかな?」
流石は国内最難関大学主席卒業者。心理学専攻ってだけでそこまでわかるものなのか? 荒船の事情は知らないが、私への考察に至っては全て合っている。私という人間を完璧に捉えられて反論も反応も出来ない。
「よくよくもう一度考えてほしい。正気こそが正解だとは限らない。狂気と呼ばれる世界にも正解がある、と」
「ふざけなんなよ!! 返せ! 私の友達を!!!」
「落ち着きなよ、荒船莉奈。君は心の奥底では彼女達を微塵も信頼していない。なのに彼女達を友達と呼ぶのかい? 本当に友達と呼べる存在なのかい? 彼女達は成績も内申も素行も良くなっている。今のままの方が幸せだと思わないかい? この短い高校生活を犠牲にして、先の人生に置ける重要な学歴というものを手に入れられる。何方が正しいか、何方が彼女達の為になるかなんて簡単にわかるんじゃないか? 荒船莉奈。君も大人しく僕の言葉に耳を傾けないか?」
「そう生徒に畳み掛けないでくれるか? 大人なんだからもう少し余裕を持ってくれ。同じ教職として恥ずかしい」
「……並木……先生、私どうするのが良いのかわかんないよ」
「善悪の判断だけが行動を起こす材料になり得ない。淵上。今日はここまでにしよう。私も君も荒船を潰したくてやってる訳じゃないだろう」
「そうですね。並木先生。貴方にもわかっていただける日はそう遠くないと自負しています。それではまた後日、学校で」
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