第16話 義母に報告をするマルク

 赤面しつつ二人はギルドを後にする。

 クエスト成功報酬はとりあえずは個人間で金貨50枚。残りは生活費となる。


 いつものヤットがやっている店は既に時間外なので近くの酒場で酒を買いまくる。もてるだけ持つとマルクの家で二人で飲みまくった。


 マルクは眼が覚め辺りを見回す、日差しは高く部屋の中は既に明るい。振り返ると同じベッドでラーミが小さく寝ている。



「前にも同じような感じであるが夢ではないな」



 確認するように呟くと、おはようございますとマルクへ声をかけた。



「すまない、起こしたか?」

「いえ、大丈夫です。どこか行くんですか? 直ぐ起きますねついて行きます」

「無理はしなくても……」

「良妻賢母というやつです。とまぁ家に一人いてもする事もないですし」



 それもそうだ。とマルクは頷く。

 掃除としても酒瓶を片付けるだけで、外の畑は荒れていてラーミ一人では無理だろうし、料理に関しては家が燃える可能性がある。



「今日はその俺の親代わりの人に報告を。と思ってな。あとはラーミが許すなら――」




 マルクの考えを聞くとラーミは「それは素晴らしいですね」と拍手する。



「いいのか? これは元々」

「別にかまいませんよ?」

「そうか助かる」



 二人は軽く着替えをすると街のほうに向かう。

 食べ物屋で沢山の食料を買い込むと荷台に乗せて教会の横にある孤児院の前に来た。


 その扉をノックするといつもの声が聞こえてきた。



「はい。どなたでしょう……あらマルク」

「こ無沙汰してるシスターアン」

「マルク、今日はどうしましたか?」

「シスターアン。その、なんていうか……」

「あらあら、普段は直ぐに言うのに今日はどうしたんでしょうね」



 荷台を押していたラーミがひょこっと顔をだした。



「あら可愛らしいお嬢さんね。今日からここがあなたのお家よ」

「いやまってくれシスターアン違うんだ?」

「小さな子供を連れてここを紹介じゃないんですの?」



 シスターアンは慈悲深い女性だ、昔から親無し子を引き取っては立派に育て上げる、なのでマルクが小さい子を連れてきたという事はそういう事と思ったのだ。



「初めましてシスターアンさん。ラーミいいまして、マルクさんの妻になります」

「ラーミさんこちらに」



 ラーミが言われた通りにシスターアンの側にいくと孤児院の中に入れられた。

 シスターアンがホッとした顔になるとマルクと視線があう。



「マルク、今までありがとうございました。金輪際来なくていいですからね。この教会には子供も多いです、そのような目で見ていたとは私の目は節穴でしたね。真面目と思っていたのに……」



