6. 以来、風馬は限られたタイミングを寺本観察に費やした
以来、風馬のストーカームーブが始まった。
クラスメイトならいざ知らず、接点もない他クラス生のプロフィールを収集するのは容易ではない。
周囲から不審がられないためにも欠かせない美愛の協力を得て、限られたタイミングを観察に費やした。
ひと月かけた成果はあまり多くなかった。
彼の名は寺本。
2年4組。帰宅部。選挙管理委員。目立った素行違反なし。
徒歩かチャリか公共機関で通学している実家住み。実家は電気工務店を営んでいる模様。外観から感じる生活水準は中の下。
校内ではたいてい誰かと喋っているが、固定の友達や固有の習癖などは窺えず、自由勝手に行動している半面、集団生活から逸脱するほどではない。
また、ゲーセンで自販機アイスを食べていようが大学図書館で勉強していようが少しも不自然に感じられないほど、どこにでもいそうな雰囲気をしている。
まるで、彼が人類最強の祓魔師どころか汎用型のモブキャラであることを示唆するような人物像だが、風馬は一つ揺るぎない発見をしている。
人は皆、俗に“オーラ”とか“気の流れ”とか、時に“守護霊”とか言われるようなエネルギーを身に纏っている。
少年漫画では尋常じゃない人だけが発する特殊効果風に描かれがちだが、実際には誰にでもあり、風馬はそれを『影』と呼んでいる。
風馬自身よくわからないところも多い『影』は、本人の状態を表すバロメータとして見ることができる。
通常、『影』は無色の膜みたいに本人を覆っている。
本人の心や体が健常な状態ではなくなるほど、『影』は形が歪んだり色が付いてきたりする。
また、本人が霊に憑かれている場合、憑依の度合いが深まるにつれて『影』はその霊の様態に近づいていき、本人の様相もその霊に似ていく。
とはいえ社会生活を送る上では目障りな雑情報なので、風馬は普段『影』を意識に入れずに過ごしているのだが。
あえて見てみた寺本の『影』は、蜃気楼に似ている。
すごく透明で、うねうねと絶えず揺らめいていて、表面の境界がわかりづらく、よくよく目を凝らして見ると、周囲の景色だろう屈曲した映像を乱反射している。
例えばプラズマみたいにバリバリしているレアチート九蔵の『影』に比べれば、寺本のそれはとても地味だし、危険な感じは特にない。
街中にいる霊たちも一切警戒する素振りはなく、図々しい浮遊霊などは彼の体を突き抜けていこうとするし、駅のホームに佇む地縛霊も電車の乗客に入っている憑依霊も彼に注目したりしない。
ただ一様に、彼の『影』と接触した瞬間に消え失せる。
悲鳴も跡形も残さずに。
霊がどこへ消え去るのか、あるいは完全消滅しているのか、風馬にはわからない。
和尚と九蔵に話すべきだと思った。
二人は風馬の身に三度も起きた現象の吉凶禍福を測りかねている。
寺本の存在を知れば多分、会ってみたい、連れてきてくれと言うだろう。
だが、風馬は躊躇している。
寺本を和尚たちに会わせようにも、何と言って話しかければいいのかわからない。
傍目に見る限り、彼は自分に触れた霊が消えることはおろか、そこらにおばけがいることさえ認識していない。
彼の目はいつだって生きている人しか見ていない。
死んでいる人に興味がないから完無視しているだけの可能性もなくはないが、見えないふりというのは決して楽勝じゃない。
目は口ほどにものを言うし、生者も死者も同じ顔してごった返したこの街で、おっぱい丸出しの色情霊に一瞥もくれない男子高生なんているだろうか。
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