第29話 サンフラ宰相の思惑

 サンフラは闘技場の奥にある部屋にノックもなしに入る。

 そこのテーブルにはここ最近の出場選手がランク付けされておりその数字を眺めてはため息をだす。



「どれもこれも冒険者レベルにするとBやAか……つまらんな」


 (先ほどオレを攻撃した奴は中々によかった、ああいう奴が決勝にくれば俺も少しは退屈しなくて済むだろう)



 部屋に控えめなノックが聞こえた。

 出来るなら部屋に誰もいないで欲しいという願いがこもったような小さいノックだ。



「入れ」



 サンフラが短く言うと、狸みたいな男が部屋に入ってくる。



「サンフラ様、ご用があればこちらから向かいますのに」

「ぬかせ。スライクと言ったな呼んでも来ないだろう、それよりも、お前に依頼した話はどうなっているっ!」

「例の貴族の娘……たしかラーミといいましたな……そのマグナの街からこの街に来る。とまではつかんだのですが、どうやらまだ街には入っていないもようで。サンフラ様がそのB級冒険者を探すので……ひっ」



 スライクが悲鳴を上げたのは、サンフラが無言のままスライクを腕を持ち上げたからだ。

 全体重がに支えられてサンフラの顔が痛みに歪む。



「オレがなぜ面倒なギルドマスターの代理引き受けたがわかるか?」



 私のような物には想像もつきません。とスライクは痛みで必死にこたえる。

 サンフラはスライクを飽きた玩具の様に床に落とすとスライクはそのまま土下座の形になり必死に床に頭をつけはじめた。




「お前たちの失敗ばかりする研究、それの失敗をもみ消す溜めだ。研究所の一つが襲われたと聞いたが、いつ成功するんだ?」

「あ、あれはその壊れてもいい研究所でして、それに人工魔族の事でしたら、その成功はしておりま――」

「強さがたりん。オレの攻撃を受けて壊れない奴を作りだせ」

「は、はい! 出は直ぐに――」



 タヌキ似のスライクが実験がありますので。と、低姿勢のまま部屋を出ていく。

 一人になったサンフラはもう一度ため息をついた。



「もうすぐだ。タクの娘よ、もうすぐお前を食い俺が最強となってやる」




 ◇◇


 少しげっそりしたマルクと気分が上がっているマルク達二人は宿に帰ってきた。

 大会受付は終わったので後は本番まですることはない。

 眼鏡をかけたフォーミンが二人を見ると笑顔で話しかけてくる。マルクの記憶では珍しい回復魔法を使う女性だったはずだ。



「お帰りなさい」

「ただいまって事でいいのかな。トーマ達は?」

「アケミ姉さんとミイナさんと情報集めにいきました。まだ知られてない事があるかもと」

「そうか……世話をかける」



 マルクが礼をいうとフォーミンがマルクの顔をみたままだ。



マルクさんに何かついてますかね?」

「いえ、ラーミさんの男装がすばらしく……その良かったら女子会トークなどしませんか?」

「まさかの私! ご遠慮しておきます……眼が怖いです」

「残念です。アケミ姉さんも喜ぶ技でしたのですけど……所でアケミ姉さんが街外れの旧闘技場を借りたらしいので、訓練にどうぞ。だそうです。場所は――――」



 1枚の地図をマルクは手にした。

 ラーミもその紙を覗き込む。



「これは地下ですか?」

「はい、なんでも昔は禁止されていた魔物と人間もしくは魔物と魔物を戦わせた闇闘技場らしく、当時は冒険者もかねていたサンフラ宰相とタクさんとう冒険者が潰したのがそこらしいです。今では使う人もいなく国管理の貸し出し場らしいです」

