第2話:天使は覚醒せり。

安羅あらはベリアル同様、気高い咆哮をあげると、そのまま窓ガラスを破って、

外に飛び出した。

地上には落ちずにそのまま一気に空中へと舞い上がって行った。

両腕をかかえるようにして・・・そして背中から生えた真っ白な翼で羽ばたいた。


その後ろ姿はまるで美しい天使「エンジェル」のようだった。


そうなんだ、安羅は対ベリアル用にキューピットで生み出された秘密兵器なんだ。

僕はそう思った。

彼女は人間じゃない。

バイオノイド?・・・ミュータント?、サイボーグ?


安羅は翼を広げて空に舞い上がると、暴れまわってるベリアルに向かって

飛んでいった。

彼らを倒すのが自分の使命であるかのように・・・。


僕は居ても立ってもいられなくなって安羅を追って教室から飛び出した。

そして自転車置き場に止めてあった誰かの自転車を借りてベリアルが暴れている

街へ向かった。


自転車で走ってるとポツポツ雨が降り出した。

今朝の天気予報の通りだった。


微妙な天気だ・・・黒い雲の間から太陽の日差しがまだ差していた。

雨は勢いを増した。

僕は通り雨だろうと思った・・・長くは続かない。

この時期特有の雨だ。


なるべくなら安羅の様子を近くで見てみたかった僕はよく見えそうなビルの

屋上に上がった。

思った通りそこから街中破壊しながら進むベリアルの姿が見えた。


そして今まさにその時だった、天からの差し込む天使の階段を背に

本物の天使が降臨しようとしていた。

安羅だ!!

やはりその姿は美しく幻想的だった。

窓から飛び落ちた時よりはるかに体は大きく成長していた。


ベリアルの前に降りた安羅は、また咆哮を上げた。


安羅を見たベリアルはそれに応える様に吠えた。


歩みを止めると安羅に向かって挑みかかって行った。

ベリアルは、左右合わせ腕が10本腕がある。

その触手の様な腕で、安羅の腕をいち早く掴んだ。


2本の腕と10本の腕ではパワーが違う。

安羅はベリアルに徐々に押し戻されていった。


「安羅、ベリアルなんかに負けるなよ・・・」


そりゃ味方を応援するだろ・・・僕はつい手に力が入っていた。


ベリアルの背中にあった尖った槍の様なものが背中の中に仕舞われたと

思ったら、胸と腹のほうからいきなり現れた。

そしてそのまま、瞬時に伸びると安羅の体を串刺しにした。

安羅の全身をベリアルの尖った槍が何本も貫いた。

安羅の体から体液が吹き出した。


「安羅・・・」


安羅は雄叫びをあげなから、体をよじると徐々に動きを止めた。

するとベリアルの尖った槍が安羅から引く抜かれ、10本の腕が安羅の腕を

持ったまま彼女を高く持ちあげた。


ベリアルは安羅の腕を引きちぎろうとしてるんだ。


あんなに無残に串刺しにされたらひとたまりもないって僕は気が気じゃなかった。

安羅の敗北を見るような面持ちだった。

胸がドキドキして張り裂けそうだった。

手が震え・・・そして自然と涙が出た。


その時だった、安羅は気を取り戻すと上体を立て直して傷を負った体で、

両足を屈伸したかと思ったら、ベリアルめがけで思い切り蹴りあげた。


安羅の蹴りをまともに食らってベリアルは後方へ弾き飛ばされた。


すると安羅の体がピンク色に変色しはじめた。

安羅はそのまま間髪入れずベリアルめがけて突進して行った。

そしてベリアルの腕を持って力を込めると、一気に左右2本引きちぎった。


たぶん安羅の体の色はパワーの大きさによって色が変わるんじゃないだろうか。


結局、ベリアルは安羅によって10本あった腕をすべて引きちぎられた。

無残な光景が広がっていた。


するとベリアルの頭部の角から、いきなりバリバリ音を立てて電撃が放たれた。

でかい稲光が安羅めがけて飛んだ。

その稲妻を間一髪で避けた安羅は、すばやく動くとベリアルまで飛んで

その角もへし折ってしまった。


主要部分を全部もぎ取られダルマ状態になったベリアル。


その時には安羅の体は真っ赤に染まっていた。

彼女は覚醒したんだ。


するとあのテレで見た光景が、ふたたび展開されようとしていた。


安羅は両腕を前に出したかと思うと、まるで人を指差すみたいな格好をして、

背中から発光した光が肩から腕に伝わって、前に出した人差し指まで到達すると

指先から細いビームを一気に発射した。


そのビームを食らったベリアルはマグロのブツ切りみたいに数え切れないくらい

のブロックに切断されたあげく粉々に粉砕されて空中に飛散した。

テレビで見たあの光景そのままだった。


あの時はテレビだったが、今はその光景を生で目の当たりにしている。

これが安羅の最大最強のウエポンなんだ。


安羅はベリアルに勝利した。

ただただ僕は呆然とビルの屋上に佇んでいた。

雨は霧雨になって、安羅とベリアルがいた向こうに綺麗な虹が出ていた。


我に返った僕は、安羅を見た。

ベリアルを倒した安羅は、白い体に戻って徐々に小さくなって行く姿が目に入った。

人間としての安羅に戻ろうとしていた。


僕はビルの屋上を降りて、すぐに自転車で安羅の元にむかった。


だいたいの目星はつけていたので、すぐに安羅を見つけることができた。

そこには普通の女の子に戻った生まれたままの姿の安羅が倒れていた。


敵を倒したとは言え、安羅も無傷じゃない。

僕はすぐに安羅に駆け寄って生きてるかどうか確かめた。


安羅は無事生きていたし、かすかに息もしていた。

でも体が異様に冷え切っていた。


このままじゃいけないと思って僕は自分の学生服を脱いで安羅に被せてやった。

それだけじゃ足りないと僕は安羅を抱き起こして、僕の胸に抱きしめた。

そして彼女の体を必死でこすった。


「死ぬなよ安羅・・・がんばれ・・・死ぬな、絶対死ぬなよ」


僕は救急車を呼ぶべきかどうか迷った。

もし病院へ搬送された場合、安羅の正体が暴露されて世間に明るみに出たら、

彼女のプライバシーはおびやかされる。

それは絶対よくないと思った。


今のところこの状況を知ってるのは僕だけ・・・。

このままなんとかして安羅を僕の家に連れて帰ろうか。


そんなことを考えてると僕の背後から数台の車が迫って来て、一台のRV車が

僕と安羅の横に止まった。


その車のドアには英字で「BSQ」と言うロゴとキューピットが弓を構えてる

イラストが描かれてあった。


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る