第24話 雨の後には虹がかかる
夜まで待機と言われたので二人はムツナイの街を見て回った。待ち合わせに来た二人を迎えていたのはニイケルだ。
「お待たせしまし――マルク殿何かつかれてません?」
「大丈夫だ」
「大丈夫ですよ」
マルクが疲れているのは先ほどまでラーミとデートをしていたためで、反対にラーミは元気いっぱいだ。
「所で1人なんですか?」
「他にも数人いるんですけど……顔見せできるのは僕だけですね」
「よろしく頼むニイケル殿」
「まだまだ新米なので呼び捨てでいいですよ、こっちの川に船を隠しています」
待ち合わせの場所から墓場を抜けて水の音が聞こえ始めた。
墓場ではラーミがギュっとマルクにしがみ付いていたぐらいで何事もなく進む。
いくら盗賊といっても平地の真ん中にアジトがあるわけではなくある程度移動に適さないとダメな所もある。
今回見つけたのは川沿いに建てられた別荘を拠点にしている。まで突き止めたと、ニイケルが説明してくれた。
「この船です」
「オールがないようだが?」
「小さいですね……」
それぞれの感想をいうとニイケルが二人とも凄いですね。と褒めてくる。
「緊張感がない。というかリラックスが凄いです。オールはあえてつけてません、奪われると逃げられますので」
「手でこぐのか?」
「いえ、一応魔術士……見習いみたいなもので、乗って下さい船を動かします」
ニイケルに言われて二人は船に乗る。
最後にニイケルが乗ると、小さく詠唱を始めた。誰も触っていない小船が川の流れと逆そうし始める。
「すごいな」
「ありがとうございます。水を操る魔法なんですけど、こう川で使うと楽に進めます」
かなりの距離を進んでいく、小船のスピードは衰えず、水面を音を立てないように進む。ニイケルは笑顔であるが、汗が流れ出ている。
「乗っているほうは楽だが、大丈夫なのか?」
「正直な所、辛いですね。常に魔力を出しているわけですから体力の消耗も激しいです」
マルクはちらりと、ラーミを見て、ニイケルへと目線を戻した。
(ラーミは常に肉体強化をしてると言っていなかったか?)
「マルクさんたちが襲われた場所、そして最近襲われた場所を、ボクらは地図に書き込み調べました。ギルドマスターに言われ調べていたんです」
小船は段々と減速していく。
ゆっくりと岸に着くとニイケルは最後に口を開いた。
「そして、襲われた場所を線で結んだ中心近くに、アジトに星をつけていたんです」
その言葉と共に、大きな建物の影が小船から見えた。音を立てないように岸へとあがる。
ニイケルが小声で二人に聞く。
「すみません。ボクは道案内という事で……」
「えー、一緒に戦わないんですか」
「僕の顔を相手に見られると、困るんです。大丈夫ですここで待機してますので、それに2人なら大丈夫だろう。とウチのギルドマスターが……」
「仕方が無いか」
(ラーミのランクも見抜いていての作戦か)
ニイケルが戦えるなら、最初から外部の冒険者になんて頼まない。
マルクはラーミにそれを伝えると、それもそうですねと、思い出し納得した。
マルクはゆっくりと茂みの中を移動する。
二階建ての洋館があり、どの窓にも黒いカーテン、もしくは木板が張られている。
「徹底しますねー。廃墟みたいにも見えるんですけど……」
「いや、玄関前の道が随分と硬そうで、踏み慣らされているな」
「さすがマルクさんですっ」
「で、どうやって行く? 詳しい打ち合わせは現地でやろうって話であったが」
ラーミは任せてくださいと、胸を張る。
不安がよぎるマルクであれば、今の所戦力はラーミのほうが上、黙って聞くことにする。
「では。作戦、特攻――」
「しっ。誰か来る」
「あの、まだ言い切ってないんですけどっ」
黒ずくめの賊が帰ってきたのだ。
マルクはラーミと共に茂みへと腹ばいになる。視線が低くなるが、隠れるためにはしょうがない。
盗賊は五人、さらには縛ってある女性を担いでいる男もいた。
盗賊の一人が立ち止まる。
女性を担いでいた賊が立ち止まり、止まった賊へと声をかけた。
「どうした?」
「いや、ちょっくらションベン」
「はー……我慢できないのか」
「いいじゃねえか」
ションベン、すなわち放尿をするとう盗賊は真っ直ぐにラーミとマルクが隠れている場所へと歩いてきた。
ラーミの隠れている正面でその盗賊はズボンを降ろした。
音を立てた放尿が終わると、盗賊は気持ちよさそうに腰を振り帰っていった。
何ともいえない匂いが、ラーミの顔近くに漂う。扉が開き、閉まる音が聞こえると、辺りは先ほどと同じく、静寂に戻った。
マルクはラーミへと声をかける。
「ラーミ……その大丈夫か?」
「何がです?」
表情の消えた顔で、返事をする。
表情は消えたが水滴がついていた。
「いや、その……取り合えず川へ戻り顔を洗おう」
「そうですね」
二人は川まで戻ると、ニイケルが驚いた顔
で出迎えてくれた。
「どうしたんですかっ、何か問題でもっ。
あれ、ラーミさんそっちは川ですけど……気合を入れなおしています?」
顔を何度も洗うラーミに、疑問を抱く。
マルクが、ニイケルに黙って洗わせてくれないか? と、話すと、理由はそれ以上詮索しなかった。
「お待たせしました、行きましょう。フルボッコです」
「ああ、その死者は」
「死なないといいですね」
笑顔のラーミはそれ以上マルクに語らせない。
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