「ラーミ?」



 マルクからみるとラーミは何時になく真剣な顔をしている。

 何やら小さい声で呟いているがマルクにもフォーミンにも聞こえない。



「マルクさん。少し実家に帰らせていたただきます」



 ラーミは素早く動きマルクとフォーミンの間をぬけ……抜けるはずだった。



「ふえ!?」

「あっ、すまない」



 マルクがラーミの腕をつかんでいたからだ。

 これには捕まえられたラーミも驚いたが、つかんだマルクも驚く形になる。



「マルクさんいつの間にそんなに素早く……」

「特訓の成果だろうか、いやそれよりも俺の何が不満だったのか説明して欲しい。酒の量であれば控える。オシャレに気をつけないといけないのなら努力はする。その後なんだ……とにかく努力はしよう」

「何の話でしょう?」



 ラーミが不思議に思っていると、フォーミンの眼鏡が光った気がした。



「実家に帰る。これは夫婦喧嘩した貴族の女性が良く使う言葉です。実家にこもり旦那側を困らせる。という方法ですね」



 フォーミンが説明するとラーミのほうが驚く。



「え。別に喧嘩してませんよ? 調べものするので実家に帰るだけですし」

「ラーミ…………」

「あれ、マルクさんもしかして。それはごめんなさい。でも私が帰ると聞いて。いやー愛されてるって素晴らしいですね、見ても面白い場所ではありませんけど一緒に来ます?」

「いいのか?」

「はい、あっフォーミンさん背負子しょいこの用意お願いできますか?」

「ラーミ!?」



 マルクの中で悪夢がよみがえる。

 背負子に背負われて気づけばサンガク村についていた記憶だ。


 マルクもここまで言った以上、やはり残っている。とは言いにくい。それにラーミのほうは久しぶりの実家です。と嬉しそうだし言えるわけがない。


 言えるわけはないが……。



「なんでしょうマルクさん」

「いや、そのなんだ実家は遠いのか」

「ツードリーの街の近くですよ、領民が100人にも満たない村と言う奴でして私が出る時には領民も0人になっています」




 マルクは心の中でガッツポーズを決めた。

 (よしまだ馬で1日半の範囲だ!)



「そんな場所ですから、馬でいくと3日かかりますので、私ならほら半日でいけます…………もしかしてマルクさん背負子と聞いて残りたいでしょうか? 私一人で行くので大丈夫ですよ」

「フォーミンさん、俺が乗っても壊れない背負子を頼む!」



 フォーミンの眼鏡が光ったようなきがした。



「愛ですね」



 フォーミンが感心した後に直ぐに背負子が用意された。その時にはトーマ達も帰ってきており事の経緯を説明する。


 アケミが背負子に縛り付けられるマルクを見ながら話しかけてくる。



「ラーミちゃんが気になる事ねぇ、でも大丈夫? 試合まで残り4日よ」

「ご安心を往復1日もかかりませんので」

「僕達ももっと情報を集められれば……今日の成果といえば闘技場でサンフラ宰相に殴りかかった馬鹿な挑戦者がいた。というぐらいかな……僕達の方でもラーミさんの婚約の話を探っているけど、特に何も出てこないんだってアレ二人とも変な顔をして」

「べ、べつにーねえマルクさん」

「そうだな……とくに何もない」



 トーマは馬鹿な挑戦者の前にして不思議な顔をしているが、ミイナが部屋に入って来た所で話は終わった。



「はい二人とも大きな布。マグナのギルマスから聞いていたけど……本当に異様な光景ね。所でそのまま南門を抜けるの? 呼び止められない?」



 背負子にマルクが縛り付けられてそれを背負うミーナを見ての発言だ。

 ミイナ以外の全員が閉まった! と言う顔をしている。



「だ、大丈夫じゃないですかねぇ……マグナの街でも大丈夫でしたし」

「異様な光景であるだろうが、その大きな荷物をせおった青年と言う感じでいけないだろうか、何すぐ戻ると言っているし街のほうを頼む」




 結果。


 南門で死体を背負った人間が出国する。という騒ぎが起こりマルク達は再び捕まった。

 男装したラーミの顔をみて南門の兵士はとても嫌な顔をして、背中の布を開くと女装したマルクが出て来たので数人はそのまま気絶し、色々話し合った後に出国は出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る