第32話 マルクの気持ちとラーミの話

 マルクが隠し扉から出ると壁は自動的にも度に戻った。あまりの事で顔は青ざめる。

 手には血に染まった冒険者カードが1枚握りしめられていた。



「さすがに馬鹿な俺でもわかる……信じたくはないが。殺した……か」



 隠し部屋の中は戦うには狭い小部屋だった。その隅に血に染まった衣服の山とそこに光る冒険者カードを見つけたマルクはさらに隠し部屋の中を調べた。


 が、それ以上は特に見つからず謎が残ったままマルクは旧闘技場を後にする事となる。


 秘密の小屋から外にでると日差しがマルクを襲う、先ほどの陰気な気分を晴らすように。



「少し調べるか」



 マルクが向かったのは中央冒険者ギルド、地方都市マグナと違ってその建物は3倍ぐらい大きい。女装姿のマルクを見ては驚き逃げる人間もいるが流石は変態ばかりの冒険者達だ3割ほどは動じない。


 真っすぐに冒険者ギルド初心者カウンターへ行く。総合案内をしてくれるカウンターで登録などもここでおこなったりする場所だ。



「………………冒険者登録なら銀5枚」

「A級冒険者ハントニーという者を探している」

「人探しは金1枚」



 マルクは黙って金貨1枚をカウンターに出すとギルド職員は何人かの冒険者に声をかけた。どれもこれも昨日から姿を見てないや、女の所にいるんだろ。など聞く人間によっては適当に探しているようにも聞こえる言葉だ。


 人を探しに来る一般人は大抵怒る。しかし冒険者の言葉と言うのは中々の情報で、今の言葉からギルド職員は正解に近い答えを導いてくる。



「今日はまだ仕事には来てない。人探しの依頼であればF級。銀貨8枚。言伝なら0枚。家を教えて欲しいなら5



 マルクは黙って大金貨5枚をカウンターに出した。

 だされた職員の顔が驚きマルクと大金貨を交互に見る。

 マルクもこの大金貨の要求はギルド特有の冗談だって事は分かった上での提示だ。それに本当に家を教えてくれるなら大金貨5枚出してもいいと思っての事である。



「…………貴族か? いや……訳ありか。それとも……復讐か?」



 マルクは黙って首を振る。

 復讐ではない。との意味合いで。

 もっとも復讐者も当然嘘をついて黙って首を振るので教えてくれるかは冒険者ギルド職員の匙加減さじかげんだ。



「大金貨1枚でいい、記憶によればハントニーに持ち家はない。中央通りの宿ルーシェに聞いてくれ、紹介状を出す」



 紹介状を貰ったマルクはそのまま冒険者ギルドを後にする。

 高級ホテル街にくると後ろからトーマの声がかかった。



「マル……コさん!」

「トーマか、ここで何を?」

「こっちのセリフです。サンフラ宰相を調べていたら数日前にここに来たって話を」



 マルクはトーマに旧闘技場で見た事を話した。



「あまりいい話ではありませんね。調べた結果サンフラ宰相は強い冒険者に個別依頼を出している事が多く、僻地への素材集めですね……珍しい物をコレクションしているらしく何人も依頼を受けています」

