第31話 マルコさん宰相と出会う
結界内にある時間の止まった実家。
なんだかんだでマルク達は7日ぐらいそこに滞在した。
ラーミの実家にある地酒が美味しく美味しく、2人とも飲んでは寝て起きて出発しようとすると、残った酒を見て喉を鳴らす。
どうせ時間は止まってますし……と悪魔の誘惑に負け延長と言う形になったのだ。
ラーミ曰く『もうここで暮らしてもいいんじゃないですかね?』という提案に、マルクは思わず頷きそうになったが何とかその誘惑を断ち切っての出発をする。
今回の事で2人だけならその案も少なからずあったかもしれないが、今は他のトーマ達も手伝ってくれている。それにマグナの街でもシスターアンなどが心配してくているからだ。
その事をラーミに伝えると「さすがはマルクさんです! それもそうですね」と、あっさりと出る事を決めた。
入って来た時と同じように外は夕方のまま、そこからラーミが全力で走り夜の少しふけたあたりに二人は王都カーベランスへ戻ってきた。
「はい、マルコさんカツラと口紅です」
「…………これを見ると嫌になるな」
「その割には手馴れてきましたね」
「何度もつけているからな、さてトーマ達と合流しよう」
宿にもどると食事終えた所に出くわしたトーマ達が不思議な顔をする。
「あれ。忘れものですか?」
「いや?」
「え、でも朝にもなってませんし……」
「もう帰ってきましたよ。これと言った情報は無かったですけど、サンフラは私の両親の友人だったみたいです」
「いきなりの爆弾発言だね……皆を集めるよ」
トーマ達が泊っている部屋に全員が集まる。マルク、ラーミ。トーマとその仲間の4人。
マルクはラーミの実家で、3人が仲良さそうにしていた結婚式の絵の事を説明した。それ以上は説明を省く。
(人工魔族の件は今言うべきではないだろう)
トーマが考えられる説を話し出した。
「一番考えられるのは、そのサンフラ宰相がラーミの母親が好きだったって説ですかね?」
「ありうるわね。好きだった女性の子を奪い取る貴族ならやる」
マルクは黙って話を聞いている。
普通に考えればその説が多いだろう。
「あった事のない男性が突然結婚など身震いします」
「ラーミちゃんそれラーミちゃんがマルクさんにした事よね?」
「それはそれ、これはこれです。ってマルクさん?」
ラーミに突然話を振られてマルクは慌てて顔を上げる。
「いや、そうだな」
「…………話聞いてませんでしたよね?」
「すまない」
素直に謝るとトーマが一度お開きにしましょう。と提案してきた。
「背負子に乗せられるのも体力を使うと思うし、大会まで4日です。今日はこの辺で」
各自部屋に戻りマルクはベッドの上へ寝ころんだ、天井を見上げポケットから赤い小石を取り出す。
「返しそびれたな」
(いや、返す気もなかったという所か)
再びポケットに戻すと一先ず寝ることにする。こんな夜中では何も動けないからだ。
◇◇◇
マルクが翌朝起き顔を宿の庭先で顔を洗うとトーマが近くによって来た。
「おはようございます、マルクさん」
「ああ。おはよう……何から何まですまないな」
「いえ。マルクさんにはミイナ達仲間を助けてもらったお礼があるんですこれぐらい、それにお金は頂いているので」
「そうか……トーマ。強さとは何だろうか?」
突然の曖昧な質問でトーマの手が止まった。
「難しいですね、マルクさんは強くなりたいんですか?」
「俺か? そうだな現状でラーミが大会に出ないといけない作戦を提案した事に少しは後悔をしている、あの時はいい案と思ったが俺が強ければ問題ない作戦だったしな。俺ではなくサンフラ宰相の事だ、そんなに強さを求めてどうするのか。と思ってな」
マルクはサンフラの気持ちを考えてみた、それが答えになりそうな気もしたからだ。
「少しわかります。僕の夢は半分はかなっているんですけど……ミイナの実家がその大きくは言えないんですけど騎士の家で。僕が強くなって婚姻の挨拶を……ですね」
「連れ出したのか?」
実力のある冒険者と思っていたがトーマの過去を知れてマルクは少し驚く。
行動力のある男とは思っていたがまさか貴族の家から女性を連れ出すまでとは思わなかったからだ。
