第15話 対価と報酬

 言われた通りギルドマスターの部屋で待つ二人、外の騒ぎはまだ収まらない。



「暇ですねー」

「そのうち来るだろう。そうだ、所で分配なんだが……」

 (金の分配を忘れていたな、ハッキリした方がいいだろう。今回は俺の取り分を馬車代に、いや何を言っているんだ俺は何もしてない)



 その事を切り出そうとするとノックも無しに扉が開かれる。

 ギルドマスターのフィが上機嫌で入ってきた。



「待たせたな」



 マルクは立ち上がり礼をする。

 フィは、嫌そうな顔で手をパタパタと振った。



「私に堅苦しい礼はいらん。ぶんどってきたぞ」

「ぶんどって来たというのは?」

「もちろん、商人達からだ。

 いやー儲かった、ええっとだな。皮、目玉、爪、珍しい肉のかけらもあったな合わせた金額が」



 小さい革袋をテーブルに置く。小ぶりであるがガチャっと音を立てているので中身は金貨だろう。



「うわ、少なくありません?」



 中身を確認しないで言うのはラーミである、マルクも言葉を飲むほど小さい袋だったからだ。



「中を見てから言って欲しい。夫婦そろって早漏だよ」

「あまりラーミに変な言葉を聞かせないで欲しい」

「あのマルクさん別にこの手の言葉は、他の冒険者が良く私をからかうのに聞きなれてますので、お気になさらずに」



 注意したつもりが逆に注意されてマルクは少しだけバツの悪い顔になる。



「中身だったな……っとこれは」

「大金貨。金貨の10倍の値打ちで35枚って所だ」

「まぁまぁですね。あれマルクさん?」



 マルクは固まったままである。

 数日前まで銀貨にも困り薬草を摘んでは酒を買っていた生活をしていたのに突然大金貨。と言われてもと思いなおす。


 予定では金貨150枚ほどだったはずで、金額を聞いた時は実感がないマルクであったが実物の報酬をみると震える。と言う奴である。



「い、一生暮らせるな」

「「無理無理」」



 二人に反対の突っ込みをされた。



「今までのような生活であれば可能だが、周りがそうもいかないだろう。それにマルクよ。妻にまで薬草をせんじた茶で1日を終わらせる気か?」

「いや……それは」

「別に私は茶をせんじて1日終わってもいいですけど?」



 マルクは咳払いをして気分を落ち着かせる。



「すまない。感謝する」

「さすがに金貨を持ち帰るには手間がかかるだろう、冒険者ギルドが発行するブラックカードだ。どこのギルドでも出せるから無くさないようにな、こっちの袋に金貨を40枚ほど入れて持って来た。何か質問は?」



 ファに言われてマルクは考えるも特に考えられなかった。

 代わりにラーミが手を上げる。



「今回冒険者ギルドはいくら儲かったんです?」

「答えるのだけが大人ではないからな」

「酷い答えです」

「ではマルクさんのランクは――」

「ああ、それは上げて置く。といってもAやBはまず無理だ規格外の素材を持って来たと言っても、禁じ手を使ったのはS級ラーミだろう。私の権限をフル活動して力を見てもCが限界だな。これ新しいギルドカードだ古いのはテーブルに置いておいていってくれ」



 マルクは話を聞いているようで聞いていない。

 (俺が……いきなりのC?)



「そこは特Aとかに」

「上げたとたんに死ぬ未来しかない、ラーミがいない場合に迷宮のダンジョンのボスクラスと対峙してマルクが勝てるとは思えないからな、頑張ってのCだ。昇段試験をきちんと受ければBにはなれるだろうが、無理はしない事だな。さてこの話は終わり、一応は裏口から帰ってくれ」



 ファは二人に手を上げ挨拶すると部屋から出ていった。

 残されたのは憤慨してるラーミと放心してるマルクだ。



「ケチでしたねーギルドだってがっぽがっぽ儲けたんですし。あれ? マルクさん?」

「ああ、すまない。考え事を……俺のランクはCに……?」

「やっぱりAのほうがかっこいいですよね。待ってくださいいまギルドマスターを捕まえてきま……おや?」



 マルクはラーミの手をつかんでそれを阻止する。



「Cで十分だ。昇段試験をうけてDになるつもりがいきなりのCでとまどったまでだ」

「はぁ……マルクさんがCでいいならいいですけど」



 マルクは金貨袋から金貨を1枚だして自分の所へ置いた。残りの金貨は全部ラーミの前に置く。



「今回の働きで俺はこれで十分だ」



 ラーミはきょとんとする。



「あの、これはどういう意味なんでしょう?」



 ラーミの声が物凄く不機嫌だ。

 マルクとしては自分の正当な評価と思っていたがラーミが怒るので残った金貨もラーミの前に差し出した。



「おごかましかったな、すまない」

「そうじゃなくてですね!」


 ラーミの顔がもっと険しくなってきた。マルクの頬を両方の手で引っ張りだす。



「いっいふぁい! ラーミ!?」

「そりゃそうですよ、痛くしてるんですから! マルクさん。いいですか? あのですねー……私達は夫婦なったんです! もう何日も前に、そりゃまだ初夜らしい初夜もしてませんし、そりゃ今回はマルクさんの出番が少なかったかもしれません。それでも私は、ほんっとうに嬉しくて、共同依頼にしたんです。そりゃ、夫婦の間でも貸し借りはしないほうがいいとママに教わりました。でもこれは共同依頼です。きっちり半分にしましょう」



 引っ張り上げたほほが離される。



「しかしだな、俺は今回何もしてない」



 マルクは旅を振り返り考える。

 担がれてサンガクさんへいき酒飲んで山登って審判をして転がされてである。その事をラーミへと伝えた。



「確かにそうですけど、マルクさんと結婚しなければこんな依頼も受けませんし、いい男なんですから自信を持ってください!」

「俺が?」

「はいっ!」



 少女と思っていたが、ラーミも一人の女性としてマルクを見ていたのだ。その事に嬉しく思うとマルクは素直に頭を下げる。



「すまない、俺が変に考えすぎていたようだ」

「マルクさんっ!」

「ラーミ……」

「じゃぁ仲直りのちゅーしてくれませんか?」

「………………いいのか?」

 (ここでキスでもしたら俺の衝動が抑えきれるか不安になるな、しかし俺が悪いのは確かで、ラーミは俺の妻で不安な俺をしかってくれた……)



 二人が見詰めあい、マルクの喉がなる。



「ラーミ」

「はい」



 会議室の扉が開く。

 残された長い耳をピコピコさせるとギルドマスターが面倒そうに顔を向けた。

 


「ここはそういう場所じゃないんで、帰ってからやってくれ。お前ら二人がさかった後、この部屋で仕事をするのは私だし、かわいそうだろ」


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