第9話 ラーミとマルクの初夜


 村から入った所にある大きな宿へと案内される。とても銀貨二枚で泊まれそうな雰囲気はない。



「ラーミ!?」

「なんでしょう? 一階は食堂ですね。二階部分が例によって宿になっています。しかしどこの宿も代わり映えしませんね」

「俺が言いたい事は――……」



 マルクの声を聞かずにラーミは宿へと入る、マルクも気合を入れて中に入った。

 (最悪宿の仕事を手伝い稼ぐしかないか?)



「いらっしゃ……あーーーーーーーっ! お父さん大変大変。ラーミ、ラーミが来たっ!」


 ラーミより少し背の高い少女が奥へと消えた。マルクから視て年齢は少女から大人になりかけ20歳ぐらいに見えた。


 

「知り合いか? いや、知っている宿と言っていたか」

「ええ、エレノアと言って私のマブ親友ですかね。一応同じ年です」

「…………そうなのか?」

 (とても同じ年齢には……随分と大人っぽい女性、いや少女か)

「マルクさんいま変な事考えてませんでした?」



 女の感にドキッとしたマルクであったが、何も思ってない。と乗り切る。そのマブのエレノアが熊と一緒に戻ってきた。


 もとい熊みたいな人間を連れてくる。

 筋骨たくましく腕毛もあれば胸毛も凄い、あちこちに火傷の後があり歴戦の戦士のオーラがたっぷりと出ている。


 その熊人間はラーミの手を片手で持ち上げるとその顔に頬をすりよせた。



「おー、ちっこいのまた来たかっ! 今日はどうした。旦那探しは諦めたか? やっとウチの娘になるか」

「なりません。私はまだオーガにはなりたくないので、それと離してくれませんか?」



 わりいわりい。とハグを終えたラーミは顔の当たった部分を一生懸命に拭いている、その隣にエレノアが立ち、『はいこれ』と濡れたタオルと交換すると再度拭きだした。



「相変わらず娘共々容赦ねえな……っと、お客さんもいたのか。サンガク亭にようこそ一泊食事ありで1人銀貨1枚だ」

「本当にその値段なのか!?」

「酒は別料金ぐらいだな……ええっとラーミ、このお客は訳ありか?」



 ラーミは最後に顔をふいて、使い終わったタオルをエレノアに渡した。



「これぞ私の旦那さんです!」

「その……ラーミの旦那でマルクという初めまして」

「マジか……クマゴロウだ」



 クマゴロウとマルクは悪手する。

 食堂部分に他の客はいなくそのまま食事の用意をしてくれる。


 テーブルには山菜を中心にした料理と焼いた大きな肉とパンを出された。これだけでもマグナで頼めば銀貨5枚はするだろう。



「すまないが、俺達は…………俺は金がそこまで無いんだが」

「俺の奢りだ! いやどうせ他に客もいないんだし、このサンガク村はドラゴン様に守られているからな。で、今日は何のようだ?」



 ドラゴン退治とは言いにくくなった。



「ドラゴンの爪、目、心臓でもいいので貰いに来ました」

「ラーミ!?」

「なるほど……? まー気をつけろよ」



 クマゴロウのあっさりした返事にマルクのほうが不安になった。

 (ここを守護してると言っていなかったか?)



