第30話 結局連泊した

 夕暮れ時に二人は廃村へとはいる。

 マルクもすでに背負子から降りていてラーミと一緒にゆっくりと歩いていた。



「なんだか寂しいな」



 マルクの目には荒れた農地や壊れた柵、手直せば住めそうな空き家などが映っている。



「そうですね……私も帰ってくるのは1年に1回程度なんですけどね。そこ曲がった場所です」



 マルクはラーミに言われるまま道を曲がると広場。家所が小屋さえもない。



「ラーミ? 何も無いようだが」

「ああ、見た目はそうですね。いま結界の中に入りますので」

「また結界か……」

「はい。エルドラおばさんが手を貸してくれたので、ただ住むには不便です、はやくマグナの家に帰りたいですね」



 マルクは自分の小屋をラーミが家と呼んでくれた事に少し照れる。



 ラーミと手を繋ぎ誘導されるままに動くと景色が突然に変わる。何もない空間に二階建ての家が現れた。

 何もないというのは本当にそのままで地平線まで真っ白な床があるからだ。


 思わず身震いしラーミを見ると視線があった。



「気味悪い空間ですよねー。エルドラおばさん曰く、ママの提案らしいです。あと一定の場所から出ないと一生出れませんので外に出ても遠くには行かない方がいいと思います」

「肝に銘じよう」



 立派な家に入ったはいいが応接室で待っていてください。と言われたマルクはその通りにする。

 ラーミの実家といえと好き勝手家探しをするのは性分に合わないからだ。


 白い壁には小さい絵が飾られておりラーミに似た花嫁姿の女性と黒髪の青年がぎこちない笑顔で笑っているのが見えた。



「ラーミの両親か……きっといい両親だったのだろう。挨拶をしたかったな。いや、結果的に俺は嬉しかったが生きて入れば俺と同じぐらいだろう、その娘を下さい。果たして俺に言えるのか? そもそもだ、他人の趣味をとやかく言う事はないが、ラーミにはもう少し年頃の異性と付き合うように教育をだな」



 おじさん特有の説教モードに切り替わった所でラーミが部屋に入って来た。



「もどりま……どうしたんです?」

「いや、何でもない」

「まぁいいですけど? これを見てください」



 ラーミは1枚の絵を持って来た。

 先ほどの花嫁姿のラーミの母親と、男性が映っている大きな絵だ。一つ違うのはその横にもう一人の男性が立っている所だろう。



「これは……サンフラ宰相か……」

「と、思います。先ほどフォーミンの話に合ったタクと言う名前は私のの死んだパパと同じ名前でして。サンフラの顔……アレを見た時に思い出すべきでした」

「この絵には傷が無いな」

「そうですね」



 マルクとラーミは絵を見た後に椅子に座った。

 二人とも無言だ。



「「で」」



 マルクとラーミの言葉が同時に被った。

 そう、一緒の絵に描かれていた。それだけの事だけだからだ。



「いや、すまない。そこからラーミと何か関係があるのかと思って……その小さい頃に会ったとかは?」

「無いですね、一応ママの友人には何人も会っていますけど、サンフラには。もしかしたらエルドラおばさんなら知っているかもですけど、さすがの私でもサンガク村までいくと往復で8日ぐらいかかりますし」

「せっかく王都まで来たんだ解決は早い方がいいだろう」

「ですよね。わかりましたコレパパの部屋の鍵ですのでマルクさん調べてみてください」



 ラーミから鍵を渡されて戸惑う。



「俺が……いいのか?」

「ええ、私はママの部屋調べますので、逆でもいいんですけど、マルクさんがママの下着で興奮するのも嫌ですし、私はパパの部屋は信頼できる人しかいれてはいけません。って言われてるので。もっとも、ママも亡くなってますし、ですが私が入ったら呪いとかかりそうで……」

