第15話 シリカとミラ

 ミラと手を組んでからの一か月で二人は16件の事件を解決していた。強盗、人身売買、薬物密売人など、ありとあらゆる悪事を二人は暴いていった。ユーマが様々な人から直接聞いたり、金渡して調べさせた情報をかなり正確であった。その情報をもとに証拠を押さえると、後はミラ達オキシール家の仕事であった。市民による犯行も当然あったが、凶悪な犯罪の裏には決まって貴族たちが絡んでいた。

 

 この一か月間に何者かが検挙され、処罰を受けた家は9つもあった。しかし、貴族たちに対する処罰は例によって甘いもので、ユーマはその度に憤慨していた。

ユーマたちの頑張りにより、アルドナでは、少しずつではあるが確実に犯罪が減少していた。それは市民たちの感じ取っているのか以前よりも町を往来する人々の表情も明るくなっていた。

 

一か月の間に季節も進み、木々の紅葉が美しい季節が近づいていた。


 この日、ユーマは初めてミラを自宅に招いた。ミラと協力関係になったことを知ったシリカからこの一か月間ずっとうちに連れてこいと言われ続けてきたためであった。

ユーマが把握していた犯罪のネタも少なくなったためタイミングを見て招待したのであった。


「うわー、ホントにホントにミラさんだ。すごい!本当に綺麗ですね!」

シリカはミラが玄関から入ってきたときからずっとこの調子だ。ずっと憧れていたミラを目の前にして興奮しきっている。あきれながらもユーマは二人の会話を見守っていた。


 シリカはいつも着ている地味なクリーム色の服ではなく、一番お気に入りの桃色の服を着ていた。


一方ミラはいつもの青色の服に、甲冑を纏っている。


 ミラがとびきりの美人として町でも有名なのは知っていたがその前に座っているシリカもユーマには同じくらい美しく見えた。

「シリカさんだってきれいじゃないですか」

「ねえ!ユーマ! 聞いた? 今私のこときれいだって言ってくれたよ。あのミラさんが」


 ミラに褒められたシリカはとびっきりの笑顔を浮かべながらユーマの方を振り返る。ユーマは二人のためにコーヒーを入れていた。

「良かったな」

「ああ夢みたい。あのミラさんがうちにいるなんて。ちょっとユーマ。コーヒーまだなの? ミラさんを待たせないで」

「もう少しかかるって」


 あーあー、興奮しまくってるよ。こうなるとしばらく止まらないなと。ユーマはあきれ返っていた。でもシリカが昔からミラのファンであることはよく知っていたため、


「ごめん。ミラ、こいつ昔から君の大ファンなんだ。だから今日だけは許してやってくれ」

と少しフォローしてあげた。


「いえいえ、そんな風に言ってくれて嬉しいですよ。ありがとうございます」

ミラの丁寧な対応にシリカはさらにミラのことを気に入ったようであった。


「ちょっとユーマ? なんでミラさんのこと呼び捨てにするのよ。あんた一般市民でしょ? わきまえなさい」


自分の大好きなミラを呼び捨てにされたのが腹立たしかったのか、シリカは怒りの表情を浮かべながらそう口にした。


「別にいいんですよ。私、身分の差とかあまり好きじゃないので。もしよかったらシリカさんもミラって呼んでください」

「で、で、で、できないですよそんなこと。私には無理です。そもそも大ファンなので」

 思ってもみなかった提案にシリカは恐縮した様子で縮こまっていた。

「こんなに恐縮しているシリカは初めて見たな」

「あんたはうるさい」

「ふふっ」


 ユーマとシリカのやり取りが面白かったのかミラは笑っている。

いつもの真面目な顔も良いけど、笑うとまたきれいだなとユーマは思った。

その後も、シリカとミラはずっと話続けていた。思っていたよりもすぐに二人が打ち解けた様子だったので一安心であった。


 やがて、日が暗くなるほど話が弾んでいた3人であったが、飲み物がもうないことに気が付いたユーマが、近くの店まで買いに出かけるとミラとシリカは二人きりになった。

 ユーマが駆け足で出ていくのを見送るとシリカは口を開いた。


「ミラさん。ユーマのことよろしくお願いします。昔から無鉄砲で無茶ばかりするんです。心配かけるなと言っても全然聞かないし。ユーマが何か無茶しようとしたら止めてください」


 今まで見せたことがない真剣な顔をしながらそう口にするシリカを見て、ユーマに対する深い思いやりがミラにも伝わってきていた。


「ふふっ、シリカさんはユーマのことが本当に大切なんですね。わかりました。何とかしてみます」

「ありがとうございます。腐れ縁なんですけどね。最後の家族なんです。ユーマに死なれたらもうどうしていいかわかりません」

「わかりました。あの人が無茶をしないようにしっかり見張っておきますね」

「ありがとうございます。ミラさんに見張っていてもらえるなら安心です」


 ミラはシリカのユーマを思う心に感心していた。この人がいるからユーマはあのダンジョンの地獄から帰ってくることができたのだと理解できた。人を思う心って美しいな。私にもそんな人がいつかできるかな。


そんなことを考えていると、目の前にいるシリカの表情がまた変化した。大ファンに向ける表情でも、お幼馴染の知り合いに向ける表情でもなかった。


「あの、ミラさん。一つだけ聞きたいことがあるんですけど。良いですか」

「大丈夫ですよ」


「その……ミラさんって。ユーマのこと好きですか?」


シリカが口にした言葉はミラの思ってもみなかった言葉であった。しかし、その言葉の意味は単純であった。すぐに理解したミラは微笑んだ。かわいいなシリカさんはと内心思っていた。


「安心してください。ユーマは良い人だとは思いますけどあくまで仕事の付き合いです」

「本当ですか」

なおもシリカは疑いの目を向けてきている。


「はい。恥ずかしながら私は誰かを好きになったこともまだないんです。子供の頃からずっと勉強や戦いの訓練に明け暮れて来ましたから。そんな余裕もなかったのです。まあおかげで当主とか、騎士団の団長とかやれていますが。今は忙しすぎてそんなことを考えている余裕もありません。安心してください」

「良かった~」


ミラの言葉を聞き心から安堵したのが、シリカは元の柔らかい表情に戻った。

「シリカさんはユーマが大好きなんですね」

「あいつには言わないでくださいね。なんか癪なので」

シリカは今度はすねたような顔をした。

そんな様子を見て、本当にかわいいなこの子。とミラは癒されていた。


 やがてユーマが飲み物を買って戻ってくると二人はまた他の話題に花を咲かせていた。結局この日、ミラは夜11時までユーマの家での会話を楽しんだ。止まって行けばいいのにとシリカは名残を惜しんでいたが、こんな場所より家の方が寝やすいだろよ言うとあきらめたようであった。

 ユーマは送ろうかと声をかけたが、今日は大丈夫と口にすると、ミラは出ていった。


思ったよりも楽しんでくれたようでユーマは安心した。酒を飲んで眠そうにしているシリカを抱き上げると寝室に続く階段を上がっていった。

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