第21話 遺言状がもう一枚

 あの救出劇から三日がたった。


 あれから冒険者ギルドには通っていなく、朝になるとマルクが薬草を取りに行き、その間にラーミが食事の買い物と自然と役割分担された生活をおこなっている。


 その朝一番の時間に小屋にノック音が響いた。半裸のマルクはベッドから起き上がるとその扉を開く。


 片耳がちぎれたエルフがマルクを見ると元気そうに声を上げた。手にはマルクには手が出ない高級な酒さえもあり、お土産だ。としめしている。



「ギルドマスター!?」

「マルクさーん、面倒なので扉閉めてください」

「おい! 幼女冒険者聞こえてるぞ。さて入ってもいいかい?」



 マルクは天井を見てから頷いた。

 おそらくは処罰だろう。命令違反をしたんだそれなりのバツは受けつつもりだ。



「思ったより狭い家だな、これでは新居がいる事もわかる。これはお土産だ、40年物の奴で私の私物だから気にしなくていいぞ」

「ではこれを」



 マルクは代わりに冒険者カードをフィに差し出す。



「マルクさん! いい考えがあります、このエルフをさらいましょう。そうすればマルクさんはまだ冒険者です!」



 冗談に思えない冗談を聞くフィはため息をだす。



「勘違いしてるだろう……あれだろ? トーマやミイナ達、暁の護衛から聞いたよ、君達が助けた事。なに手短に話すしは悪い話ではない」



 フィは近くの壁に背を預けるとお土産の酒の口を開く。

 勝手にコップに注ぐとマルクとラーミに手渡した。


 二人は出された酒はとりあえず飲むとフィは嬉しそうに話す。



「実はあの後、私も単身でオークの集落に向かった……規則では禁止だけど助かる命を見殺しには出来ないからね。で……壊された檻と老オークと会ってね、事情を聴いたわけだ」

「老オーク! そんなのがいるのか……」



 マルクが驚くとフィは長老みたいなものだね。と続きを話す。



「一般には内緒だよ? 別大陸から来たハイオークに村を占拠されたらしく、まぁそのオークを倒した冒険者がいるって事。今回に関しては何もなし、処罰も無ければ褒美も無い…………ってかわいそうだから酒の1本でも持って来たわけ」

「俺はそれで構わない、何から何まですまない……トーマ達は」



 怪我を負ったトーマ達の事が気になった。

 下手をしたら冒険者剥奪だ。



「そっちも……まぁ他の街ではわからないけど、私の権限で暫くはこの街で奉公活動って事で。マルクとラーミに会いたがっていたけど変な噂が出たら困るから暫くは来ないように伝えた」

「それはどうもありがとうございました。お帰りはあっちです」



 ラーミがフィの手を引いて入口へと押して扉の鍵を閉めた。

 すぐにフィがマルクの家の扉をガンガン叩く。



「そんな突然追い返す事ないじゃない! 話はまだあるの!」

「そんな気はしてました。だって『そっち』って変な事いうからです。変な話は聞かなければ問題ないんですよ。あれ、マルクさん鍵を開けてはだめですって!」



 マルクが鍵を開けるとフィがもう一度家へと入って来た。



「これが届いた」



 フィはマルクに二枚の紙を手渡してくる、その後ろでラーミもその髪を覗き込んでおり一緒に音読する形となる。



 貴族ラーミ・ランフ・ヴァミューは、貴族サンフラ・マリュ・クロと既に婚約を上げているので、その婚約は認められません。

 マグナ冒険者ギルドマスター・フィ氏は、マグナ冒険者ギルド所属マルクは命令書違反で冒険者を剥奪する事


 もう一枚は、 貴族ラーミ・ランフ・ヴァミューは、貴族サンフラ・マリュ・クロ婚約します。


 と短く書かれていた。



「と、いうわけだ」

「どういうわけですか!!」



 ラーミの大声が小屋に響いた。



「そんな話はしりませんし、なんですかこれ!

 なんでマルクさんが冒険者を剥奪されないといけないんです!」

「もっともだ、私としてもこんな紙切れ1枚で冒険者剥奪なんてしたくはない」



 フィが真面目に言うと、マルクは諦めたよな口調でフィを見る。



「王家の紋章に遺言状。その紙きれ1枚で俺とラーミは出会い結婚したんだ、何かあるのか? それともこれは偽物……」

「当たり前ですよ! こんなの偽物に決まっています。それにマルクさんはいいのです、運命ですので」



 それもどうかともうとフィが続きを話す。



「ご丁寧に紙は本物だ。しかし、ラーミが持っていた遺言状も本物。貴族と一般人どっちのいう事が信じられるか。だ」



 言うまでもない貴族のいう事が通るのが世の末になる。



「そうだな最悪の場合は俺は投獄だな」

「その場合私が全力で助けますので!」

「甘いなマルクよ。その前に殺されている場合もあるだろう」



 フィが現実を突きつけると、ラーミが憤慨する。



「落ち着いてくれラーミ」

「落ち着けますか!」

「これを知らせに来たという事は解決方法があるのか?」



 マルクは一つの可能性を感じてフィにたずねてみた。



「さすがは冒険者だ。もちろん、王都にいるラックというギルドマスターにこの手紙を渡せ。まぁ何とかしてくれるだろ……私が行くと余計にこじれるからな」

「何から何まですまない」



 マルクが礼をいうとフィはまんざらでもない顔でマルクの顔にキスをする。



「なっ!」

「ななななななななっ!!! 何をすんですかっ! ばい菌がはいります。マルクさんも何嬉しそうな顔を」

「エルフのキスは幸運を与えますって事だ、最近の若い奴は中々しらないみたいだな」

「そんな話しら……え。あの何でこっちに来るんですかね……」



 フィはマルクの側を抜けてラーミへと近づく、ラーミは嫌な予感がして一歩下がるもフィは一歩前に行く。



「安心しろ、私は幼女だからといって手加減はしない」

「こっちのいう事をですねっ! うあっあの! 何で私だけ口び――――」



 マルクは見てはいけないような気がして窓の外に顔を向けた。

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