「いえ、僕の方が連れ出されてました。ミイナとアケミとは幼馴染だったんですけど、2人と付き合っていたら拉致されて気づけば別の街で冒険者登録させられて……戻ろうと言ったら認められてから帰ろうよ。と。あとその……なぜか仲間が増えていって二人からは全員を幸せにするならいいよ。と……」
ハーレムもハーレムで大変なんだな。とマルクはトーマを見る。
「いつのよも女性は強いな」
「本当ですよね」
トーマと話した後他のメンバーが起きて来たので自然と会話は終わる。
「おっはようございますマルクさん」
「ああ、おはようラーミ」
朝食をとった後は自由行動だ。
トーマは独自でサンフラ宰相の事を調べに宿を出ていき。ラーミは女性陣とショッピングに行った。男装しているが美少年に見えるので外に出て言っても問題はない。
残ったのはマルクとアケミで2人は留守番になる。
部屋の中で「俺だけ部屋に待機とは、そうもいかないだろうな」とマルクは呟く。
黒髪のカツラをかぶり、女性物の服を着て最後に真っ赤な口紅をつける。
ばけ……女装したマルコの誕生だ。
部屋からでてアケミのいる部屋をノックする。扉を開けたアケミは一瞬で後ろに下がって構えたがマルクと知って警戒心を取る。
「ごめ、変質者かと」
「あながち間違ってはいないからな、その少し外に行く」
「はいはい…………外に出るの? その恰好で!?」
「調べたい事があるからな」
「占おうか?」
と、いうのはアケミが最近こっているのは占いでパーティーメンバーと占っては談笑しているのをよく見かけた。
「そうだな……一つ頼もう」
「めずらしっ」
◇◇
マルコに女装をし街を歩く、目指すはアケミが占ってくれた旧闘技場後。
大まかな方角だけを占ってくれただけで旧闘技場とは言っていないがマルクはそこに向かった。
旧闘技場は街から郊外にあり共同墓地の裏手のほうだ。近くの小屋から入る仕組みとなっており鍵はかかっておらず開けると地下に入る階段がみえた。
「中々の雰囲気だな」
地下に降りていくと開けた場所にでる。
左右にあるトーチが光輝き辺りを一気に照らしてきた。
「魔道具か。これは便利だな」
「なるほどな」
何がなるほどなのかはマルクもわかっていない。ただ口から出た言葉なだけだ。
旧闘技場の反対側から人が歩いて来た、黒ずくめの衣服を着た男性でマルクよりも年齢は上の男。
マルクの心臓がドクンと大きくなると、その男はマルクの横を通り過ぎ……ようとして足を止めた。
「どこかで見た顔だな……」
ふいに旧闘技場の中に声が響く。
マルクとしても何を答えていいかはわからない。
「気のせいか? まぁいい珍しい観光客よ、化け物みたいな変装をしてもその肉体と気は隠せまい。少しでも腕に自信があるなら闘技場にでろ。そしてオレと戦えオレこそが最強のサンフラだ、勝ては富も名声も授けよう」
サンフラが遠ざかっていくとマルクは突然振り向いた。
「一つ聞きたい。あなたにとって最強とは!」
「すべてをねじ伏せる力だ。魔物も友も恋人さえもな」
コツコツとサンフラの姿が見えなくなっていった。
旧闘技場の真ん中で立ち尽くすと思考の波が襲ってくる。
「俺は何を聞いているんだ……しまったラーミのいう通りに捕まえ……は無理か。しかし俺でもできる事をせめて、ラーミとの婚約の事を聞けばよかったかもしれない。何が『最強とは』だここで聞く必要性もないだろう」
マルク自身、その場ではそれしか思い浮かばなかった質問であったが、それ以外にあったんじゃないかという落ち込みだ。
散々と自問し落ち込んだ後に立ち上がる。
「少し先に進んでみるか……サンフラ宰相は何しにここにいたんだ? 闘技場で訓練か? いや1人だった模様だ、俺と同じ観光にしてはそれも変だ」
マルクはサンフラの出てきたほうへ歩き出す。
鉄格子が何個もある、その一つの部屋で違和感を感じた。
部屋を照らすトーチの位置が他の部屋と違い一段高いのだ、マルクはそれを触ってみるとカチっと音がした。
「隠し扉か」
思わず口にすると人が通れる穴が出てくる。
中から生臭い空気がマルクを襲ってきた。
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