第8話 制裁

 それから二日後、アルドナ国は騒然となった。三人の貴族が人さらいと人身売買に手を染めていたことが明るみになったからだ。しかも貴族の内の一人は古くからの格式の高い聖18貴族に連なるものであった。これまでに被害にあった女性が合計50人を超えていることも判明し、貴族三家に対する非難は激しいものがあった。しかし、貴族たちの対応は迅速であった。3家とも罪を犯した3人を貴族の身分をはく奪したうえで国外追放にしたのだ。


 しかし、この対応に関して市民の中で納得いくものは一人もいなかった。

「まったく。馬鹿げた話よね。あれだけの犯罪をしておいて国外追放のみって。ありえないわ」

 憤慨した様子でシリカが口にした。


「そうだな。シリカにも手を出そうとしたんだ。許せないよ」

「それにしてもユーマ。本当に強くなったのね」

「ああ。正直誰にも負ける気がしないよ」

「あまり調子に乗らないの。危ないことはしないでよね」

「あっ!きたよ!ミラさん」


 二人はいま、王宮前広場で神聖騎士団3番隊による。凱旋を見物しに来ていた。昨日、迅速な対応で三つの貴族の屋敷から50人以上を救出し、3人の貴族とそれに協力した10人の逮捕に踏み切った手際は見事だった。アルドナ国では貴族が手柄を立てたときには大々的にパレードを行い、それを祝うのが習わしだった。


 広場にはユーマたちの他にもミラたちを一目みようと何千人もの人が集まっていた。

 二人が立っているところからは、きらびやかな貴族の礼服に包み、神々しいまでに存在感を放つミラが馬に乗って現れるのが見えた。

「ほんと綺麗ねぇ。しかも大貴族の当主で神聖騎士団の隊長か。はあ……。なんか差がありすぎて素直にファンだわ」

「シリカは昔からあの人好きだからな。」

「あら、ユーマだって、オキシール家だけは信用できるって言ってるじゃない」

「まあそうだけどな」

「それにしても見事だよな。一晩で全ての悪をとらえるなんて」

「あなたも協力したんでしょ」

「少しな」


 実際、オキシール家の手際は見事であった。ユーマが手渡した情報をもとに全ての悪人を一晩でとらえて見せていた。ユーマたちからしたら犯人の刑に不満はあったがそれはオキシール家ではなく王族の仕事であった。そのため、悪人を悪人として正しくとらえた昨晩の働きには素直にユーマも感心していた。

 

 若干二十歳にして神聖騎士団の隊長と四大貴族の当主を務めるのは伊達じゃないなとユーマも思った

 ユーマの近くをミラが通過するとき、ふとミラと目が合った。昨晩は鎧を頭までかぶっていたため顔を見られてるはずはないなと思いながらも確かにミラはユーマの顔を見つめたように思えた。


 パレードが終わり、広場から人が少なくなってくるとユーマはシリカに声をかけた。


「あのさ、ちょっと今日遅くなるかもしれない」

「わかった。ご飯は作っておくから。好きな時に食べてね」

「ああ。ありがとう」

ユーマは姿を消した。


 事件から3週間後、ユーマはある建物の天井裏から飛び降りた。そこには驚く3人の貴族と縄で縛られ自由を奪われた一人の娘がいた。

ユーマは追放された3人の貴族を時間を見つけては監視していた。監視を始めてから3週間後、3人はついにぼろをだした。町娘を攫って使われてない小屋に連れてきたのだ。

貴族たち3人が犯行に及ぼうとした瞬間潜んでいた天井裏から姿を現したのであった。

ごく一般的な鎧で全身を覆っているユーマを見て聖18貴族の一人、クロード=ザガールは顔面が蒼白になり、一人小屋から逃げ出そうとした。しかし、ユーマが入り口に先回りしてそれは許さなかった。

「まったくあきれたやつだ!お前らは……。どこまでいってもくずはくずなんだな」

「なんだお前一般兵のくせに」

「そうだ。お前こそくずだろう」

 貴族の二人はユーマを一般兵だと思ってどこまでも下に見ており散々言い返した。


「待て、お前たち。待て」

 そんな二人をクロードは必死に静止しようとしていた。

ユーマはそんな三人を尻目に少女を介抱すると端に捨てられていた服を渡してあげた。

「危なかったな。こいつらは明日にはもういないから心配しないでくれ。」

ユーマは少女にそう微笑むと、貴族3人に同時に触れ、スキル瞬間移動を使用した。少女の目の前からは4人の男はいなくなった。


ユーマが貴族たちを連れてきた先はダンジョンの地下74階であった。

「おい。ここはどこだよ」

「どういうことだ?」


 3人の貴族たちが動揺していると、獲物の匂いを嗅ぎつけたのか次々と三つ首タイガーが集まってきた。その数は10頭を超えている。うなり声をあげながらその鋭い眼光を光らせている三つ首タイガーたちを見た3人はやっと自分が置かれている状況を把握したのか。今になってユーマに向かって謝り始めた。

「おい。お前。頼む。何とかしてくれ」

「そうだ。もう二度とあんなことはしない。約束するから。な」

「お願いだ。まだ死にたくないんだ。頼む。金なら払うから」


 三人はみじめにユーマに向かって必死に頼み込んできた。

しかしユーマの心は揺らがなかった。

「戦えばいいだろう。貴族らしく。強いんだろう?」

恐ろしいまでに冷徹な表情をしている。

「三つ首タイガーに勝てるわけがないだろう」

「お願いします!なんでもするから」

何といわれてもユーマは反応しなかった。

そうこうしているうちに三つ首タイガーは完全に3人を包囲していた。ユーマの持つ力を感じ取っているのかユーマには一切近づいてこなかった。

3人は最後の頼みとばかりにユーマに向かって頭を下げた。3人との絶望の表情を受けべながら泣きじゃくっている。


 「最後のチャンスだったんだ。あれだけの罪を犯しておいて国外追放で済んだだろ。もし、改心していたら許していた。でもお前らは家からもらった金を使い豪遊三昧。挙句の果ては今日の蛮行だ。悪いがお前たちを野放しにしておくわけにはいかない。おとなしく食われてくれ。恨むなら今までの自分の行いを恨むんだな」


 ユーマの言葉を聞いた3人は泣き始めた。それと同時に三つ首タイガーは一斉に襲い掛かり、三人をむさぼっていった。

ユーマはその光景を見ることはせず、姿を消した。


 夜、布団の中でユーマの気分は最悪であった。この世に生かしておくことができない絶対悪を消しただけのはずなのに心は少しも晴れなかった。

隣で寝ているシリカはユーマの様子がおかしいことに気付いていたが、深くは尋ねなかった。その代わり、いつもよりもユーマに密着し、ユーマの頭をなでてあげていた。

シリカの手から伝わってくる優しさがゆっくりとユーマの心に染みこんでいきいき、ユーマは眠りにつくことができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る