18. 寺本さんが思ったより怖がりさんだった




「…話変えるけど、昂輝さんここにいていいの?」


「ふぁ?どゆ意味?」


 呼吸を整える寺本から騒々しい食堂全体へと、風馬は視線を一巡させた。


 彼の分の席取りをしている4組生たちがいるのではないかと思うが、一目ではわからない。


「今日一人で来たの?」


「あー数人で来てすぐバラけた。まとめて空いてるとこねぇし」


 寺本はナムルを挟んだ箸先で漠然と周囲を指してから口に入れた。

 なるほどと風馬が頷く間にまた喋る。


「テスト明けって毎回やたら食堂混んでる気しない?スマホ回収より俺そっち謎」


「確かに…なんでだろ…?」


 景色を不思議に感じ始めた矢先、風馬は「あ」と親子丼を掬う手を遅くした。


「そういえば昂輝さん」


「はい」


「昨日LINEした後、おれすぐ寝ちゃって忘れてたんだけど、今日ケータイ戻ってきたらフォローするね」


「は?あ、インスタ?」


「あ、うんごめんインスタ」


「別にしなくていいよ。どっちでも」


「おれも一瞬いいかなって思ったんだけど…昂輝さんて夏休み結構あげる?」


「なんで?結構てどれくらい?」


「たまに生存確認できるかなって」


「あーね。未来の俺の気分次第だからわかんない。けど夏休みの一言日記的な苦行はしない絶対」


「普段からSNS自体あんまりしない?」


「ゲームのが生息してがち。今オススメのオンゲある?あればそっちで繋がってもいーよ」


「うーーおれ実はゲームしない人……スマホもゲーム機もない環境で育ったからか、元々センスないのかわかんないけど…なんか基本が全部わかってないていうか、楽しみ方がわかんなくて、ケータイ持ってから何個か試したんだけど続かなかった」


「ハマれるやつにまだ出会ってないのかゲーム自体ハマんないタイプなのかわかんねぇけどへー、スマホもゲームもない子どもの頃何してたの?」


「山で遊んだりとか、実家の風習で剣道してたし、おれ学校行ってなくてホームスクールだったから、勉強も折り紙とかお絵描きとかと同じ括りで」


「へーー人生そのものが遊戯じゃん最高。なんで学校行かなかったの?体質の都合?」


「んー…それもあるけど、それよりは実家の風習みたいな…?」


「クリスチャンがホームスクールするみたいな理由?てかきみんちって家族全員その体質?」


「ううん」


「ふーん?」


「………」


「あ、話したくないやつ?」


「んーと別にいいんだけど、話長くなって先に昼休み終わりそうだし、気分悪くなるかもしれないし…ここじゃいやかも」


 もそもそと卵とじごはんを口に運ぶ風馬の左横で、寺本が

「え何。気分悪くなる話って何。グロ痛ホラー?じゃやめて」

 と勝手に見切りをつけ、右横でミックスサンドを齧る美愛が

「ホラー無理なのに事故物件とか行けるの?」

 と首を傾げて呆れ笑った。


「行けますぅー俺おばけ見えねぇもん。だしグロ痛が無理なだけでホラー余裕ですぅー」


「ゆっても…」


 と美愛は妙に声を落とし、暗い面持ちをした。


「おばけ出るくらいひどい事故物件て…だいたいグロくて痛いことが起きた場所…なんじゃないの…?」


「何?どしたの?まさか怖がらせようとしてます?」


「うん。どれくらい耐性あるのかわかってないと後で大変かなって思って。寺本さんの怪談経験値、小学校で止まってるぽいし」


「それはがち。七不思議つまんなすぎて信じる心を失くした小3で止まってる」


「ホラゲとかもしないの?」


「ホラゲはやるよ?脱出系や謎解き系ならやる。ADV好きだから」


「怖くない?」


「朝まで寝ない」


「それだいぶ怖がりだよ」


「違います。制作者の意図に沿ったマインドセットで100%の楽しみ方してるんです」


「えーやば……ねぇ風馬やばいよ、寺本さんが思ったより怖がりさんだった」


「人の話聞けよ」


 左右から声を発する美愛と寺本を交互に見やり、風馬はごくんと口の中の物を呑み込んだ。


「行った所におばけがいても、昂輝さんは憑かれないし、おれは憑かれ慣れてるし、ケガしそうな時はおれが昂輝さんを守るから、大丈夫だよ」


 日替わりランチの味噌汁に手を伸ばす寺本は、ほっとした表情どころか目を見開き眉が八の字になる変顔をした。







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