10. で今、どっちかが告りだすフラグ確定されてる状況なんだけど合ってる?




「ちなみにさぁ、きみたちこの頃やたらと4組見に来てたよね。色んな奴のインスタもチェックしてたぽいじゃん。で今、どっちかが告りだすフラグ確定されてる状況なんだけど合ってる?」


 寺本が微妙な顰め面からド直球を投げてきて、風馬は面食らい、美愛と顔を見合わせた。


 そうか。

 さっきまで告白フラグが乱立している状況だったから、美愛に声をかけられた男子たちの反応が訓練された兵士のように機敏なだけでなく、自意識過剰を極めていたのだ。


 風馬はゾッとした。


 寺本個人どころか4組全体にストーカー疑惑を振り撒いていたなんて。

 あいつ誰狙ってんだよ…まさか俺/私に告る気かな…などと噂されていたのかと思うと窓から躍り出たくなる。


 だがここは二階だから現実からは出られないぞ、とでも言うように美愛が小さく肩を竦めてみせた。


 すると寺本がフッ…と鼻で笑う。


「やっぱ違うね?てことは普通に罰ゲーム?」


 罰ゲーム=普通らしい寺本の感性はさておき、風馬はブンブンとかぶりを振った。

 遅まきに教室を出てくる人たちも、まだ残っている人たちも、みんなこっちを見ている気がする。


「違います。ゲームとかじゃないです。おれにとっては大事な話だけどそういう告白でもないし、だからふつうに三人で話したくて、だから、でも…ここじゃない場所で話せませんか」


「あとで血に飢えてる人か金に困ってる人が出てくるパターンですか?」


「え?」


「じゃねぇならいいよ?どこ行けばいいの?」


「え…とー…」


 無計画すぎる風馬の横から美愛が「とりあえず歩かない?」と提案して、励ますように風馬にくっついて片腕を組んだ。


 右に美愛、左に寺本を伴って歩き出した風馬の足は自然、下校する方向へと廊下を進む。


 何か喋り出しそうに思える寺本はしかしスマホを手に取った。

 ぱっと点る画面が目に入りそうになり、風馬は慌てて視線を上げた。

 自分より少しだけ高い位置に半袖ワイシャツの肩がある。

 うっかりよろけたりしたら接触する距離にある。


 忘れられていた心臓がまた鳴り始め、次第に音を響かせていく。


 左腕をうっかり大きく振りすぎてしまおうか。

 手の甲が掠めるだけでいい。

 そうすれば風馬は無駄にネガティブで優柔不断な愚図ではなくなり、寺本に最もポジティブで誠実で賢明な自己紹介ができるようになる。


 でも失敗したら?わざと触ったのがバレたら?

 既に意味不明なメンヘラ戦隊のキモブス要員だと思われていてもおかしくないのだ。

 しかも彼はスキンシップが嫌いなのだから余計戦慄するだろう。

 痴漢認定されたらもう何を言っても耳を貸してもらえない。


 ふと、視線を感じて右隣を見る。


 上目遣いの睫毛が瞬き、やっちゃえみたいに小悪魔顔が微笑んで、腕を組んだままぐっと風馬を左側へ押すと同時に、寺本が「ジャンルで言ったら何?」とスマホから顔を上げた。


 ギクッとしすぎて風馬はリアクションできなかったし何を聞かれたのかもわからなかった。


 美愛も答えず、寺本が言う。


「用件。罰ゲーム、ガチ告白、いじめ、集金とかでもないんでしょ?他に何ある?」


 風馬は美愛の方をチラ見して、肩を竦め返された。


 頭がぐるぐるする。胸がどきどきする。


 何か言わなければ。


「えーと………怪談」


「かいだん?」


 と素っ頓狂な声を上げた寺本が、ちょうど差し掛かった下り階段に目を落とし「て、これじゃないよね?」と足を下ろした。


「うん」


「へぇぇくっそ予想外。怪談て何?なんだっけ学校の七不思議みたいなやつ?」


「? 何それ」


「え知らない?学校で怪談つったら俺それしか知らねぇんだけど」


「どんなの?」


「小学校で聞いたやつだと、理科室の人体模型が動くとか、人体模型の内臓が腐りだすとか、昔死んだ生徒が人体模型にされたとか」


 寺本の通っていた小学校では人体模型にかなり問題があったようだが、風馬は小学生経験自体がほぼないし、美愛の「えー私の知ってるやつと違う」という定型めいたコメントもよくわからない。


 学校設備に関連する奇譚を寺本と美愛が言い合う間に、昇降口に辿り着き、離れた位置で靴に履き替える間にも二人は喋り続け、外へ出ながら再び寄り集まると、美愛が風馬と腕を組み直して言った。


「でも風馬の話は七不思議とか都市伝説とかじゃないよ。ね?」


 亜熱帯のような東京の梅雨空に晴れ間が覗いている。

 風のない校庭にじめじめした熱がわだかまっている。

 だらだらと校門へ向かう制服姿はあるけれど、グラウンドを走るジャージ姿が一つもないと思ったら、そういえばテスト前だ。


 さっきよりも少し遠い距離から首を傾げる寺本の、蜃気楼によく似た『影』は変わらず潤って見え、湿った空気との境界がわからない。


 風馬は頷いた。


「うん。どこかの場所にまつわる話じゃなくて…おれの話と、寺本さんの話だよ」







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