第10話 僕らのエルドラン!
サンガク山のサンガク村。
適当についたような村であるが背後に伸びる山は物凄く高く、ドラゴンが住んでいると言われている村である。
過去に何度も冒険者が探しに行ったがドラゴンは見つからない、にもかかわらず村から村全体がお金に困るとドラゴンの素材が出てくるのだ。
村の権力者
なんとも珍しい村である。
その村で場違いなほど大きな宿を経営しているクマゴロウの娘、エレノアはマルクとラーミを見て挨拶をした。
「ええっと……随分と楽し――」
「それよりも、いい朝だな!」
「マルクさん曇ってますけど?」
マルクの声が不自然だ。
エレノアはマルクが首や腕に包帯をまいているのを指摘しようかして辞めて置いた。なんせ昨日はカップル向けの特別な401号の部屋の鍵を渡したのだ。こうなる事は予想できた。
親友のラーミも嬉しそうなのでそういう事なのだろう。
「ラーミ。今度詳しく聞かせて」
「どうしましょうかねぇ……ねぇマルクさん」
「ラ、ラーミ!?」
狼狽するマルクは置いておいてラーミはエレノアと山の事を話し出す。登るには向かない天気であるが、登れない事もないだろう。と言う事だ。
「と、いうわけでマルクさん。ちゃっちゃと依頼終わらせてマルクさんのランクを上げましょう!」
「…………俺の?」
「はい、一応は中難易度の依頼ですし。クリアすればお金も名声もがっぽがっぽですよ?」
「俺のためだったのか!?」
(思い出せば俺がランクを上げようとクエストを探していたか、てっきりラーミの暴走かと思っていた。そうだな……Bランクの依頼だ。俺の査定もあが……上がるのか? 実質ラーミがいないとクリア出来ないクエストで。
この場合のPLとは上級者冒険者に着いて新人の評価が上がる事をしめしている。
A級の冒険者パーティーにFランクの荷物持ち新人が入ったとして、A級冒険者パーティーが依頼をクリアすると荷物しかもっていないFランク冒険者も査定が上がるのだ。
マルクは見かけた事はないが、貴族冒険者がたまに行う手法である。
「あの、変な顔してまけど……?」
「ああ、いや大丈夫だ。エレノア世話になった。クマゴロウによろしく言っておいてくれ」
「帰りもサンガク亭に泊まって自分で言ってくれれば……でも伝えとく、ラーミっあんたは規格外なんだからマルクさんに無理させたらダメよ?」
「うるさいマブですねー。わかってますよ? ではマルクさん、あっちに近道がありますので」
ラーミが歩くのでマルクはその後ろを慌ててついて行った。
◇◇
森林をぬけ岩肌の地帯へと歩く、ラーミの顔は呆れ顔で逆にマルクの顔は少し申し訳なさそうな顔だ。
「そう怒らないでくれ」
「別に怒っていませんけど、薬草を見つけるたびに足を止めるとなると目的地前に日がくれます」
「それはそうなんだが……マグナ街では見慣れない生え方をしていてな」
「だったら摘めばいいのに」
何度も足を止めたマルクであるが1個も採取はしてない。
「今は必要ないからな。それに俺が摘むとこの村で必要な人が出た時に困る、所でドラゴン退治というが本当にドラゴンは要るのか? サンガク村を見下ろせる位置まで登ったが何も見当たらない」
「退治はできませんので爪ですかね。アテはありますよ? 前にも来てますし」
(ああそうか、ラーミの顔なじみがいるんだ野暮な疑問だったな)
2人は山頂付近まで登る、ラーミの腰程度しかない小さい祭壇があり竜の石像が置いてあった、目の部分は赤い宝石がついており思わずマルクも見とれてしまう。
「祭壇の裏から結界ありますので、離れないように手を」
「結界……?」
「はい、結界です。許可制なんですけど私通れますので」
何も知らなければ、知っている人間のいう事を聞くしかない。それは年齢に関係ないとマルクは思っている所が少しある。
深くは聞かずラーミの手を握るとその後について行った。
「空気が……違う。しかも突然森の中に戻ったな……この音は滝か?」
