第13話 マルク夫妻 サンガク山を後にする

「と、言う事で大したもてなしもされてませんが帰ろうと思います!」

「もてなす小屋がないからな」

「エルドラおばさん、今度は燃えない小屋を作っておいてください」

「蒸し焼きは困るから木材が丁度いい」



 マルクは二人の会話になっていないような会話を黙って聞く。

 マルクには入れない絆がそこにあるようだからだ。



「その色々と申しわけない」

「旦那か、気にするな半日であるが良い運動にはなった。時間が合えばお前も鍛えてやろう」

「その時はよろしく頼む」



 エルドラが黙って手を差し出すのでマルクもその手に握手した。

 マルクが荷台を引っ張り、ラーミがそれを後ろから支える役割だ。


 力強さからいけばラーミのほうが凄いが、マルクが率先して荷台を引っ張るのでラーミも特に何も言わない。

 マルクもラーミのほうが効率はいいのだろう。と、頭でわかっていても自分が引っ張っている状態だ。



「そういえば、エルドラは宿のエレノアの血縁と言っていたな」

「エルドラおばさんですよね。そうらしいですよ……あそこの女は代々ぼんきゅっぼんみたいです。世の中不公平ですよね」



 ここで不公平だな。といえばマルクは山から突き落とされる可能性がある。



「俺は外見でラーミと結婚したわけじゃないからな」

「むむむ、さすが大人の男性です。ますます好きになります」

「はっはっは」



 結界を抜けると下り坂に入っていく。

 ラーミが荷台の後ろから声をかけて来た。



「本当に重くないですか?」

「ああ、薬草採取でもこれぐらいの荷物になった事はあるし下り坂だ」

「それだけ力あるのにE級とは、ササリーさんも言っていたじゃないですか。B級以上の実力者だって」



 ササリーはマルクの幼馴染で、同じく親友であるヤットの妻である



「しかし、冒険者としてはもう落ち目だろう。後数年もすれば引退だ」

「まだまだですよっ! 引退を自分自身で決めるのは愚の骨頂です! あっでも冒険者を引退して、ちょっとお高いお酒が飲めるバーでもやりたいですね」



 思わずマルクの足が止まった。

 その拍子にラーミが荷台に頭をぶつける。



「痛っ!? マルクさん!?」

「っと、すまない」

「あの、どうしたのですか?」

「いや……進もうか」



 マルクにとって死ぬまで冒険者をして死ぬまで薬草を取って孤児院に恩返しをしつつ、孤児院の兄妹を助けひっそりと暮らし、たまには酒を飲んで終わるつもりだったのでラーミの発言に驚いてしまったのだ。



「結局は進む事をやめた時が引退となる。か……」

「む。誰の言葉でしょう?」

「さあな。所でこの依頼が終わったらどうすべきか、ランクの申請としてもまだ申請時期まで日がある」




 冒険者ギルドのシステムの問題である。いくらクエストをこなそうとも基本は直ぐにランクは上がらない。


 例外を除いで。


 マルクは例外ラーミを見ては顔を戻す。

 (そういえば、どうしてSランクなのだろう……やはり貴族だからか? 貴族などは金でランクを買う。いやまてラーミの強さをみれば買うまでも無い実力だ)


 ラーミのほうは見られた事に気にした事もなく荷台を支えながら話し出す。



「うーん……取り合えず美味しいお酒が飲みたいです」

「それは名案だ。酒といえばだ、ラーミの強さ酒と関係しているのか?」

「ふえ?」

「昔、酔えば酔うほど強くなる。と本を読んだ事がある」



 マルクが若い時に読んだ本で、その本の通りに浴びるほどのんでお金だけ減った事があった。



「まぁ私が規格外なのは色々と理由があるのですけど、お酒はただ好きなだけですよ? あのお酒が喉を通って空腹時の胃の中で爆発するのです。外の気温は熱い、そこで魔法や氷で冷やしたのをギュっと」

「最高だな……早く帰りたいものだ」



 ラーミの言葉にマルクの足も速くなる。

 


「最高ですよね」

「そうだな」

 (しかし良いのだろうが、あの年齢であの量は……)



 将来は酒豪では無く、ただの酒中毒者になる可能性のほうが高いだろう。

 しかし、マルクも酒が好きなため大きくは言えない。


 マルク自身も酒を飲んだ翌日は手の震えがないか確かめるほどだ。


 太陽が傾く前にマルク達はサンガク山を下りた。



「いや、ラーミ!」

「はいなんでしょう?」

「俺達は山で一泊してないのになぜにまだ夕方……いいや、祠に入る時も夕方だった」

「ああ。それは結界内の時間のずれですね。あの結界はエルドラおばさんの自作ですし、中の時間と外の時間の調整はあの人の指先一つで変わるのです。普段は一緒の時を過ごしているんですけど……今回は何十年たったのでしょう」



 何十年と聞いてマルクは思わず周りを見た。山に登る前と街並みは変わったようには見えない……見えないがもしかしたら何年もたっているのかもしれない。



「あれはエルド……いやまさかエレノア!?」



 エルドラににた女性が、ラーミを見ると手をふるのだ。



「ラーミちゃん。お久しぶり」

「これはエレファさん。お久しぶりです……マルクさん? エレノアのお母さんです」

「そうか、もしかしたらエレノアが大きくなったのかと思って驚いてしまった。初めましてマルクと言う、ラーミの――」

「旦那様でしょ。あの子エレノアから聞いたわよ。三日前に凄い勢いで話していた物」



 エレファの話を聞いてあれから三日たった事を確認された。



「二人は?」

「お酒の買い付けにいっちゃったわ私もこれから行く所。ああそうだわ……途中までご一緒にどうかしら?」

「それは是非に。ラーミ馬車に乗れるぞ!」



 マルクが喜ぶのとは対照的にラーミの顔が落ち込み始めた。


 (なんだ突然に)



「馬車は嫌いだったのか……?」

「馬車に好きも嫌いもないですけど、マルクさんがそこまで馬車が好きであれば来るときに悪い事をしたと」

「ああ、おれも馬車に好き嫌いは……そういう事ではなくラーミちょっとあっちに来てくれ」

「はぁ」




 ラーミを連れて物影に行く、そこでマルクは背負われていて記憶が飛んだ事とアレは旅ではなく荷物だった事を説明する。


 そういわれるとラーミだって少し赤くなる、二人っきりの旅も良かった。と言われればだ。



「わかりました、馬車に乗りましょう。いえお金ならいいです、これでも貯えはあるので」

「さすがにそれは返す、素材を売った時に手配しよう」



 エレファがまだかしら。と二人を待っていた。


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