第33話 ラーミ達の秘密

 ラーミは真剣な顔でマルクを部屋へと誘った。


「それは今でないとダメなのか?」

「はい。今のほうがいいと思いまして」



 マルクはラーミの部屋へと入った。

 入った瞬間ため息をだす。ラーミが借りている部屋の惨状に服は脱ぎっぱなしで酒瓶は転がっている、ベッドには食べかすが落ちており、床に毛布が引いてあった。



「汚いな」

「座る場所はありますけど? それにマルクさんの家もこんな感じでしたし」

「それは、まぁ……そうだな」



 別にマルク自身は綺麗好きでもないのでラーミの圧に負け、近くのソファーに座る。ラーミは部屋に置いてあった飲み物をマルクに渡すと近くのベッドに座った。



「話とは?」

「あっそうでしたね。サンフラは人を殺していますね」

「ん? 先ほどの会議でもそういう話に落ち着いたはずだが、ラーミ聞いてなかったのか?」

「その後といいましょうか、恐らくは、いいえ絶対に殺した相手を食べています」



 ラーミがあまりに簡単に言うのでマルクの思考が一瞬停止した。ラーミはマルクが何を言うのかを待っているようだ。



 (ラーミが俺にいきなり嘘を言う必要は今は無い。と、言う事は本当の事と思っていいだろう。しかし……相手は貴族だぞ。食料を買えない事はないだろう。しかも貴族だ……考えたくは無いが冒険者を食べる必要性もない)



「そう言い切れる理由はもちろんあるのだろうが」

「だって私がそうですから」



 ラーミが簡単にいうとマルクは思わず喉を鳴らしていた。

 幼くかわいらしい少女と思っていたラーミの雰囲気にのまれそうになっていく。



「あっもちろん。私は人を食べた事は無いですよ、止められていますし」

「誰にだ」

「誰にってママですけど……なんて言いましょうか私のパパってそりゃ無茶苦茶強かったらしいです。私が生まれた時は死んでいましたので知りませんけど、で私のママってそりゃもう鬼畜で、エルドラおばさんが優しく見えるほど……っと話がそれましたね。私がここまで強いのはママの研究の成果と私がエルドラおばさんを食べたからです!」



 なぜかピースサインをしてマルクに勝利宣言する。

 マルクのほうは考えが追い付いていない表情だ。



「どういう意味だ?」

「あれ? ですからそのままの意味なんですけど……」



 (エルドラを食べた? しかしエルドラは生きている)



「困りましたねー私はマルクさんよりも説明が上手でありませんし、簡単に言えば魔族みたいなものですね。相手を食べてその力を吸収する秘術があるんですよ。もちろん誰でもってわけじゃ無いんですけど……ママとパパの親友であったはずなのに私に隠していた理由などを考えた結果です」

「……そうか。いや、そうなのか……ラーミもそうなのか!?」

「私の場合はほらあのですね、エルドラおばさんの脱皮した皮に残っていた肉などを食べたわけで」



 マルクが辛うじて口を開くとラーミが落ち込んだ顔になった、思わずマルクのほうが驚いてラーミの肩をつかむ。



「具合が悪いのか!? もしや誰かに伝えたら死ぬ契約だったとか!」

「いえ。これで私は普通の人間と違うってバレてしまってマルクさんに嫌われて捨てられるのかと思うと」



 ラーミが下を向いて自身に起こりえる話をしだす。その内容にマルクは思わず吹き出してしまった。



「なっ! 笑うだなんて」

「いやすまない。たとえラーミが普通の人と違うからといって、すでに俺から見れば普通の人間ではないからな。それでいて今さらそこを気にしてるのかと思ってつい」

「むあーーー! ついって何ですかついって! これは私も激おこですよ」



 ラーミが怒り出すのでマルクはさらに笑い、ラーミに許しを得るにはどうしたらいい? と聞いてみる。

 ラーミは突然だまると口をすぼんで目を閉じる。キスをして、と言っているのだ。


 マルクは周りを確認してみる、鍵のかかった扉しかいない。

 (ここで流されるのは駄目な大人だな)




 ◇◇◇


 2人の密談から一夜が明ける。

 マルクはいつも通り一人部屋で起きて顔を洗いに中庭へと向かう。トーマと出会うとトーマは今にも倒れそうな顔をしていた。


 その背後には元気そうな女性達をの顔を見るとマルクは何も言わない事にする、他人の事情に口を出しても余計な事にならないからだ。



「うっわっ随分とツヤってますね」

「ラーミ!?」

「あっおはようございますマルクさん。見てくださいトーマさんなんて今にも倒れそうですよ、それに引き換えミイナたもご!?」



 マルクがラーミの口をふさぐとトーマ達の顔が赤くなっていく。



「所で大会まであと2日だ、色々協力してもらったが、最初の作戦で行こうと思う」



 マルクが真面目な話をするので全員の顔付が変わっていく。

 疲れ切った顔のトーマも小さく頷くとマルクに聞いて来た。



「ラーミさんが大会に出てマルクさんとの結婚を報告、サンフラ宰相との婚約の事をうやむやにする事。でしたね」

「ああ、サンフラ宰相の婚約の話は一部噂になっているが、相手が誰なども殆どが知らない、門兵に伝えられていたのも俺とラーミが重要参考人で俺の方は捕まえておけ。しか出てないからな」

「もごごごごももごごご!」



 ラーミが何か話し出したのでマルクは慌ててラーミの口から手を離した。



「マルクさん、相当力上がってますね。いい結果です! ではなくて、勝ち上がってサンフラを闘技場に引っ張り上げてボコボコの刑です。それでだめなら海でも渡りますよ」



 冗談にも聞こえる発言であるが、これはマルクとラーミが昨夜相談した結果だ。

 サンフラが冒険者を食べて強くなっている。と聞いた所でそれに対処する方法は勝つしかないからだ。


 マルクとラーミがそういうのであれば、協力してきたトーマ達はそれに従うしかない。それでも何かあれば力になります。と言うと朝食のために中庭を移動する。


 昼間は男装したラーミは女性陣とショッピング。マルクはトーマと中庭で訓練をしたりと時間を潰していく。


 マルクとトーマの特訓は何時間に及び若いはずのトーマのほうが先に根を上げた。



「マルクさん! お手上げです」

「トーマもう1回だけ頼む」

「試合にでるのがラーミさんで心配なのはわかりますけど……いえ、わかりました」

「すまないな」



 マルクは自分の不甲斐なさを消すようにトーマと訓練をする、そこに買い物から帰ってきたラーミが加わると、ミイナ達もその特訓に付き合った。




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