「おや、気づくとは流石です。空気中の魔力が多いので息苦しい感じがあるかもですね、私は平気ですけど」
(少し息苦しいが、問題ないだろう。しかし問題なのは変わった草が生えている。あの赤いのは毒草のクサコケシか? ずいぶんと大きい。何……根さえ触らなければ大丈夫だ)
マルクが一歩道から離れようとするとその体が止まる。
ラーミが手をつかんでいてマルクを黙って見つめていた、その目は『またですか?』と言っているようにマルクは見えた。
「ち、違うんだ」
「別にいいですけど……ここまでくれば迷いませんし、そもそも結界に入るのに手を繋いだのですし」
ラーミは手を離してマルクを解放する。
「いや、今は先を急ごう」
少し反省したマルクはラーミの側を離れないように歩き出す。
少し進むと滝音が近くなり大きな湖と滝が視界に入って来た。
「凄いな……」
(思わずそれ以上の言葉が出ない)
湖の近くに小屋が立っているのに気付く、ラーミそこに向かうと黙って扉を開けた。
「お、おい! ラーミ!?」
「はい、なんでしょう?」
「その黙って扉を開けなくても……」
「なるほど。確かに、そうですね。ではエルドラおばさーん。可愛いラーミが来ました」
ラーミは大声で言うも反応はない。
その代わり突然の気配でマルクは小屋の前から湖へと振り向いた。
湖のふちに長く透き通るような肌の手が出ると、そのまま水面に人影が現れる。
ラーミのように赤い髪で瞳は青い。
ラーミは『おばさん』と言ったがその外見は20代にしか見えなく、スタイルで言えば豊満な胸と下半身には布だけを巻いただけであった。
マルクの年齢であれば……いやマルクは抑えられているが若い男なら釘付けになるだろう。
おもわずこぼれそうなのを二つの物体を見て見てマルクの視線が下を向く。
「なんだお前か」
ぶっきらぼうに喋る言葉はあまり歓迎されていないように聞こえた。
「なんだとはなんですか、エルドラおばさんに、遠い所からわざわざ会いにきましたのに」
「小娘お前が来るとろくな事がない、用件を言え、それに後ろの奴は? 横を向いているがこっちを向け、怪我をしているのか? 軟膏が欲しいならワシよりは魔法使いにでも見せたほうがいいだろう、さっさと帰れ。上着を羽織った。晩飯は食べたのか? 人間用に肉と菓子があったな食べていけ」
上着を羽織ったというのでマルクは正面を向くが大きなタオルを羽織っただけである。
(さっきよりはいいか……それにシスターアンを思い出すな)
「これは怪我ではなく……」
「だろうな、顔色はいい。呪いにかかっているような顔でもない。ますます不思議だ。小娘よ何しに来た?」
「ご紹介しましょう。この人は私の旦那さんです!」
ラーミが自身満々にいうとエルドラと言う女性は不機嫌な顔になる。
「それは
「そ、その怒らないでくれ。ラーミはそんな事を言いたいのではなくて……見た感じエレノアさんだったな、凄くきれいとは思う」
「マルクさん!?」
「っ!?」
何とかエレノアの不機嫌を治し話を聞いてもらおうとするマルクであったが、2人には別の意味に聞こえたのは言うまでもない。
「おい。お前の旦那とやらはワシを口説き始めたぞ」
「マ、マルクさん!? 不倫ですか不倫ですよ!?」
「なにっ!? ち、違うんだ」
「小娘よ、それは人間の作ったルールだろ? ワシは嬉しいぞ、まさか人間に口説かれるとはな、中々見る目はありそうだ」
機嫌のよくなったエルドラにマルクは不思議に思う。
(先ほどから人間に口説かれるとか、人間ではないのか? 人間にしか見えない)
「もう、冗談はいいですから。エルドラおばさんの目玉か爪か心臓、あと腕の1本でも切り落としてください」
「………………下らない冗談だな」
「こっちは本気ですけど、ねーマルクさん」
突然降られた言葉にマルクのほうが答えに困って無言になった。
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