「実の娘に呪いをかけ――」

「ママならやります!」

「そ、そうか」



 二人で2階へとあがりマルクは一つの部屋の鍵を開けてはいる。

 窓は開いており締め切った部屋の匂いは特にしない。小さな本棚と机。それに一人用のベッド。

 最後は刃こぼれした剣が立てかけてある。


 本棚には育児の仕方や、子供の名前の付け方などラーミに関する本が並んでいていて手がかりみたいなものはない。


 ふとマルクは引き出しを開け違和感を感じる。


 そこが薄いきがしたのだ。

 反対側の引き出しもあけるも高さは一緒であるが引き出し全体の底が薄い。


 その裏側を見てみた。

 孤児院にいた時に、マルクより上の義兄達が秘密の本や秘密の絵をこうして隠していたからだ。

 これは男だけの秘密でシスターアンにすら内緒の行動である。



「これは……」



 実験書と書かれた紙が何枚かあった。

 闇実験室について。とかかれておりマルクがつい半日前にみた闇闘技場と同じ地図が書かれている。

 それ以外には人間と魔族の違い、魔族にある血を人に入れ替える、魔石の移植後の安定化。さらには部分移植までの経緯が書かれていた。


 最後の1枚は比較的新しい紙になっており『この紙を見た者に次ぐ、もし非道な事が繰り返されている場合。王国のサンフラ・マリュ・クロに相談を友でありライバルだった者です。タク』と記されており、その下には。

 『サンフラ・マリュ・クロが黒幕です。サナ』と殴り書きが書かれていた。



「マルクさーん!」

「っ!?」



 ラーミの言葉にマルクは紙を無理やりポケットにいれ引き出しを閉めた。ラーミが扉から部屋を覗き込み始めたからだ。



「どうしました? 驚いた顔で」

「いや……突然で驚いただけだ。こっちはそっちはどうだった?」

 (正直に言うべきだろうが、ラーミの母親がこの部屋にラーミを入れない。と配慮したんだ。俺にとっては義母になる人の意見を通す)



「ママの部屋はドえっちな下着ぐらいしかないですね……見ますか? 蝶のみたいな奴で隠す場所が空いているんです」

「…………俺が言うのも変な話であるが、少しは恥じらいをだな」

「夫婦なのに?」

「夫婦でもだ」

「なるほど、善処します」



 辞めないだろうな。と思いマルクは苦笑しつつラーミへ下に行くように。と伝えた。

 1人残ったマルクは刃の欠けた剣を見る。

 ラーミの髪のように様に真っ赤な色の小石がついているのがみえた。


 思わず触ると欠けた剣から赤色の小石が床に落ちた。



 (しまった壊したか!? っ!? なんだこれは触るだけで全身から力がみなぎる)



「マルクさーん?」

「っと、今行く」



 ラーミが戻って来たのでその小石もあわててポケットにいれた。

 ラーミは私室に鍵をかけ誰も入れないようになる。思わずマルクが、あっ! と、小さく声が出てしまった。



「どうしたました?」

「いや、なんでもない」



 返しそびれた小石をポケットにいれたまま1階へと帰る。


 (さて、どうするべきか……俺達が見た人工魔族、あれはこの実験の続きと見て間違いないだろう。しかしメモはラーミに知らせないように配慮がしてあった。黒幕がサンフラ宰相としてなぜラーミを狙う。ラーミに子を産ませ最強の子でも作るつもりか? 宰相本人が最強を目指すのに子はないか……)



「さーん。マッルックサーーン!」

「うお! ラ、ラーミ? どうした」

「どうしたもこうしたも、目の前壁ですけど。壁の前でブツブツ言っていて怖いですし、呪われました?」

「いや、大丈夫だ。たぶん。それよりも早く戻ろう時間がもったいない」

「あ、言い忘れてましたけどこの結界内にいる間は外の時間は進みませんよ」



 ラーミは突然手を叩く。

 マルクにとっては嫌な予感しかない。



「折角ですしお風呂はいりましょう。王都にいく途中の温泉では邪魔が入ってゆっくりと混浴できませんでしたし」

「風呂か……しかし入っている場合ではないだろう」



 マルクとしても別に入りたくないわけではない、恐らく混浴になりそうだから。と断っている。

 マルクの中では混浴だけならまだいい、先日の温泉騒動を思い出しだしての発言だ。



「はい、貯蔵庫に冷たいお酒も用意してます」

「………………旅の疲れも癒すのも大事だな」



 マルクの中で酒の力が勝った。



「ですよね!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る