第16話 決別
ユーマの家で三人で食事をした日から、一週間後。
ユーマとミラは二人で夜の闇の中を歩いていた。二人はとある犯罪者の屋敷に乗り込み、悪事を暴いた帰り道であった。しかし、ユーマもミラも心が疲れ果て、一言も話さずに歩いていた。ユーマとミラがこれほどまでに憔悴しているのには理由があった。
先ほど検挙するために乗り込んだ貴族の屋敷で行われていた犯罪がひどすぎたのだ。屋敷に乗り込んだユーマたちが目にしたのは檻に閉じ込められて泣いている子供たちの姿であった。どの子もろくに食料を与えてもらっておらず、がりがりにやせ細っていた。他国の金持ちたちに売り払うビジネスがあることはユーマもミラも知っていたが、目にした光景は想像を絶するものであった。
普段は冷静なミラも、怒声を発しながら、屋敷の貴族たちを拘束していった。ここまで感情を露わにしたミラを見たことがないとユーマが感じたほどの激しい怒りであった。
二人は屋敷の全ての貴族を拘束すると、子供たちを解放するところまで行い、後は駆けつけてきたオキシール家の者に託したところであった。普段の様子と異なり、憔悴しきっているミラの様子に気が付いた彼女の従弟であり神聖騎士団3番隊副隊長のレオ=オキシールが先に帰るように促した。
ユーマは、ミラ以外には姿を見せないようにしているため、ミラが一人きりになったタイミングで近づいた。
今夜の事件はひどすぎた。人間のやることじゃない。あんなに幼い子供を商品にするなんて。あいつらは悪魔だ。
ユーマの心の中では今でも先ほど捕らえた貴族たちに対する怒りが渦巻いていた。閉じ込められた檻の隙間から覗くつぶらな瞳を忘れることができなかった。
二人がしばらく歩いているとミラがおもむろに口を開いた。
「なあ、ユーマ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いか?」
「ああ」
なんか普段と違い真面目な様子の声にユーマは少し身構えた。
「本当はすぐに聞きたかったんだけどな。さっきの事件の対応で今まで聞けなかった」
「なんのことだ? 言ってくれ」
「あのさ……。私たちが最初に出会った時の事件を覚えているか」
「ああ、女を拉致しては暴行を加えていた事件だよな。よく覚えているよ」
「そうか」
ミラは、何か聞こうか聞くまいか迷っているように見えたが、意を決したように口を開いた。
「今朝、知らせを受けたんだ。追放された3人が失踪したって。ユーマ、何か知らないか?」
ミラの口ぶりから、ユーマがこの件に関係しているのではないかとミラが疑っていることは明らかであったが、どこか信じたくない気持ちがあったのだろう。ミラはあえて何か知らないか?と尋ねたのだとユーマは理解した。
そして、ミラの思惑も全て理解したうえでユーマは答えた。
「ああ。俺が殺した。追放されてすぐに」
その言葉を聞いた。ミラは足を止め、瞳を閉じ深いため息をついた。
「ユーマ。なぜ殺したんだ!」
「何が悪い! あいつら他国に行ってまでまた、同じことしようとしたんだ。もう許すわけにはいかなかった。」
ミラの言葉に残虐な映像を思い出したのかユーマも語気を強めている。
「だとしても命まで奪うことはないだろう! 失望したぞユーマ! お前は結局貴族に復讐がしたいだけの人間だったのか!」
「違う! あんな奴らを野放しにして置いたらまた犠牲者が出るだろ。いつまでも監視することもできない。現に、少女を裸にひん剥いてあと少しで襲い掛かるところだったんだぞ! 人間はあそこまで来るともう変われないんだ! 殺すしかないだろう!」
「確かにあいつらがやったことを許されるべきことじゃない。だが、命を奪ったお前の行為も私は許すわけにはいかない。どんな人間にだって人を私的に殺していい権利なんてないはずだ!」
「元はと言えば判決からおかしいんだよ。なんで何人も何人も散々いたぶって殺したやつらが死刑じゃなく国外追放なんだ。俺は……、俺は、市民のために裁きを下しただけだ」
「神にでもなったつもりか! 見損なったぞ。今日限りお前の協力者をやめさせてもらう! せめてもの情けだ。お前のことを人に口外はしない。しかし、もしもまたお前が罪を重ねたら、どんな手を使っても私がお前を捕らえるからな!」
ミラは勢いよくそう言い放つと雨が降りしきる中を駆けていった。
甘いんだよ。お前はどこまでも。狂ったやつらを野放しにして平和が訪れるわけないだろ。くそっ。そんなこともわからないのか。所詮貴族とはわかりあえないのか。くそっ! 良い奴だと思ったのに。
ユーマは地面に膝を着くと、思い切り地面を殴りつけた。
普段は完璧に制御されている黄金のオーラであったが。この時ばかりはあふれ出てしまっていたため、地面が大きく陥没した。アルドナ国も一瞬わずかに揺れた。
二人は決定的な亀裂を持って別れた。
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