第21話 二人のダンジョン探索

 二人が通路が進んでいると、奥の方に巨大なシカがいえるのが見えた。何やら地面から生えている植物をむしゃむしゃと食べている。その体と巨大な角は銀色に輝いている。二人はすぐに大きな岩の陰に隠れた。まだ向こうは気付いていないようだ。


「白銀ディアだ! ついてるぞ!」

 その姿を見たユーマは嬉しそうん叫んだ。

「白銀ディア? 聞いたことないぞ?」

ミラは首をかしげている。


「他国では結構有名な高級食材だぞ。肉は独特な香りがあるがそれがたまらなく美味しいらしい」


「そうなのか。お前、よくそんなこと知っているな。」

「たまに他国に買い出しに行くときに商人と話すんだ。ダンジョンに生息する食材とかレアアイテムの話とかな。知らないことを知れてなかなか面白いんだ。それと、白銀ディアの角は加工すると高性能のナイフにもなるらしい。あいつは捕らえよう」

「わかった」


 岩の陰からユーマは飛び出すと白銀ディアに向かって一直線に駆けていった。白銀ディアもユーマに気が付いた様子であったが逃げようとはせず、ユーマが向かってくるのを待ち構えていた。その様子から相当自分の強さに自信があるようだとユーマは感じた。

 

 ユーマが接近すると、白銀ディアは巨大な角をユーマに向かって薙ぎ払ってきた。しかし、ユーマはそれを跳躍しながら空中で半回転しながらかわすと、白銀ディアの後頭部に強烈な一撃をくらわした。攻撃を受けた白銀ディアはよろめきながらその場に倒れ伏した。巨体であるため地面に倒れたときに砂埃が舞った。

「すごいな。今の動き」

白銀ディアが倒れた後、駆け寄ってきたミラは駆け寄ってきて感心したようにつぶやいた。

「そうかな。ありがと」

 

 褒められるのに慣れていないため、ユーマは少し恥ずかしそうにしながら白銀ディアの体にナイフを入れ、手慣れたように解体していった。白銀ディアの下には青いシートが引いてある。


「何をしているんだ」

「ああごめん。ちょっと残酷だから、いやだったら向こうを向いてて。すぐに解体しないと。味が落ちてしまうんだ」

「別に大丈夫だ。幼きころに父に狩りに連れて行ってもらった時にさんざん見たからな」

「そうか。なら良かった」


 ユーマは次々に肉を解体していった。10分ほどで解体作業は終わった。

シートの上には巨大な肉の塊がいくつもの部位に分かれて置かれていた。手際が慣れているためかユーマの鎧には一滴も血はついていなかった。


「よし。これで終わりだな」

「んっ?この肉をどうするんだ?」

ミラは不思議そうな顔をしている。

「持って帰るんだ。この前、ようやく手に入れたんだ。これ」

ユーマは懐から50㎝くらいの大きさの袋を取り出した。麻の布でできているようで茶色をしている。見た目はただの古い袋に見える。


「それは、収縮袋か」

「ああ」

「めちゃくちゃレアアイテムじゃないか」

 ミラは物珍しそうに袋を見ている。


 収縮袋はただの袋ではなかった。袋の中身は別の空間につながっていて、見た目よりもはるかに多くの量を入れることができる袋であった。しかも、袋の重さは変わらないでのある。荷物を運ぶ商人などは喉から手が出るほど欲しい品物であった。その超常的な特性から間違いなく何者かの能力を用いて作られたものではあったが、詳しく知る者は一人もいなかった。


 収縮袋は中に入れられる量によってランクがあったが、ユーマが手に入れたものは10m×10mの空間を持つ者で最上級の者であった。


「ああ、ついてたよ。集めたアイテムは最近はみんなこれに入れてるんだ。便利だよ。本当に」

「それにその肉も入れるんだな」

「ああ」


 ミラが肉に眼を移すと部位ごとに解体されてはいるが、まだどれも血が滴っていた。

「今まで、回復アイテムや武器や防具は集めてきたんだけどさ。食材は集めなかったんだ。一度ダンジョンに入ると長く探索してすぐには戻らないからさ。食材は痛んでしまうんだ」

「なるほど」

「ミラ、そこで君の出番だ」

「えっ、私の?」


  ユーマに唐突にそう言われたためミラは驚いたような顔をしている。


「これからは食材もたくさん持ち帰りたいんだ。みんなに安く分けてあげたい。そこで君にお願いがあるんだ。俺が採った食材を凍らせてくれ。そうすれば痛まないし、袋の中も汚れないから。まあ解けた水で濡れはするかもしれないけど。」


「何を言い出すかと思えば、そう言うことか。まあいいだろう。任せておけ」

ミラはすぐに納得した様子でそう口にするとさっそくスキルを発動し、次々に肉の塊を凍らせていった。


「悪いな、この国最高の氷属性能力をこんなことに使っちゃって」

「国民のためであるならば何でもやるさ。お前と同じだ。気にするな」

「ありがとう。ほんと助かる」

 国民のためだと言って自らも労働を惜しまない、ミラの姿勢をユーマは高く評価していた。


 五分ほどで全ての肉が冷凍肉に変わった。ユーマとミラは持っていた新聞紙に包んで収縮袋の中に入れていった。先ほどまで800キロはあった肉の塊が全て収縮袋に収まった。

血まみれになったシートをそのままユーマが畳もうとしていると、ミラが口を開いた。


「そのシートはどうするんだ?」

「ああ、これは水辺があるフロアに着いたら洗おうと思って。このまましまうのは、ちょっと不衛生だけどな」

「なんだ。そう言うことか。ユーマもう一度シートを広げてくれ」

 

 ミラの言っている意味がよくわからなかったが、とりあえずミラの言う通りユーマはシートを広げた。すると、ミラはオーラを展開させるとミラの右手のひらから勢いよく水が噴き出しシートに付いた血を洗い流していった。


「おおーすごい。こんなこともできるのか」

ユーマは心から感心したような声をあげた。


「もともとオキシール家は水属性のスキルが発現することが多いんだ。私が普段使っている氷スキルはその発展形なんだ。私は純粋な水スキルはあまり得意ではないがこれぐらいだったらできるぞ」


「すごいよ。ありがとう。ミラ。本当に助かる。今度からダンジョンに来るときは毎回お願いしたいくらいだ!これでより多くの人に食べさせてあげられる」

 大喜びしているユーマを横目にミラも得意げであった。

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