第11話 無料より高い物はない
湖畔にある小屋の中にマルクとラーミが座っている。
取りあえず話を聞くと言ったエルドラ、そのエルドラが先に小屋で待てと、言ったからだ。小屋の中はさっぷうけいで木製のテーブルと椅子しかない。
(生活する場所なのは間違いないが、結界内にいるという事は、かなりの人物だろう)
「ラーミ、色々と聞きたい事があるんだが」
「なんでしょう。
あ、お話は後にしましょう、エルドラおばさんが帰ってきました」
青い髪を頭部でひとまとめにしてきたエルドラ。
その手には鉄で出来たバケツを持って入ってくる。そのバケツの中にはにごった液体が入っている。
「茶だ。こういう時は飲み物を出すのが常識だろ」
言葉と共にドンと大きいバケツがテーブルの真ん中に置かれる。
直ぐにラーミが文句を言う。
「エルドラおばさん、茶菓子がありませんっ!」
「…………今から出すつもりだ」
マルクが、そういう問題じゃないと思っているが口には出さないでやり取りを見ている。
エルドラが茶菓子を出してテーブルをはさんで座った。
「…………で。何の目的だ? 目玉や爪だったな、金に困っているのなら現金のほうがいいだろう」
「それはそのご説明しましょう――」
ラーミが簡単に説明をしだした。
「なるほど、結婚したが旦那が馬鹿にされたので見返すのに冒険者ランクを上げたい。か」
「もうしわけない。エルドラさんが持っている爪などを譲ってもらうつもりだったのかもしれないが、俺としてはドラゴン本体の場所を教えて欲しい、上手くいけば爪のかけらぐらいは俺でも取れるはずだ」
マルクの説明に女性二人が変な間をだす。
マルク自身は変な事は言っていないはずだ。と二人を見始めた。
「小娘。お前は、ここに人を連れ込んで何も説明していないのかっ」
「説明……そういえばしてませんね」
「一度死んでおけ」
ラーミは悪態をつかれているのに嬉しそうにマルクへと親指を立てる。
「マルクさんっ実はですねっ、このエルドラおばさん、ママと知り合いでして、この山にいる古代竜なんですよっ」
ラーミは自分の事のように自慢すると、エルドラのほうも満更でもない顔をしている。
「すまない。頭が追いつかない」
「じゃぁ、エルドラおばさん竜に変身をっ!」
振られたエルドラは即座に否定する。
「面倒だ」
「だーっ、それじゃ私が嘘を吐いているみたいじゃ。マルクさん、そんな可哀想な目で私を見ないでくださいっ!」
「何面倒な事なだけで偉大なる古代竜であるのは間違いない」
マルクは別に可哀想な目で見ているわけではなく、詳細がわからないからラーミを見ているだけである。
エルドラはその二人を見て口元だけで笑うと、やれやれと、呟く。
「所で、小娘髪が伸びたか?」
「そうですかね。いまはまだ背中に届くか届かないかですけど、もう少し短くてもいいかなっておもってます」
マルクはラーミをみる。
余った髪の毛を無造作に束ねているので健康的なうなじが見えた、子供のうなじであるが、そこは異性だ。ちょっとだけ心拍数が上がる。
「旦那のほうは満更でもない顔をしているぞ。伸ばしたらどうだ?」
「ほ、本当ですかっ!?」
「いや、オレはその別にっ」
「しかし、こうも親しげに話す所をみると、結婚したのは嘘ではないようだな……所で疑問に思うのだが、男のほうは異常幼女性欲者か何かなのか?」
「違う」
マルクは即座に否定したのに、ラーミは数秒考えてから「違うと言っています」とやや否定的だ。
「ラーミ!?」
「いえ、中身で勝負と言いますけど。違うのでしたら私のアイアンティティがなくなるというかですね。逆にそうであってほしい。と少し思いまして」
「気にするな、それが悪いとは言っていない。しかし小娘の体はワシの血縁と比べて背も胸も小さいからな」
血縁とはサンガク屋にいるエレニアの事を言っている。
ラーミと同じ年齢であるが体格は対照的すぎる、同じ年齢なはずなのに5年ぐらいの差がみられるからだ。
「私はこれから伸びるし、大きくもなるんですーっ! 二年後にあっと言わせますからっ! もうそうなったら子供だってポンポンポンですよ。
それより、眼、爪、皮膚、古いので良いので無料で下さいっ!」
「おい、旦那」
「なんだろうか……?」
突然呼ばれ返事をする。
「竜の眼、爪、皮膚の今の相場を教えろ冒険者と言っていたならわかるだろう?」
「それぞれが金貨五十枚……まとまるともっといく、とは思う」
「ワシがドラゴンで古い眼などが余っているにせよ、横暴と思わないか?」
「思いません。エルドラおばさんは数年に一度脱皮をして、古い爪や眼などは生え変わるんですよ。元はただです」
