第20話 神のめぐみ
押し寄せるモンスター達を撃退した日から2週間ほどが経つと、一週間以上続いていたお祭り気分も徐々に抜けていく。軍事国家「アルドナ」はいつもの日常を取り戻しつつあった。
三日ほどで体が回復したユーマは以前から行っていた隔離地区の人々への物資の支給を再開した。しかし、昨日、支給するための食料も薬も尽きてしまった。そのため、物資を補給するためにミラとダンジョンの地下159層を訪れていた。
このフロアはレンガで作られたような壁がどこまでも続いていた。途中いくつも分かれ道があったことから迷宮のように入り組んでいるようである。
ユーマとミラは足早に通路を進んでいった。
ダンジョンがなぜこの世にあるのか、その理由を知る者は一人もいない。1000年前に突然地上に表れたということしかわかっていないのだ。どこのダンジョンにも魔物が存在し、中を探索しようとする者を攻撃してくる。しかし、たとえ凶悪なモンスターが襲って来ようと、ダンジョンには中に入るだけの価値があった。
それは以下の3種類の貴重な物資が手に入るからである。
一つ目は武器や防具である。ダンジョンの中ではなぜか武器や防具が手に入る。それも人間が作る物よりもはるかに性能が良いものが……。しかもダンジョン内で手に入れることができる武器や防具はただ性能が良いだけではなく、その見た目や装飾品なども目を見張るものがあった。とある貴族が見つけた十字槍には、槍先の十字になっているところに巨大なルビーが宝飾されていて、その槍は他国の貴族に1億リルで売れたという。この話から分かる通り、ダンジョン内で採れる武器や防具は装飾品としても芸術家が血眼になって欲しがる物であった。
二つ目は医療系のアイテムである。ダンジョン内では様々な体に良い効果をもたらす薬ともいうべき品が手に入る。最も有名なのはポーションとハイポーションである。この二つのアイテムは飲むと、体の傷をいやすことができる。ポーションは捻挫や打撲、切り傷や刺し傷などの小さな傷を直すことができるが、それ以上の怪我にはあまり効果がない。ハイポーションはポーションよりも性能が優れており、骨折や内臓破裂、などの大きな怪我も直すことができる。どちらも怪我をすることが多い王国の兵士には重宝されるアイテムであった。
ちなみにポーションは青色の透明の液体が瓶に入っているがハイポーションは青色の液体にきらきらとした輝く成分が混じっているため、見ればすぐに二つを見分けることができる。
また、医療系のアイテムには、エリクサーと万能薬というアイテムもある。どちらも極めてドロップ率や発見率が低く、市場に出回らないため超高級アイテムと言われている。
エリクサーは飲むと全ての傷を完全に回復してくれるアイテムで、命さえつながっていれば完全回復が可能な究極の薬と言えた。市場では300万~400万リルで取引されている。
万能薬は飲むと、風邪や疫病など様々な病気を治すことができるまさしく万能の薬であった。市場では60万~80万リルで取引されている。
このように医療系のアイテムは戦において必須と言えるが、ユーマたち一般兵や一般市民に出回ることはほとんどない。貴族たちが独占してしまうか他国との貿易に使ってしまうからである。そもそも買おうと思っても市民では手が出せないほど高額であった。
三つめは食材である。ダンジョン内では外の世界には生息していない生き物たちが多く存在している。その中には頬が落ちるほど上質な脂身を含んだ霜降り肉や、口に入れた瞬間とろける様にうまみが広がるキノコなど言葉では言い表せないほどの食材がとれる生物たちが居るのである。
有名なところでは全ての部位が極上の旨味をもつ「紫紺豚」や、気性が荒く凶暴なため捕らえるのに手がかかるが、その味は普段上質な物ばかり食べている貴族が虜になるほどの味を誇る「百年牛」などがいる。他にも数え切れないほどの高級な食材がダンジョン内にのみ生息していた。
どの国も一般的な牛や豚や鶏などの畜産動物の養殖は行っていたが、ダンジョン内で採れる食材に比べると見劣りしてしまうものであった。もっとも、一般市民においてはダンジョン内の食材など高級品でとても手が出せるものだはなかった。普通に食べる者ですら買う金がないものが多くいた。
ユーマはダンジョンから生還を果たしたあの日から時間を見つけてはダンジョンに潜り、難易度が高すぎて誰もたどり着けていない地下150階以上の階層を中心に探索を重ね、これらの物資を集めていた。医療系アイテムは金がなく貧しい者に無料で渡し、武器や防具はこっそりと他国で買い取ってもらい金に換えていた。その金で食料や医療系アイテムを買い、貧しいものに分けていた。
ユーマが生還した日から約一か月の間にユーマから薬や食料を恵んでもらった者は5000人を超えていた。
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