 先ほどの暖かい声とは違い、凄く冷たい声だ。

 バタンと扉が閉められるとマルクと食料の乗った荷台だけが残った。



「まってくれ、違う、違うんだ」



 マルクがドンドンと扉を叩くも鍵は開いてくれない。



「あれ、マルクのおっさん何してるの?」



 声がして振り向くと、髪は短く健康的な肌、服のサイズが少し小さいのか胸ある少女がマルクを見て驚いている、その後に直ぐに荷台を確認して中の食料をつまみ食いする。



「メル!」

「また教会に寄付にしきたの? シスターアンは口では怒っているけど感謝してるって。これ今日の晩御飯になるかな」

「メル、すまんない……シスターアンを説得してくれないか?」

「何したの?」

「結婚の報告と結婚相手を連れてきたら追い出された」



 メルは腕組する。

 シスターアンは怒ると怖いが結婚の報告ではまず怒らないのを知っているからだ。



「なんで?」

「それはその…………もしかしたら若いからもしれない」

「うへ……マルクのおっさんも若い子には勝てなかったかーアタシが19歳だからそれ以下はないとして30歳ぐらいの女性?」

「いや、もう少し若い」



 メルは荷台の食料を数えながら、へえーと気のない返事をする。



「じゃぁ20代かーマルクのおっさんの年齢を考えるとシスターアンなら怒るかもね。いいよアタシが説得してあげる、で奥さんって何歳?」

「――――歳だ」

「あっごめん聞こえない」



 マルクは聞こえないように言ったのだ。

 先ほどから汗が凄い。



「別に結婚ぐらい早くてもいいのにねーアタシもさっさと結婚したい。と思っているけど中々だし。マルクのおっさんの奥さんって事はアタシからみたら義姉になるのかな」



 扉が突然内側から開けられた、小動物のように飛び出たラーミがマルクの胸に飛びついて息をスーハースーハーと吸っている。



「ラーミ!?」

「おっと、失礼。中々に誤解が解けそうにないので実力で出てきました」

「ラーミちゃん! 安心してマルクに騙されているのよ!?」



 シスターアンが料理を片手に追いかけてきた。

 その扉をメルが強引に閉めて背中で抑え込む。



「マルクのおっさんさぁ……もう一度いうけど奥さんって何歳?」

「おや? 私の事でしょうか? ぴっちぴちの14歳です」

「――――ごめん、アタシでも援護できないかもしれない」




 ◇◇



 教会の応接室でマルクとラーミはお茶を飲んでいる。

 目の前にはキリっとしたシスターアンが笑顔で二人を見ていた。

 あの後マルクが必死に事情を説明して話を聞いてもらえたのだ。


 応接室でラーミも事情を説明するとシスターアンはマルクに頭を下げた。



「頭をあげてくれ……シスターアン」

「この場合私が悪いんですかね?」

「いいえラーミさんは悪くないですよ、このアンが悪いのです。そんな運命的な出会いは素晴らしい事です、きっとラーミさんの母上も喜んでいるでしょう」

「誤解が解けて良かった」



 応接室の扉が開くとメルが顔を出してくる。



「シスターアンー。マルクのおっさんが持って来たの食材の他にも色々あって……流石にこれはやばくない?」



 メルが応接室に入ってくると革袋をアンに手渡す。

 アンが中身を確認すると大金貨が5枚出てきた。



「マルク! あなたと言う人は、受け取れません」

「これは俺も怒られてばかりではたまらない。シスターアン、俺はこの孤児院があって生きてこれたのだ、それにシスターアンは俺の義母と言ってもいい。

 さっきも言っただろ? 俺の実力以上のラーミのおかけで俺は高難易度クエストの依頼を終えた、いうなれば実力以上の報酬でありあぶく銭に近い、孤児院から出た人間は中々に裕福にはなれないからな、他の兄妹の分と思ってくれ」



 マルクもこれに関しては一歩も引く気配を見せない。一人静かにお茶飲むのはラーミであり、報告しにきたメルは「また始まったよ」と小さくぼやく。


 実際に孤児院がいかに凄くても個人を出れば一人で生きていかなければならない、大変な事で最初は孤児院にお金を送っていた人物も最後には孤児院にお金を借りる。というのをマルクは何度も見ている。


 普通なら追い返すのが山であるが、シスターアンはなんだかんだで事情を聴いてはご飯を食べさせたり、お金を渡すのだ。



「わかりました。ですが私達も節約してますし領主様の手当てもあり内職もしてるので間に合っているんですよ、少し待っていてください」



 シスターアンが部屋から出ていくとすぐに戻ってきた、手の中には木箱が入っておりそれをマルクに手渡す。



「大金貨5枚にはほど遠いですが、これを今のお金で買い取って下さい」

「これは?」



 開けてみてください。といわれマルクが開けると銀色の指輪が入っている。



「うわー綺麗な指輪ですね。うっすらですけど魔力を感じます」

「この微力な魔力を感じるとは本当にラーミさんは冒険者なのですね、ええ魔物避けの効果が入っています」



 覗き込んだメルも「綺麗な指輪」と絶賛している。



「すまないが俺は指輪は付ける趣味はない」



 マルクの一言に部屋の温度が下がった。

 孤児院の女性2人の目が何言っているんだ? となり、隣のラーミは「マルクさんらしいですね」と小さく笑う。



「マルクのおっさんさ。別におっさんがつけなくていいと思うんだよねこの場合、隣の奥さんにおっさんからあげるんじゃない?」

「そうですよ、マルク」

「ああ! そういう事か! いいのかシスターアン。大事な物では」



 マルクは慌ててシスターアンに聞くとシスターアンは首を振る。



「大事だからこそ貴方に贈るんです。それにマルクの妻であるのでしたらラーミさんも私の娘になるのですから安物でもうしわけありませんが」

「と、言う事みたい指輪を早く贈ったら?」



 マルクが横を向くとラーミが少し照れているようだ。



「ラーミ……その結婚指輪と言うのだろう、受け取ってくれ」

「普段なら色々と照れ隠しを言うのですけど、はい。お願いします」



 ラーミが左手を出すのでマルクがその薬指に指輪を通した。



 そして、指輪が落ちテーブルに転がる。



「…………」

「…………」



 全員が無言だ。

 これはラーミの体が小さく指のサイズがあっていないからだ。



「ネ、ネックレスにしましょう! メル。銀色の――」

「あー鎖だよね。そこの引き出しにある」



 落ちた指輪に銀色のチェーンを通してラーミはそれを首にかける。



「マルクさん! 似合ってますか?」

「ああ、似合ってる」

「素晴らしいです! アンお義母さんありがとうございます!」

「あらあら、嬉しいですわね。また娘が一人増えましたわ。ですが私をお義母さんと言うのであれば、家の事は気にしなく自分達で稼いだのは自分達で使う様に」



 シスターアンの信条で口を酸っぱくして言ってるが中々に広まらない。現にマルクが持って来るお金だってあてにしておらず、貯めている。本当に困った時に使っているぐらいだ。



「善処しよう」

「わかりました、に使うので」



 それぞれが返事をすると、シスターアンは「では今夜はパーティーをしましょう」と張り切りだした。

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