第12話 料理下手
勝負が決まった宣言をした後ラーミが湖にに浮かんできた。
慌ててマルクは湖に飛び込み意識のないラーミを岸まで引っ張る。
「ラーミ! 大丈夫か」
マルクが声をかけても反応がない。
衣服は破れていたり見えてはいけない場所が見えているが目を覚まさないラーミにマルクはそれ所じゃないと必死に呼びかける。
「どけ」
エルドラが小さく言うと地面をえぐった尻尾が跳ね上がりラーミを潰そうと振り下ろされた。
「ちょっ!」
ラーミの目が見開いて慌てて回避行動をする。
先ほどまでラーミがいた場所は穴が開いていた。
「当たったらどうするつもりですか!」
「どうもしない」
「無事でよかった……」
「おい、旦那とやらコイツは気絶したフリをしていただけだぞ」
「あーーー! 何でそういう事いうんですかね!?」
「ワシの尻尾の攻撃を間一髪で後ろに飛んだくせに」
「ソンナコトナイデスヨ」
ラーミが片言になると、マルクはほっとするも複雑な表情になる。
「あれ。マルクさんどうしたのです?」
「怒るべきかその技量を褒めるべきか、怪我なくて良かった。と言うべきか迷っている」
「ほうほう、では怪我が無くてよかったで。あと一応傷は治りかけですけど怪我はあったのです」
「そ、そうか」
ラーミは寝そべった状態から足をあげるとその反動で起き上がる。
「さてエルドラおばさん、運動に付き合ったのですし、さっさと目玉や爪や皮膚とか色々下さい」
「ラーミ! 負けたのに貰うのか?」
「マルクさん、最初に言ってましたよ? 運動に付き合えって勝負して勝ったらくれる。とかは聞いてませんし」
「そうだな、言っていない。さてと旦那とやら手伝え、お前のほうは飯を作れ」
「むむむ、マルクさん信じてますからね!」
マルクが何を? と聞く前にラーミは小屋に戻ってしまった。
◇◇
エルドラが首の動きだけで、いくぞ! と合図をする。マルクはその後ろについて滝の裏側へと歩き出した。
お互いに無言だ。
マルクも元々一人で行動する事が多いので口数は少ないし、エルドラも特にお喋りすきなわけではない……多少の世話好きではあるが。
「この奥が洞窟になってる」
「見事な穴だな……」
「以前はその辺にいらなくなった爪などを放置していたが200年ほど前に来た奴が片付けろ。とうるさくてな。適当に拾え」
マルクが足を止めた場所には爪が何本も落ちている、その横には竜の抜け殻。その抜け殻の目の部分などはまだぎょろぎょろと動いていた。
気の小さい女性なら不気味さに驚くだろうが、そこはマルクも一応は冒険者だ。
(昔食べた魚は眼玉が旨かったな……もしかしたらこれも)
「言っておくが食べるのはお勧めしないぞ」
「……何も言っていない」
「そうか、気にするな」
背後で欠伸をしながらエルドラは待っていくれた。
マルクが爪数本。目玉、抜け殻、まだ肉がついている腕の一部などをエルドラから借りた台車へと積み込む。
「しかし……旦那とやらも変わっているな」
「俺の事か?」
「ああそうだ。小娘の力を見せつけてやったのに平気な顔をしている。ワシが若い頃なぞちょっと力を見せれば化物扱いだ」
「そうなのか!? …………いや……そうなのか……考えてもいなかった」
(確かに人間離れしすぎた強さに見とれ惚れ惚れしてしまったが、普通の人間から見たら恐怖なのかもしれないな)
マルクは手を止めてエルドラを見た。
「俺を試したのか?」
「そういう事だ、小娘の力を見て逃げ出すような旦那であれば小娘が不幸になるからな、それとも怒るか?」
「いや、怒りはしないな」
「
マルクは思わず小さく笑った。
過去にも何度も喧嘩を振られ似たような言葉を貰った事があるからだ。
「しかし、生きている」
「ほう……なるほどな」
エルドラが感心したような顔になると、それ以上は追及してこない。借りた荷台には多少隙間はあるが一通り積み上がっている。
「もう乗らないしこれだけ頂いてもいいだろうか」
「かまわん」
くるりと半回転しエルドラは滝の洞窟を出る、マルクもその後ろについて行った。
エルドラの後ろを歩きながらマルクは考える。
「エルドラ様よ。その俺は上手くは言えないが、ラーミと一緒にいるとまだ数日だっていうのに驚くことが多い、それにあの笑顔に何か癒されるんだ。あとは、結局はここかもしれないが一緒に飲む酒は旨い」
「エルドラと呼び捨てでかまわん」
まとまらないまま、エルドラへと答えを返す。
歩いていたエルドラが立ち止まってマルクを見た。
「…………なるほどな、だったらそれを言葉として伝えてやるんだな。小娘は馬鹿でどうしようもない奴でも弟子みたいなものだ。
旦那のお前が弟子を都合よく使うような人間であれば、頭から食っている」
青い瞳が、一瞬で赤くなるとマルクの目をまっすぐに見てくる。思わず無意識に喉を鳴らすと、エルドラの瞳が青色に戻った。
「ここは笑う冗談だ、人間の真似をした」
「……冗談でも心に響いた。感謝しよう」
「そうか」
小屋近くに来ると遠目でもわかるぐらいに小屋が燃えていた。
マルク達が走り小屋の前にくると、湖から持って来た水をバケツで必死にかけているラーミと目が合う。
「あわわわわわ。ええっとおかえりなさい! ええっとですね、これは何と言いますか。ええそうです、燃えました」
困り顔のラーミは最後のほうになると、堂々と燃えました。と言い切りそのポーズは腰に両手を置いている。
エルドラはため息を出しつつ少し煙で黒くなったラーミの頭をぽんぽんと叩く。
「5回目だな」
「5回目です!」
「と、言う事だ旦那とやら、命が惜しかったら小娘に料理を作らせるな」
「だ、大丈夫ですよ! 私だって6回目は無いですから」
ラーミが宣言すると、燃えた小屋の最後の柱が豪快に倒れた音だけが響く。
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