「もしや全員……」



 マルクが最悪の考えを口にすると、意外にもトーマは小さい声で「いいえ」と返してくる。



「何人も普通に依頼を受けて普通にお金を貰っています。現に先ほど会った人は大金を手にいれ、宰相が誰かと結婚するなら嬉しい事はないね。と、喜んでました」

「帰ってきてない冒険者は……」

………………普通に考えるのであれば」



 偶然でも普通でもないだろう。とマルクは考え、トーマも頷いた。

 A級冒険者のハントニーが泊まっていた宿につくと、僕が行きます。とトーマが聞き込みに入った。マルクが待っているとすぐに宿から出てくる。



「昨日の夜に宿をでてますね。帝国領で手に入る雪月花を取りに行く。とだけ聞いている。と言われました」



 2人とも無言だ。

 確実に殺された。という推測はあるが訴えても無理だろう。宰相という相手の立場的強さはもちろん、血に染まった冒険者カード1枚でどうこうできる話ではない。


 仮にサンフラ宰相を問い詰めても隠し扉の事でシラを切られればそれで終わる。

 逆に訴えたマルク達が捕まるのは眼に見えているかだ。



「で、どうします?」



 トーマが言うのはこの事を皆で共有するかの話だ。



「どうするべきか……」

「マルッコさーーん!」

「っ!?」



 甲高い声に振り向くと男装したラーミの顔が近くに会った。ラーミは既にジャンプしておりマルクの顔を掴むと自分の顔と合わせる。

 もちろん口と口は繋がっており、んーーーーーっぱっと擬音が見えるほど力強く離れるとラーミの口にはマルクの口紅がついていた。


 追いついたミイナが呆れた声をだす。



「ラーミちゃん、いきなり走るから敵かと思ったら……そのハレンチだな」

「この格好で外でするのは2回目なので、馴れましたよね!」

「うわぁ……」



 周りから見ると美青年がゴリマッチョ女装にキスをしてるのだ、規則には厳しいミイナであっても、思わず、うわぁしか出てこない。



「…………俺は慣れない。ラー……オハンカチがある、その口に赤色がついている」

「ここに来て残念発言!」



 ラーミは口元をハンカチで軽くふく。元気いっぱいだ。



「2人で何していたんですか? は! ホテル街で2人でする事といえば……まさかのBL」

「トーマに限って、いくらこれ以上ハーレムは慎むように。とお願いはしているが、まさか男に走るような、そんな事は無い……と思いたい」

「BLの意味がわからないけど、想像してるような事はないよ。二人だけ?」



 トーマが言うとミイナは安心した顔で事情を説明してくれる。

 ショッピング中にラーミが何か怪しい空気を感じます。というと、物凄い遠くからでもわかる女装したマルクとトーマを発見した。と、言う事だ。


 他のメンバーである黒髪のナッチと眼鏡のフォーミンが追い付いてくる。



「あのいきなり走って……マルコさんこんにちは」

「ラーミが無理させてすまない、一度戻ろう。やはり話すべきだ」



 マルクは隠し事はしない。と決めトーマの顔をみる。

 トーマのほうは頷くしかない。



「え。本当に浮気です? でもご安心をミイナさん達から愛の伝授をされています。浮気の一つ二ついいじゃない。最後にはその相手も引き込んで抜け出せないほどの愛をぶつければ答えてくれる。だそうです」

「な、何の話を教えたのかなミイナ、ナッチ、フォーミン」



 黒髪のナッチが小さく手をあげる。



「こうでもしないとわたしの出番ないですし」



 何の出番かは誰も意味が解らなかった。



 ◇◇


 夕食後にトーマ達の部屋に集まりマルクは会った事を話す。

 全員の表情は自然と暗くなる。



「と、言うわけだ。トーマ達にこれ以上危ない事をさせたくはない、一度マグナの街に戻ってギルドマスターのフィさんと相談してもらいたい」

「マルクさん! 僕達だけ帰らすつもりですか?」

「出来る事ならラーミもつれて言って欲しい。と言うのが俺の気持ちであるが……」

「離れませんよ? 一生変装は面倒ですけど、それも国内に限ってでしょうし。いっその事、王国から帝国、帝国から海超えて氷山のむこうでも行きます? そこでしたらサンフラも諦めますでしょうし」



 ラーミは淡々としゃべりマルクに対して少し怒っている。その空気が周りに伝わり、占いに凝りだしたアケミがカードをめくり始める。



「遠くに行くのは死神のカードが出たねぇ……メビとウスの双子の神の間に死神がでたでしょ? これは絆が割かれるって意味。まっ占いなんで真実じゃないけど」

「むーー」



 ラーミがこれ以上文句を言わないのは、その占いのおかげでマルクがサンフラに出会ったのを聞いたからだ。



「ちなみに、私達が帰った場合もいい結果は出てない。と」

「アケミさん。それまだ占ってないですよね? ね!?」

「私は駆け出しの占い師、結果なんていくらでも偽造するよ」

「ダメでしょ。とにかくマルクさん僕達は最後まで、2人の安全が確認されるまでは付き合いますよ」



 マルクとしては、頼むとも言えない。



「それに冒険者なんです」



 だからなんだ? と言われる言葉であるが、ここ一番で使った言葉で、よくわからなくマルクは納得させられてしまった。



「まー心配してもしょうがないですし。私が負けると思ってます?」

「思ってはいないが……」

「じゃぁ今日は解散しましょう。明日の事は明日考えればいいんです」



 ラーミが作戦会議の閉廷を伝えると本日の会議は終了となる。

 マルクが納得しなくラーミはマルクの体を無理やり引っ張っているが体が大きく座り込んでいるマルクは部屋の出入り口から出れないでいる。



「あのマルクさん立ってもらわないと、入口を壊す羽目に……」

「ラーミちゃん。そういう時はこうすればいいだけさ」



 アケミが宣言すると、突然服を脱ぎだした。

 さすがのマルクも目を見開く。マルクには見せないように背中を向けてのショーであり上半身は既に裸、次にショーツも脱ごうとしている。



「なっんぐ!?」

「アケミ……はしたないぞ」

「えーでも、マルクさんが部屋から出ないとトーマとの語らいの時間が減るしー、私は別にいいのよ。ミイナの時間が減るだけで」

「私の減るの!? 順番待ったよ!?」



 ミイナが叫ぶと、ミイナはマルクを恨めしそうな眼で見る。



「わ、わかってる。すぐに出ていく」

「なるほど、おぼえておきます!」

「ラーミ覚えなくていい」



 廊下にでて突き当りまで2人であるく、それぞれの部屋に入ろうとすると、ラーミがマルクの手を握った。



「マルクさん少し大事な話があります」



 そういうとラーミは自分の部屋にマルクを招き入れた。

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