13. おれやってみるから、よろしくの握手、しませんか
「…その、絶対幽霊いるスポットとかって、どうやって見つけるの?」
尋ねた風馬に、寺本は答えた。
「SNSで探す?レポ系まとめ系あればすぐじゃん」
「でも、その場所の持ち主も調べて、幽霊いなくするから確認してもらえますかって聞かなきゃいけないよね」
「なんか無理ある?」
「わかんないけど…大変かなって。心霊スポットって半分公共ぽい場所とか廃墟とかのイメージだし、持ち主が遠いっていうか、いたずらやめてくださいって怒られそう」
「じゃ逆に、『ヒマだから幽霊退治します』みたいなアカ作って依頼募集しよっか。心霊スポットは置いといて、事故物件の住人なら都内だけでも無限にいるじゃん。タダで秒で害虫駆除できるってなったら試したい人いると思わん?」
確かにそんな好条件なら、正体不明のヒマな退治人でもダメ元で呼んでみたくなるかもしれない―――風馬は思いを巡らせた。
ガチの霊障被害は当事者にとって深刻なのに、頼れる先はごく限られている。
ちゃんとした本職に出張依頼すれば数万円から用意が要るし、場合によっては果てしない時間や手間を要する。
風馬が頷くと寺本はぺらぺら続けた。
「ただ俺、喋っててわかっただろーけど心霊系の知識全然ないんだよね。マジでやるならきみメインでアカ管理してもらっていい?」
「え。ん、うん」
「あーけど最近プロモ勉強中だから広告は出してあげてもいーよ。でさ、もしこれバズったら宣伝費と交通費ってことで課金制にしない?」
「うん」
もしも除霊依頼がたくさん入るようになったらさすがに毎回タダにはできない。
むしろ無料キャンペーンはビジネスの土台が出来上がるまでの初期投資と捉えるべきだろう。
そう考えて同意した2秒後、風馬は目的がズレていることに気づいた。副業を始めるつもりなどない。
―――でも。
今まで、自分を狂わせ他人を毒するだけのゴミバグでしかなかったホイホイ体質が、何かの役に立つかもしれないなんて思いもしなかった。
別に副業なんてしなくてもいい。
風馬は金に困っていないし、バズりたい欲求もないし、寺本にお互いの体質を証明できるだけでいい。
けれどなんだか心惹かれる。
早く死ぬことが救いじゃなくなった人生で、新しいことをして、困っている人を助けて、彼に触れる。
そんなのすごく心惹かれる。
「じゃあ、あの」
風馬は言って、いつの間にか食べきっていたアイスのスプーンとスリーブを左手にまとめて持ち、ぐっと右手を寺本の前に向けた。
「おれやってみるから、よろしくの握手。しませんか」
右手から視線を上げた寺本は少し不思議そうな、または意地悪そうな表情だ。
「まだなんもしてねぇじゃん」
「っこれからアカ作ったりするし、触れば多分すごいがんばれるから……」
やっぱり自分に甘すぎかと、しおしお引っ込めようとした右手にすいと左手が重なった。
左右あべこべの握手になったのは、風馬の左隣に座っている寺本の位置から右手を重ね合わせるのは角度的にきついからだと思い至る前に、風馬は羽になった。
「ちなみに俺まだきみらの名前はっきり知らないんだけど。別に聞かなくていい?」
そういえば一度も名乗っていない。
風馬が美愛と顔を見合わせる間に握手は解かれ、遠のく温度をつい追う視線は寺本の顔面に戻った。
「
「
「なんかどっちもレアい苗字な気がしてモブみを感じてる俺がいる」
「えーそんなにだよー。小さい鹿が野原にいるって憶えてね」
「苗字までクソかわなんすねうざ」
「www」
「あのおれ自分の苗字好きくなくて、呼ぶ時できれば名前がいいです」
「やだ」
「なんで」
「呼び方なんて俺の自由だし」
「おれを表すものだから、おれの自由に寄せてほしいです」
「正論感がすごい」
「ね?雰囲気違わない?」
「それはわからんけど。呼び方のこだわりはわかりました」
「やったー。寺本さんも
「ダメてかなんで俺の名前知ってんすかこえーんだけど」
「…勝手に教務手帳見てごめんなさい」
「いや草。あんなんどうやって見るの?先生持ってるやつだよね?単位とか内申とかメモってるあれでしょ?」
「勝手に見てごめんなさい」
「いや答えろよwwwwwwww」
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