16. ブーメランがザクッと胸に刺さった直後に風馬はほわぁと光に包まれた




 寺本から返信が来たのは、スキンケアと天パケアをのろのろ済ませ、自習を手早く済ませ、布団を敷いたが寝転がらずに心霊系ツイートを流し見ていた11時過ぎだった。


『??いたよ??』


 え?と、風馬はスマホ画面に向かって呟いた。


『全校朝会のとき見なかった気がした💦』


『遅刻しました』


 あ…と、今度は喉の奥で呟いた。そのありがちな可能性が念頭になかった。


『寝てたの?』


『夢の中では起きてた』


『草』


『てか寝坊ドヤる痛ストーリーあげたんだけどね??』


 一瞬、指が止まる。


 インスタのことを話題に出す彼の意図がわからない。


『ごめんインスタ見に行ってなくて』


『あえて?』


『だって教わってないし…?』


『けど俺の垢知ってるよね?』


『勝手に調べて見てたのキモかったかなって思って行かないようにしてた😵』


『うん逆にきもい😇』『普通にフォローしてください』


 ブーメランがザクッと胸に刺さった直後に風馬はほわぁと光に包まれた。


 どうやら寺本は、もうお互いのインスタアカウントが判明しているからいちいち交換しなかっただけで、なるべく関わりたくない的な含意はなかったようだ。


 デフォルトでネガ妄想が盛んな自分脳を省みながら指を動かす。


『ありがとう🥺』『でもおれにフォローされて大丈夫?』


『wwwww俺どうなるの死ぬの?』


『違うけど😣』『今週ずっと気になってたんだけど、、、』『おれと美愛が4組で噂になってたやつどうなった…?』


『どうもなってないが???』


 嘘だ。そんなはずない。

 風馬は脳内で全否定した。


 時にウザいしキツいけれど、寺本はやさしい。

 美愛を巻き込んでフラグを振り撒いた風馬の尻拭いをしようと、彼は一人、クラスの中で奮闘しているのかもしれない。

 あるいは適当にごまかしすぎて噂が悪化しているのを隠したいのかもしれないが。

 どっちにしても彼にだけ抱え込ませるわけにはいかない。


 風馬はスマホを握り、自分なりに力いっぱいの直球を投げた。


『おれか美愛に告られたのってクラスで聞かれなかった?』


『バチボコ聞かれたが???』


『無視してるの?』


『いやクイズしてた』『どんな用件だったか当てたら教えるって言ったんだけど誰も当てれなくて草』


 返信を読み返し、風馬は反芻した。


 確かに、ワタシは霊を引き寄せる体質でアナタは霊を消し去る体質のようだから定期的に触らせてくださいと頼まれた、という用件を言い当てられる同級生はまずいないだろう。いてたまるか。


 風馬は感動した。


 絶対外れるクイズに当たりが出るまで答えさせるシステムならば、人々が野放図に思い付く不埒な疑惑をサクサク否定しながら、嘘もごまかしも弄することなく真相を隠し通すことができる。

 また、想像もつかない他人事だとわかれば人々は関心を失い、早々にどうでもよくなるだろう。


 すごい…こんな完全無欠の逃げ方があったんだ……!


『昂輝さんすごいね』


『ぷぁ?』


『天才だと思う』


『ぷぁ❤️』


『クラスで気まずくなってない?』


『?天才すぎて?』


『草』『なんとなく』『このまえ食堂でちょっとぎこちなく見えたから』


『いつだよw覚えてないw』


『おれと美愛にエンカしたせいかなって』


『思い出したw』『急に小鹿おがさんに笑いかけられたせいでキョドったんじゃないですかねすいませんでした』


 みちりと、変な力が入った風馬の手の中でスマホケースが軋んだ。


 だが深く考える前に返信を急ぐ。


『そっかそうだよね💦』『美愛かわいすぎてびっくりするよね😁』


『変質者かわいいよね!』『通りすがりにニヤけてくるから挨拶したのに無言で通り過ぎてった変質者マジかわいい!!』『ほんとびっくりする!!!』


『なんかごめんなさい』


『まだ聞きたいことある?』


『えーと…』『あ』『土曜日また美愛と動画とか作る予定なんだけど昂輝さんも来る?』


『俺は基本そのへん参加しないって言ったじゃん』


『一緒に撮れなくても、いてくれるだけでいいし』


『息してる係:寺本』


『感想とかもらえたらうれしい』


『幽霊見えない感じない興味ない知識ない俺が何言えばいいの?』『鼻毛出てるよとかなら言えるけど』


『えーー😢』


『鼻水出てるよ』


『出てないもん』


『気が向いたら行くね』


『無理言ってごめん😖』『色々対応してくれてありがとう🥰』『(鳥のような生き物が「おやすみー」と欠伸しているスタンプ)』


 にわかに焦りが湧いてきたから連投してチャットを切り上げ、5秒経ってもレスがないからもう寝たことにしてLINEを閉じた勢いで、スマホを枕の上に投げつけた。


 風馬は変なテンションだった。

 喜怒哀楽をプリンとキムチで割ってシェイクしたような情緒だ。


 朝まで眠くなりそうにないけれど、スマホの通知に神経を尖らせながら何かをする気にもなれず、無理やり入った布団の中で目を閉じた。

 そしたら案外するんと眠りに落ちた。







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