第5話:束の間のデート。

次の日安羅は学校を休んだ。

まだ完全完治には至らないんだろう。

僕は学校の帰りキューピットに寄った。

櫻井さんが出て来てくれて安羅の部屋に案内された。

安羅はベッドで眠っていた。


「まだ眠ってるようね」

「はい、そのようですね、そっとしておいてあげましょう」

「しっかり休養とって早く元気になってほしいですから 」


僕は晩ご飯の時間になるまで、ずっと安羅のそばにいた。


そして次の日、安羅は学校に来た。

僕はひとまずホッとした。


「安羅、もういいの?、大丈夫?」


「うん、大丈夫」


ようやく安羅とちゃんと話せるようになった気がした。


「昨日、ずっとそばにいてくれたんでしょ?」

「櫻井さんから聞いたよ」


「君のことが心配だったから・・・」


「ありがとう、なんで私のことそんなに気にかけてくれるの?」


(そりゃ・・・好きだからに決まってるだろ)


「なんでって?・・言っても君には分かんないと思うよ」

「だからいいんだ・・・」


今の安羅に恋愛感情なんか意味のないことだろう。

でも嬉しいとか楽しいとかって感情は少しでも持ってほしい。


「ねえ、安羅、次の土曜日か日曜、遊園地か動物園に行ってみないか?」

「行ったことある?そういうとこ?」


「遊園地?」


「嫌なら無理にとか言わないけど・・・」


「いいよ・・・」


「ほんとに?・・・じゃ〜土曜日にしよう」

「朝イチでキューピットまで迎えに行くから」

「って言うか、まず施設長さんか櫻井さんの許可取らなきゃね」


心を開かなかった安羅が、僕には少しづつ心を開き始めた。

大きな一歩だ。


その日の昼休み、僕は横地から呼び出された。


神童しんどう・・・おまえ、根暗女と普通に話してるじゃん」

「何があったんだよ」

「いつから根暗女とそこまで仲良くなれたんだよ」


「ちゃんと誠意を持って話せば、人は分かってくれるもんだよ」


「誠意って・・・なんか怪しい・・・下心じゃないのか?」

「おまえと根暗女の間でなにかあったんだろ?」


「なにもないよ、自分の横にいる女の子とくらい仲良くなりたかった、

それだけだよ」

「おまえ、根暗女に気があるのか?」


「毎日、顔を合わすんだから、仲良くしたほうがいいだろ?」


「そうか・・・おまえらしい神童・・・でもおまえも、物好きだな・・・

たしかに式神はブスッとしてなきゃ、可愛い思うけどな・・・」

「まあ・・・いいんじゃないか?」

「式神にも普通に話ができる彼氏がいたってさ・・・」


「彼氏ってなんだよ・・・」


「あのな、おまえは正直だから、分かりやすいんだよ神童」

「式神のこと好きなんだろ?」


「そうだったら、なんだって言うんだよ」


「別に〜俺は人の恋路を邪魔するような野暮じゃないよ」


「横地、おまえには関係ないことだよ」


僕は学校が引けると安羅をキューピットまで送って行った。


「私、ひとりで帰れるよ」


「櫻井さんから安羅のこと面倒みてやってくれって頼まれてるし・・・」


「そうなの?」


「って言うか、櫻井さんから頼まれたからってだけじゃないんだけどね」


「僕の本心・・・僕がそうしたいって思ってるから」

「だから僕の好きにさせてほしんだ」


「いいけど・・・神童くんって変わってるね」


「そうかもね。あのさ、人が人を好きになるって理由分かる?」


「うん、それは分かる、私櫻井さんのことの好きだし・・・」

「神童くんのことも・・・私を助けてくれたもんな」


「ありがとう・・・そうだね」


安羅は僕に恩を感じてるんだ、それで好意を持ってる。

今はそれでいいんだ・・・。

それに今は、のんびり恋愛ごっこなんかしてる場合じゃないし・・・。


僕はそのまま安羅をキューピットまで送って行った。


「じゃ〜僕、帰るから・・・また明日ね、安羅」


「バイバイ、神童くん」


そう言って安羅は小さく手を振って、振り返りながらラボの中に消えていった。


それからも僕は毎日、安羅をキューピットに送って行った。

教室にいても、安羅とよく話した。

だからそんな僕たちを見て、なにが珍しいのかクラスのちょっとしたウワサに

なった。


僕たちが付き合ってるんじゃんじゃにかって。


まあ、誰ともクチを聞かない安羅が、僕と普通にしゃべってることが

稀有に見えたんだろう。

僕のことを物好きって思ったかもしれない。

どう思われようとそんなことはどうでもよかった。


そして土曜日。

僕は朝イチでキューピットまで安羅を迎えに行った。


「安羅のこと頼むね神童くん」

「ただし君達がどこにいても分かるようにしてあるから・・・」


「万が一時は、私も駆け付けるからね」


「万が一の時って?なんですか?」

「僕、なにもしないですよ」


「なにか勘違いしてるよ神童くん・・・昼間っからなにしようっ言うの?」


「私が万が一って言ったのは、もしベリアルが現れた時って意味よ」

「この間みたいに安羅が負傷した時のためだよ」

「神童くんがそばいても、対処できないでしょ」


「それまではふたりのデートの邪魔はしないわよ」


「ああ・・・そういうことですか・・ですよね」


「神童くん・・顔が赤くなってる・・・」


「え〜安羅も・・・からかうんじゃないって・・・」


「ふたりとも平和にデートが終わることを祈ってるわ」


だが、そうは問屋がおろさないっていうやつだろうな。

そうとは知らずに僕は安羅を連れて呑気に遊園地に遊びに出かけた。


つづく。





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