対価を払えというエルドラと、元が無料だし知り合いだからダタでくれ、どちらが悪いのかは冒険者だったら直ぐにわかる。
そもそも、元が無料だったらタダになる理論でいくとマルクが採取する薬草だって無料だ、ギルドでも無料で引き取らないといけない。
「すまない。エルドラさんが竜などの話は俺はまだ本気で信じられないが、無理に譲られようとは思ってない。迷惑をかけたたようだラーミ、帰ろう」
「ちょっと、マルクさんっ。ギルドには……」
「オレが説明しよう」
(どうせ万年Eランクだ。いまさら依頼失敗して評判が下がっても平気だろう、オレがラーミに無理に頼み込んでした依頼となれば、ラーミにも迷惑は少なくてすむ)
ラーミの手を握り外へ行こうとするマルクをエルドラが呼び止める。
「まぁ待て、話をちゃんと聞いていけ。早漏の男は嫌われるぞ。譲っても構わないと思っている、なに少し運動に付き合ってくれればいいだけだ」
「運動?」
「えー……とんでもなく嫌な予感はしますけど、しょうがないですね」
◇◇
話はまとまり三人は小屋の前の広場にいる。
マルクから見て右にエルドラ、左にラーミが立っていた。
運動と言っても簡単な試合らしい、胸の所につけた薄い木の板を割ったほうが勝ち。
大昔の冒険者がやっていた練習試合だ。
「少しだけ本気を出すぞ、ここを出て3年かワシの血肉を食らったんだ本気でいくぞ」
「それはもう、こちらこそ」
エルドラの挑発を軽く流すとエルドラの周りの空気が揺らぎ始めた。
「ふっ」
エルドラが少し笑うと、その姿を変えていく。
手足は一回り膨れ上がり爬虫類の手になった。尻の部分からは尻尾も生える。
特徴的な青い瞳が赤くなり爬虫類のような縦の目に切り替わった。
マルクは驚きで最初は声も出なかった。
いくらラーミがエルドラはドラゴンだって言っても、本当だとしても頭が理解していなかったからだ。
もしかしたら、人里から隠れてすむドラゴン研究家か何かかと思っていたからだ。
(これがドラゴン……?)
「旦那よ。ワシを見てドラゴンはみなこうだとは思わない事だな。ワシはドラゴンの中でも真祖ドラゴン。そこらの言葉を忘れ世界の理さえも捨てた奴らはもはや同族とすら思わない」
「そうなのか……」
マルクは自分が取り乱してはいけないと、冷静を装い。試合開始と、宣言した。
マルクはラーミの強さを始めてみた。
エルドラは竜に戻した手を前方に出すとその爪の隙間から青い光線がラーミに向かって走る。
魔法の一種だろう、詠唱すらしない強力な魔法は真っ直ぐにラーミ飛んでいく。
ラーミは、その小さな肉体だけで立ち向かっている。
光線を両腕でガードすると、ガードからもれた光線が後ろへと流れる。
背後にある木々が音を立てて焦げていった。
「魔法だなんて卑怯ですっ!」
「魔法防御が強いくせにうるさい小娘だ」
「それはそれ、これはこれですっ!」
反撃へとダッシュしたラーミは、勢いをつけてエルドラを殴ろうとする。
エルドラはその攻撃を予測していたのだろう青い障壁をだしていた。
「甘いですっ!」
「そっちもなっ!」
その障壁を自らのコブシひとつで殴りぶち破る。いつの間にかエルドラも肉弾戦へと切り替えていた、障壁が破られると同時に尻尾で攻撃をする。
胸の板を守りつつ背後へと吹き飛ぶラーミは、直ぐに起き上がり反撃に移る。
一進一退の肉弾戦。
常人なら致命傷、いや即死にみえる打撃すらお互いに受けていた。
マルクはその戦いをしっかりと眼に焼き付ける。
お互い肩で息を始めた頃。
二人の体はすでに薄い木の板は全部われている、それなのに試合は終わっていない。
マルクとしても止める事が出来ないでいた。
エルドラが、「はぁはぁ……さて、もうそろそろ決めさせてもらおう」と決め台詞を言う。
「それは、私のセリフです」
対するラーミも気合は乗っている。
二人が同時突進した。
「小娘よ。旦那がパンツ下げてぶらぶらさせているぞ」
「「え!?」」
ラーミとマルクの声が同時にかぶった。
エルドラの言葉でラーミがマルクを見るとその視線が合わさった。
「ラーミ! こっちを――」
「はいて――ぶげっ」
「見ては駄目だろう…………」
エルドラの一撃がラーミの顔面に入るとそのまま湖の真ん中まで吹っ飛ぶ。
空に向かって拳をあげ、勝利を堪能するエルドラがマルクをちらちらと見ている。
それに気づいたマルクが大声で、
「試合終了!」
と、叫んだ所で試合は終わった。
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