第7話 力の差

 余裕の表情を浮かべながら、クロードはユーマに向かって真っすぐに向かってきた。ユーマはクロードが繰り出している毒のオーラを纏った紫色の剣撃を全てかわした。


 ユーマが全ての攻撃をあっさりとかわしたことにより、クロードは体を覆っているオーラの量を増やし、さらに斬撃を繰り出してきた。先ほどよりもはるかにスピードが上がった高速攻撃をユーマは楽に躱していった。クロードの顔には次第に焦りの表情が浮かんでいった。その表情を見つめながら、ユーマは神に感謝していた。


 ああ、神様。ありがとう。この力をくれて。おかげでこいつみたいな悪を消すことができるよ。あんなに埋められない差があったのに。嘘みたいだ。

 

 莫大なオーラを体内に巡らしたユーマにはクロードの高速攻撃も止まっているのと同じであった。ほんの少し、早く動こうとしただけで、相手の動きを上回ることができる。今のユーマからして、クロードとの力の差は、蟻と象よりも大きなものがあった。


 ユーマはこの先、戦うであろう多くの貴族たちとの力の差を推し量るように、自分からは攻撃をせずにあえてクロードの攻撃を受け続けた。

やがてクロードの息は上がっていった。


 「はあ……はあ……、くそっ、なんで当たらねぇ!」

とっくに本気を出していたが、その剣がユーマの体を捕らえることはなかった。


 やがてユーマは、クロードが繰り出してきた右からの攻撃を右手でつかんでいた剣で受け止めると、左拳をクロードのみぞおちに叩き込んだ。

 ユーマの拳を受けたクロードは、何メートルも後方に飛ばされ、壁に激突した。その衝撃で壁にはひびが入った。


 壁の前に倒れているクロードは、何とか立ち上がると、信じられないものを見るような眼でユーマを見つめている。ここまで戦ってやっとわかったのだろう。目の前の男が自分よりはるかに強力な力を持っていることを……。


「はあ……、はあ……、お前は一体……」

「ただの一般兵士だって言っているだろ」


 ユーマはクロードのそばに駆け寄った。少し速く駆けただけで瞬間移動も使っていないのだが、クロードにはその姿は見えなかった。

 

 ユーマが放った一撃により、クロードの右腕が宙を舞った。血しぶきと共に、自分に落ちていった。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

あまりの激痛にクロードは悲鳴をあげた。そのあまりの声の激しさに、捕えられている女たちがびくっと震えた。


 ユーマはもう一方の腕も切り落とした。またしても叫び声をあげ、クロードは苦悶の表情を浮かべながら悶え苦しんでいる。


「ああああああ。やめてくれ。頼む」

 いつの間にかクロードは泣き出していた。数分前に尊大な態度をとっていたのが嘘みたいにみじめな声をあげている。


「お前はやめてという人の声を聞いてやめたのか?」

 ユーマはさらに太ももに剣を突き刺した。痛みで倒れようとする体をユーマが掴み、無理やり立たせている。


あまりの痛みと恐怖に、クロードは絶望の表情を浮かべている。


「ごめんなさい。ごめんなさい。本当、許してください。死んじゃうから!お願いします」


 クロードのその哀れな姿を前にユーマは剣を足から引き抜いた。


「質問に答えろ」

「答えます。なんでも。なんでも」

「お前と同じようなことをしている貴族は他にいるのか」

「アクバ家のユーリとベルボード家のエルダです」

「間違いないか」

「間違いないです。ここと同じように地下で拘束しています。一度行きましたから」

「そうか……。攫ってきた女たちは最後どうするのだ?」

「使えなくなった女は人買いに売ったり……殺したりしました……」

「そうか。人買いの情報、攫った女の情報をすべては吐け」

「わかりました」


 ユーマはクロードから必要な情報を聞き出すと、スキル「強ヒール」を使ってクロードの体を完全回復させた。

 そしてすぐに後頭部に手刀をいれ、気絶させた。


 ユーマは地下に幽閉されていた女性の鎖を全て外すと、クロード家の屋敷のあらゆる部屋にあった毛布を持ってきて一人一枚ずつ渡してあげた。女性たちはみな涙も出ない程呆然としていて一言も言葉を発しなかった。

 しばらくすると、突然、地上につながっている通路の方から一人の女性が飛び込んできた。


 姿を現したのは、アルドナ国で今最も注目されている女騎士であった。

青く透き通るような瞳に金髪の髪を後頭部で束ねている女性はミラ=オキシールという。ユーマでさえ何度も見たことがあるほど有名な女性である。人形を思わせるような端正な顔立ちと神聖騎士団の3番隊隊長を務めるほどの実力の高さから貴族、市民を問わず圧倒的な人気を誇る美女であった。


 ミラはユーマを見つけると声をかけてきた。

「お前は何者だ? ここで何をしている」


 全身鎧を身に纏っているユーマをみるミラの瞳は強い動揺をはらんでいた。

「俺は敵じゃない。渡したいものがあるんだ」

ユーマはそれには答えずミラのもとへ駆け寄ると、一枚の紙を手渡した。そこには同じような犯罪を行っている貴族の名前と人買いの名前が記されていた。


「クロードから聞いた」

「おい、お前は」


 紙を受け取ったミラは慌てて質問してきたがユーマは、


「後は頼んだ」

と言い、スキルを使い姿を消した。

 

ユーマがいなくなったすぐ後に、数名のオキシール家の人間が地下室へと到着した。その部屋を見て誰もが声を失っていた。

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