第22話 見えない尻尾を踏む盗賊団
王都に旅立つのに人々が集まる、流石に知らせを受け直ぐに行くぞ! とはならなく報告を受けてから二日後の朝になった。
冒険者ギルドからはギルドマスターのファとトーマ率いる暁の護衛パーティーが見送りに来ていた。
他の見送り、孤児院やマルクの親友のヤット。ササリーなどは前日に理由を話し街から出る事を伝えてある。
「せっかく助けてもらって恩を返せると思ったのに……」
「その気持ちだけで充分だ、その孤児院の手伝いのほうを頼む」
トーマ達は命は助かった物の罰則として数ヶ月のギルドからの依頼禁止を言い渡された。普通の冒険者であればそれだけで死活問題であるが、特例として街の孤児院の手伝いをする事で日々の最低限のお金はギルドから出してもらえる算段になっている。
トーマの横にいたミイナが二人に微笑む。
「その辺は任せて、二人とも気をつけて」
「戻って来たら孤児院の子が増えてそうですね」
ラーミの突っ込みに、ミイナは「任せて! トーマが頑張るから」と力強く言う。
逆にトーマなどはたじたじになっていく。
「さて、ではギルドマスター。それにトーマやミイナ。アケミに――」
ちゃんと全員の名前をいうマルクは律儀である。
「あのマルクさん全員の名前を言わなくても暁の護衛でいいかとおもいます」
「それでは失礼と思ってな」
「僕達はそれでも……」
「ごほん。いいか二人とも、ぜええったいに普通に進め」
と、いうのは以前サンガク山に行った時に、どうやら街道に黒い化物が出た。というのが噂になったていたらしい。
その正体はマルクを背負ったラーミであって、同じ事をするな。というギルドマスターフィのありがたい言葉だ。
「仕方がありません、これが明日にでもマルクさんが捕まる。というのであれば全力ですけど」
「王都からここまではいくつかの街があるからないくら貴族でも無茶はできまい」
手配した馬車が街道前に繋がれた。
御者はいなくマルクが御者の代わりをして進む買い上げタイプと言う奴だ。荷台には生活用品と大量の酒が摘まれている。
「では、暫くはオレが馬を操ろう。ラーミは中へ」
ラーミはマルクの隣に座ると見送ってくれた人に手をふり始めた。
(隣に座るのか……)
マルクが器用に手綱を握ると馬車はゆっくりと進みだした。
◇◇
いくら馬車と言っても1日で隣の街などにつくわけでなく、次の街までは順調にいけば8日ぐらいかかる。
ラーミに言わせれば走れば1日半いえ1日ですね。とは言っているが。
となれば当然野宿になるのが旅である。
もちろん街道沿いには野営地があったり宿場町、個人でやっている宿などがあり、今回は野営地での野宿になった。
「今日は、この辺にしようか」
旅は順調ですでに4日目だ。
「お疲れ様ですマルクさん、私も御者が出来ればいいんですけどねぇー馬にものれませんし」
「なに気にするな。これ以上ラーミのほうが何でも出来ると俺の立場が無くなる」
「渋い事いいますね」
マルクの本音である。
外でたき火をして馬を近くの固定台につなぐ。あとは馬車から食材を降ろして食事後に寝るだけ。
二人は酒も入り軽く話しながら食事を楽しむ。
「なるほど。マルクさんにとっては旅は久々なんですね」
「そうだな……本当に久々で15年ぶりかもしれない」
「と、言う事はもしかして」
「ああ……ラーミの両親を助け、いやラーミの父のほうは間に合わなかった」
酒も入りマルクは少しだけ感情的になる。
「楽しい食事のはずがなぜにしめっぽい感じに!?」
「っと、すまない。この話は辞めよう」
「あのですね……例えばですよ。同期の話や、好きだった人、私の母の印象や、ツードリーの街へ行く事になった理由とかですね……」
「ふーむ、女性は、そんな事まで気になるのか?」
マルクは普段は言わない心の声までも口にする。マルクは空になった酒樽を馬車にもどし新しい酒樽を持って来る。
「当たり前ですよ。なんでしたらマルクさんの元カノとか」
「………………そうだな、ラーミの母親はラーミそっくりだったよ」
聞こえないふりをしてマルクは過去の話をする。ラーミもそれ以上は追及してこない。
「髪なんて母は黒髪で私は赤ですよっ?」
「そういえば……俺はラーミの事を全然しらないな。どうやって生活していたんだ」
「それはですね――」
ラーミは生きていた頃の母の姿を言う。
ラーミの母サナ・ランフ・ヴァミューは黒髪でラーミが十才の頃まで生きていた。
元々没落貴族に近いサナは、冒険者と恋に落ちた。しかしラーミの父ははぐれハイオークの群れによって殺された。
未亡人の誕生である。
元々美人で有名だったサナに貴族の地位を狙ってくる者は多く、その手はラーミにまで及んでくる。
そこでサナは古い友人に頼みラーミを一人で生きていけるように育て上げた。
そしてラーミが強くなったのを確認するかのように友人が管理する土地で息を引き取った。
残されたラーミは、遺言状を片手にあちこち運命の花婿を探して回ったというのだ。
「――と、いうわけです。私から見れば厳しいだけの変人でしたけど。悪くはなかったですね」
「その……寂しいか?」
一般な十四才ならまだ両親がいる頃だし、貴族だったら学問に励む時期でもある。
一人冒険者にならざるを得なかったラーミを心配しての発言だ。
「寂しくないといえば嘘でしょうけど、割と清々しました」
「ん?」
「朝から晩まで魔法の特訓ですよ! 幸いというか不幸というか、魔力は父譲りで腐るほどあるらしく、それを朝から晩まで。いえ、寝てる間も肉体強化に回すんです。
