第14話 同盟
翌日、オキシール家によって暴かれた麻薬事件に人々は騒然となった。ジルガルド家の次男アシッド=ジルガルドが指示を出し、他国の麻薬密売組織と手を組んでいたことが明るみになった。アシッドは大量の麻薬を手下に使い売りさばき、多額の利益を得ていたことがわかった。
「ねえユーマ、また貴族が捕まったよ。昨晩いなかったけど、ユーマがやったの?」
目玉焼きが上に乗った食パンをおいしそうに食べているユーマの前で、シリカは新聞の一面を見ながら口にした。
「ああ」
「だから言ってよ。そういうことは。全部終わってから言わないでよ」
シリカは頬をぷくっと膨らませて、ユーマをにらんでいる。本人は真面目に怒っているのだろうが、その顔は小動物のようにかわいらしくユーマには見えてユーマは微笑んだ。
「ごめん。言うと心配すると思ったから」
「もお~。いつも私を置き去りにするんだから」
「次は絶対言うのよ」
「ああ。わかったよ」
「怪我はないの? この記事に乗っている深夜の捜査ってユーマも関わっているんでしょ」
「怪我なんて負うわけないだろ。まったくシリカは心配性だなあ。ダンジョンの一番下から戻ってきたんだよ」
「心配なものは心配なのよ。知らないよ。 私、ダンジョンなんて行ったことないもん」
拗ねたような顔をしているシリカをかわいらしいなと思いながらもユーマは口にした。
「わかったよ。次はちゃんと報告するから」
「うん」
シリカの後にユーマが見た新聞によると、ジルガルド家の次男アシッドは逮捕され3年の懲役が科せられるとのことで合った。それの記事を見たユーマはうんざりしたようにうなだれた。
あれだけのことをしておいて、すべてが明るみに出たのにこの結果。懲役3年か。全くどうなってるんだこの国は。貴族に対して甘すぎだろ。
ユーマは自分の目指している世界に対する道のりが長いことを痛感していた。
事件から、数日後の夕方。ユーマはミラを両親の墓がある丘の上に呼び出した。この場所はアルドナ国から近かったが、歩いて1時間と少し距離があるため訪れる者は少なかった。この日もユーマとミラ以外は誰もいなかった。
丘の上からは、地平線に沈もうとする夕日が見えている。とても美しい光景が広がっていた。
今回ミラと手を組んだことはユーマにとって非常にありがたかった。特に、麻薬を見つけてからの捜査の速さを的確さに感心していた。
期待通りの成果を出してくれたミラに答えようと、この場所に呼んだのであった。
「美しいな。こんな場所があるなんて知らなかった」
「ああ。結構いい眺めだろ。父さんたちもここから見る景色が好きでよく連れてこられたんだ」
「そこの墓は両親のものか?」
「ああ」
ユーマが答えると、ミラは墓の前まで歩いていきしゃがむと、丁寧に手を合わせた。
「さて、話してもらうぞ。お前がなぜあれほどの力を持っているのか。そして何をしようとしているのかも」
「わかった」
ユーマとミラは地面に座っている。
ユーマは、これまでのことを話し始めた。
幼き頃に両親と共にこの国に移住してきたこと。15の時に兵士になり国に尽くしてきたこと。流行の病で両親を亡くしたこと。幼馴染のシリカと暮らしていること。そして、ダンジョンに置き去りにされ親しかった仲間を全て失ったこと。生き延びるために全力でダンジョン内を逃げ回ったこと。そして大きな力を手にしたこと。市民を抑圧する貴族たちを憎んでいることなど。
大切なことは包み隠さずにすべて話した。
ミラはどこまでも丁寧に聞いてくれた。しかも、ユーマが両親を失った話をしたときは涙を浮かべてくれた。ダンジョンに閉じ込められた話をしたときには顔を真っ赤に染めて激怒していた。
その様子を見ていたユーマの心はミラに対する信頼が高まっていくのを感じていた。
ああ。やっぱりこの人は素晴らしい人だった。一般市民の話をちゃんと聞いてくれ。涙も流してくれた。俺は、この人は信頼できる。貴族であろうが関係ない。ありがとう。
いつの間にかユーマもところどころ涙交じりの声になりながら話していた。
「俺はこの国が嫌いだ。貴族たちのことも。でも両親が愛したこの国を憎み切ることはできない。裏から必ず良い国に変えて見せる」
完全に日が沈み、辺りが暗くなったころ、ユーマは話し終えた。
しばらくの静寂のあと、ミラはおもむろに口を開いた。
「お前の人生、ここまで大変だったな。貴族を憎む気持ちも、この国を変えようとしている思いも全部理解できたよ。話してくれてありがとう」
ミラは丁寧に頭を下げた。
「ユーマと一緒に国を回ってみて、今まで見えていなかった本当のこの国の姿を知ることができたよ。私は喜んでお前の活動に協力しよう」
「ほんとか?ありがとう!」
「ただし、何度も言っているが拷問やら暴力やらは控えることを約束してくれ。私はそう言うのが好きじゃないんだ」
「わかったよ。これからは気を付ける。俺も約束は守るよ」
「ああ」
「後それと、一個だけ覚えていてくれ」
「んっ? なにを?」
「貴族の中にも良い奴はいるんだってことを」
「ああ。わかったよ。よろしく頼むな」
今日まで気付かなかったよ。ユーマは心の中でそうこぼした。
二人は固い握手を交わした。
眼下に広がる国の明かりがいつもより美しくユーマには見えた。
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