第14話 ドラゴン祭りで

 マグナの街に戻ってきた。

 二人が入る時に若い若い門兵が何かを言いたそうな顔で年配の門兵に肩を叩かれていたが二人は気にもせずに入る。


 時間は既に遅く普通の人間であれば就寝する時間である。



「もう遅いですし明日ですかね?」

「いや、このままギルドに行こう」



 マグナの街の冒険者ギルドは年中無休だ、さすがに夜から朝にかけて人は減るが、常に誰かはいる。

 ラーミのいう通り家に帰ったのだから一晩寝て、翌朝行く事でも問題ないのであるが、マルクが高級な素材を外に置いておくのも心配という事で向かった。

 ラーミは「心配性ですねぇ」と言うが、性分だとマルクは笑う。



「思ったよりも混んでますねー」

「こんなものだろう、では素材の番を頼む」

「はいっ、外で待ってますね」



 マルクは外にラーミを残して一人ギルド内へと入っていく。

 何時もの買取カウンターへと向かう、夜も眼鏡を掛けたギルド員のミーアが座っていた。



「お久しぶりですマルクさん。新婚旅行はどでしたか? 薬草の買い取りですよね」

「何の話だ……?」

「サンガク山へ観光もかねて向かったのかと、ドラゴンの素材は手に入らないとしてもいい現地の薬草を」

「確かに興味をそそる薬草であった、マグナのほうで手に入る奴よりも葉が小さくあれでは効果が薄いきが…………いやその話ではなく素材は手に入れて来た」



 もはや、受付のミーアにとってマルク=薬草の人と認識されている。

 他の冒険者と軽いトラブルはあったもののマルクであれば薬草ぐらいは採取してくるだろう。というのが冒険者ギルド職員の想像である。



「はい?」

「ドラゴンの瞳、皮、あとは爪だったな……鮮度はいいと思うが外で――」



 ミーアはカウンターを両手で叩く、その勢いにマルクの言葉も止まり周りの視線が一斉にミーアに向いた。



 小さな声で「マルクさん、本当ですか?」

 と、ささやいてくる。



「ああ、だから確認を――」

「外でしたよね!」



 ミーアは立ち上がると直ぐに外へ駆け出した。駆け出したものだから、冒険者の何人か様子を見に行く、他のギルド員もその様子を呆気に取られていた。



 マルクはどうしたものかと迷ったが、外に行く事にした。



 外ではラーミを中心にして、人だかりが出来ており、ギルド職員のミーアが興奮して話しかけており、周りには冒険者が集まり始めてる。



 ラーミは荷台の上に飛び乗って「マルクさんが来るまで見せませんし触らせませんよ離れなさい!」と棒きれを持って他の冒険者をけん制している。



「何をしてるんだ……」



 思わずマルクが小さく笑うとラーミと目が合った。



「あ、マルクさーん」



 冒険者達がマルクを中心に道が開けた。

 マルクは注目されながらもその中を歩く。

 (少し緊張するな)



「問題があったのだろうか」

「ドラゴンの素材なんですけど、査定は明日になるそうでギルドで確認したいというんですよね」

「ラーミさんっ。大声でドラゴンと言われてはっ!」



 注意するミーアのほうが大声で、自らの口を押さえたのも遅かった、周りの冒険者達は騒ぎ出す。



 ドラゴン、聞き間違いか?

 俺は確かにきいたぞっ!

 本当に素材があるのか? ちょっといい武具が作れるぞ。何年も放置されてる依頼じゃないのか?

 あれ、あの小さい子って昨日ミッシェルを打ち負かした子じゃないの?