寝てる所にハンマーですよ、内臓破壊だって何度もされたんです! 死ぬ寸前になった所にエルドラおばさんが薬を突っ込むんです。口で飲めない場合はその、お尻からですよ、信じられません」
「そ、それは……」
マルクの想像以上に修行がハードすぎる。
「普通ならグレます! ええ、絶対にグレます!」
清々したと言いながらも、散々思い出を語る所はやはり多少は寂しいのだろう。
「そ、そうか……で、直ぐに冒険者になったのか?」
「ええ、遺言状はありましたし、財産は全部ママが処分して置いたので、別になる必要も無かったのですけど成り行きですかね。マルクさんはどうして冒険者に?」
「孤児院は狭いからな」
「さすがはマルクさんです。所で……」
ラーミは所での部分から声を落とした。
マルクにだけ聞こえるように「何人かに囲まれています」と、伝えた。
マルクも、その存在は少なからず気づいていた。ただ、こちらに襲ってこなければ無視しようと思っていた所だった。
ラーミは焚き火から火の付いた薪を一本手に取る。
「マルクさんいいですよね?」
「仕方がない……」
ラーミはその松明となった物を暗闇へと狙いを定めて投げた。
松明の火が直ぐ近くでかききえる。
「ほう……」
いつの間にか、二人の周りに数人の人間が立っている。
顔を黒い布で隠し、目だけをぎらつかせていた。ラーミがその人物に向かって声を出す。
「一応ききますけど、何者ですかね?」
この格好で鍛冶屋! なんていう人間はいないが決まり文句みたいな事である。
「金、命、どっちかを置いていけ」
男が短く言うと、刃を黒く塗った剣を取り出す。
「どっちも嫌ですっ!」
「まぁまて、ラーミ。好戦しても意味が無い」
平和的解決を目指すマルクが二人の間に入った。
「うわ、マルクさん本気ですか?」
「見たところいや盗賊だろうか? あいにくと金は、この馬車などで結構使ってしまった。一応は大金貨は2枚ほどあるが、それで勘弁してもらえると助かる、後は冒険者ギルドに入ってみるのはどうだろう?」
「嘘をつくな! お前たちのような世間知らずが大金貨なんでもっているわけがない!」
見た目が親子にもみえる旅人がたき火をしてるのだ、そう見えないんは仕方がない。
言い換えれば二人しかいなくても危機感を感じないほどの強さ。と盗賊がわかっていれば問題は起きなかった。
「マルクさん動きますよ?」
「仕方がない……」
ラーミが盗賊の視界から消えた。次の瞬間には腹部に一撃を加えている、流石に全力ではないので上半身が吹き飛ぶことはない。
マルクも近くにあった石を草むらに投げた、その攻撃を受けて残った盗賊が立ち上がる。
「こいつ! ただの世間知らずじゃっ!」
「そうですよ、私はマルクさんの妻なんですからっ!」
微妙にかみ合ってないのは、飲んでいたからである。
一方マルクは、どうにかして盗賊を改心させようと考えているが、飲んでいるために思考が追いつかず、思考を追いつかせようとまた酒を飲むのループに入っている。
「ラーミ、辞めるんだ。彼らも深い訳があるはずだ、協力出来る事があるなら協力しようじゃないか」
「なるほど、さすがはマルクさんですっ! では、早速起きている人を探しましょう。マルクさん大変です!」
「どうしたっ!」
「起きている人が一人もいません」
ラーミの言うとおり、既に立っている者は居なかった。全員がうめき声を上げて地面へと倒れている。
「なら、引き渡すしかないか」
「残念ですけどそうですね」
マルクとラーミは盗賊を縛り上げ逃げないように木につなぐ。
「で、マルクさんどうしましょう!」
「そうだな……本来は近くの町へと引渡しだな」
「面倒ですね、埋めましょう!」
盗賊は最初冗談と思っていた。
「しかしなぁ」
「大丈夫です、ここは街道ですし次にとおる人が決めればいいのです」
ラーミは馬車からスコップを取り出すと勢いよく地面を掘り始めた。
◇◇◇
翌朝には酔いがさめたマルクは縛ってある盗賊の八名を見て溜め息をついた。夢じゃなかったのかと……。
盗賊が泣いてそれだけは辞めてくれ。と悲願したので放置した事を思い出す。
「マルクさんおはようございます!」
「ああ、おはよう……所で……」
「今埋めますからお待ちを」
縄で縛られている盗賊を穴に蹴落として上から土をかけるラーミは今日も笑顔だ。
残った盗賊は芋虫の様に張ってマルクに助けを求めた目を向けていた。
「そもそもですよ、この盗賊だって人の命を取るんです。いえお金が無くなって命を絶った人もいるはずです。ここで死んだ方がいいんですよ」
「それはその……」
ラーミに正論を言われてマルクは困るが結局は街に引き渡す事になった。
協議の結果、マルクが単体で馬にのり、ラーミが馬車を人力で引っ張る。その馬車の中に手足と口を縛られた盗賊が8名突っ込まれている状態だ。
これでいけば街にも早くつける。との提案だ。ラーミの人力では盗賊は馬車からどんどん落ちるが落ちた所でまた詰め込まれる。
予定外であるが、ムツナイの街の壁が見えてきた。マルクは手前で馬から降りると、徒歩で近づく。
若い門兵が欠伸をしながら、警備に当たっており、マルクをみては片手を上げた。
「やぁ、旅人さん、いら……」
マルクに挨拶をした門兵が固まる。
マルクの横には馬の代わりに馬車を引いてくる女の子が居たからだ。
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