 自称Bランクの子かじゃぁこっちの男はロリコンマスターの人か。



「なっ! 俺は違うぞ!」

「別にマルクさんがロリコンでもいいと思いますよ? 私にだけむいて下されば」

「ラーミ!?」



 妻からの援護射撃をうけてマルクのロリコン説が広がっていく。


 ひときわ大きい男が代表者みたいな立ち位置で3人の前へ出た。

 頭はツルツルで筋肉質の男。殺しのミッシェルだ。



「おい、本当にドラゴンの素材なのか? いるんだよ、ドラゴンといって別の素材をもってくる詐欺冒険者がな」

「どこの誰かは知りませんけどっ、ケチをつけないで下さいっ。正真正銘のドラゴンです!」

「誰か知らないって……会っただろ。ミッシェルだっ!」



 自己紹介をされてラーミは黙って腕を組む。



「ごめんなさい。覚えてません」

「こ、このっ……」



 周りの野次馬から失笑がもれ始めると、マルクが前にでる。



「昨日は妻が失礼な事を言った殺しのミッシェルさんだな。正真正銘のドラゴンの素材だ。ただ……俺がそう言っても信じて貰えないの気持ちはわかる、鑑定をいれて依頼を完了したくこの時間に来たのだが」

「大方別の街でドラゴンの素材を買って来たか借りたんだろうな」

「かーこのハゲちゃぴんは何を言うのですかね! これは私とマルクさんがドラゴンを千切っては投げして手に入れた最高の素材ですよ!」



 マルクは思わずラーミを見た。

 そんな記憶はないからだ、しかし、ラーミは素材の上でふんぞり返り勝ち誇った顔をしている。



「ラーミ!?」

「はい、マルクさん見せてやりましょう究極の素材を」

「まって本物なら騒ぎにラーミさん――」



 ミーアの言葉も素通りしてラーミがジャンプしながら足元の布を引っ張り外す。

 無造作に積まれたドラゴンの素材が冒険者ギルドの明かりに照らされ、その大きな金色の目などはギョロっと動いた。



 冒険者達がその異様な素材に言葉を失った。



「これは見事なドラゴンの素材だな」



 突然聞こえる声に視線が集まると、ギルドマスターのフィがペタペタと素材を触っていた。



「そこ! 価値が下がるので触らないでくださりますか」

「おいおい、私はギルドマスターのフィだぞ」

「知ってるから言っているんです」

「ラ。ラーミ!?」



 フィは小さく笑うと顔を上げ冒険者達を見渡す。



「ミーア。他のギルド職員……今日はアゼンタ。コバルト。ギリシーヌもいたな総出で 武器、防具、それに、薬品屋の店主を呼んで来いっとな」

「え、でももうこの時間で店は終わってますよ」



 冒険者ギルドがやっているだけで他の店は既に閉まっている時間だ。


「マグナのギルドマスターとして各店との義理は果たす。口頭で極上のドラゴンの素材が入ったと、来ない奴といない奴は運が悪かったな、こちらで気持ち程度の素材を残しておこう。

 さて野次馬の未来の英雄達、この二人はサンガク山でドラゴンを千切っては投げだったな……同じ事をして素材を手に入れたいなら止はしないが」



 ギルドマスターの言葉に全員が息を飲む。



「まぁ嘘だろう。しかし、素材はある。この素材は本物だ私が保証しよう。マグナの冒険者ギルドはこの依頼を受けた二人にこれ以上詮索はしない、お前達もいい素材のいい武具が欲しいだろ? ここで機嫌を損ねて見ろ『お前には売らないで』って一言言うだけで手に入らないぞ」



 マルクはそんな事は言わない。と思うが、ラーミを見ると、その手があったか! といわんばかりに手を叩く。


 ギルドマスターのフィが言葉を終えると、猛スピードで馬車が何台も来た。その他にも走ってくる人間もいる。

 

 マグナの街の各職人達だ。

 まだギルドの人間が呼びにもいっていないのにもかかわらずこの速さである。



 ドラゴンの素材が手に入った。と、きいてと鼻息を荒くしてはこれはいくらで買いたい。こっちはいくらで俺が買うなどギルドマスターへと詰め寄っていく。


 今度はその職人に冒険者が俺に武具を作ってくれと群がっていく。熱気に包まれた冒険者ギルド前でマルクは唖然とすると、ギルドマスターに呼び止められる。



「さて」

「すまない……その騒ぎを起こしたくは」

「何、まさか10日も立たずに依頼を終えるとは、まさに暴夫婦だな完了金を支払うし混乱が起きぬように私が仕切る。二階の私の部屋で二人とも待っていてくれ」

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