「それよりもだ。噂には聞いていたが思ったよりも渋い顔だな。死んだタロウに似てる、これじゃサナがビビビっというのは分かる気もする」

「タロウ? サナといえば」

「はい、私の両親の名前です。このクマゴロウさんは私の両親のマブだったらしいです」

「おう。サナが一般人と結婚するって聞いた時は――――」



 素面で話す事でもないな。とクマゴロウは厨房にいる娘のエレノアを呼ぶ。

 嫌悪な顔をされながらもエレノアは両手いっぱいの酒をテーブルに持って来た。



「はいはい、飲みすぎないようにね」

「エレノアも飲むか?」

「終わったらね」

「二人とも好きなだけ飲んでくれ」



 好きなだけ……マルクは思わずラーミを見るとラーミもマルクを見ている。

 二人とも酒が好きなのだ。そんな二人に好きなだけ。と、いうと社交辞令としても心が躍る。



「ではタルでお願いします」

「ラーミ!? その少しは……」

「がっはっは、いいって事よ。ちびっこが酒好きなのは知ってるし、そっちの旦那はタルは流石にきついか? ちびっこの旦那だから酒は強いと思ったが弱いとはな」



 マルクの表情が少し険しくなる。

 酒好きが酒好きに挑戦されたのだ。これは受けないわけにはいかないだろう。



「いいでしょうマルクさん。挑戦を受けましょう」

「そうだな俺としてもこの挑戦を負けるわけにはいかない」



 酒好きの暴走なだけである。

 別にマルクが拒否してもラーミを巻き込めばいい、それを知っているクマゴロウは二人を煽ったのだ。

 これでエレノアに怒られなく飲めるから。



◇◇


「勝ったぞ!」



 マルクが勝利を宣言すると、横で飲んでいたラーミが拍手する。

 丁度そこにエレノアがツマミを持って来る。



「どんな人かと思っていたけど、良い人みたいね」

「俺の事か?」

「そりゃそうですよ。私がビビビって来たのですから、冒険者ランクに掛けて誓いますね」

「昔からオジセン……いや一直線だったからねー。さてマルクさん。うちのお父さんに勝ったからには商品があります。これ401号の部屋ですのでごゆっくり使ってください。うちはお父さんを自宅まで引っ張っていくので」



 エレノアはそういうと酔いつぶれたクマゴロウを引っ張り宿から出ていく。

 残ったのは部屋の鍵と二人だけ。



「さ、さて部屋にいきましょうか」

「ん? そうだな」

 (ラーミの様子がおかしいな)



 マルクは鍵を手に取り4階へと進む、後ろについてくるラーミの口数が少ない。

 (どうしたんだ)



 部屋の鍵を開けてマルクはその理由を知った。

 全面鏡張りの部屋であり、真ん中に大きな丸いベッドがあるからだ。



「ささ、マルクさん部屋にどうぞ」

「いや、これは、えっ」



 ラーミに押し切られてマルクは部屋に入る。

 どういう仕掛けなのかベッドが回転すると、オルゴールだろう音楽が流れていく。



「初夜です! 五日ぐらいたってますけど」



 ラーミが宣言すると少し赤い顔でベッドの上に寝そべった。

 大きく手足を広げ、回転するベッドなのでマルクはその様子を思わず黙ってみてしまった。



「こんなようなネズミが回る玩具があったきがするな……」



 ラーミが起き上がるとベッドの真ん中でチョコンと座り込む。



「あの、マルクさんもどうぞ」

「どうぞ。か」

「結婚する時に言いましたけどやる事やら無いと子供できませんし」

「一気に酔いが醒めた」

「それはどういう意味でしょうか?」



 部屋の温度が一気に低くなった気がする。

 マルクが閉まったと思うのは遅くラーミから冷気が出ているようにみえる。



「その、俺は別にが凄く好きなわけでもなく」

「ご安心ください、母から教えを受けていますので。もっとも男性に使うのは初めてですけど」



 マルク自身は冒険者も長いがそれ以前に孤児院育ちだ。様々な男女が一緒に暮らす中、半裸の女性が歩きまわると言う事が日常である、それゆえ、あまり性欲が無いほうだ。と自覚している。



「来ないという事はつまり私には魅力がないと……結婚して5日。離婚でしょうか」

「まてまてまて、その俺も男だから性欲が無いわけじゃ無い。が……それとラーミの魅力がない。と言うのは違う……俺もその、ラーミとの子供は欲しいからな」

「マルクさん…………」



 ラーミはマルクの手を引っ張るとベットに押し倒した。

 普通の男女は逆である。



「うお……ま、まてラーミ。話の続きがあるんだ」

「おや、なんでしょう? 小さい女性が大きな男性をベッドの上でののしると最高です。とママから教えを受けてました」

「それは……いや。そうじゃなくて真面目な話だ」



 マルクがそういうのでラーミはマルクの腰から離れベッドの上に座る。マルクが何を言うのか待っているのだ。



「俺はその孤児院出身だ」

「はい」

「そこで様々な女性を見ているが……ラーミ子供を産むにはその体系がまだ追いついてない、子を産むにしてもラーミの命が危なくなるだろう」

「そこまで私の事を!?」



 当たり前だろう。と、マルクは言う。



「この高ぶる気持ちはどうしましょう。物凄い緊張したんですけど……」

「それは俺も同じだ、しかし本能だけでは暴走はしたくない、ラーミの年齢からみても後2年は欲しいな。もう少し胸とお尻も大きくなり身長も欲しい所だ」



 ラーミはマルクに向けて両手を広げる、抱きつけ。そして唇をつけろ。と無言のアピールなのだ。



「では私も暴走しない様に約束してほしいです」

「俺に出来る事なら……」

「では。死なない事ですかね、母と違い子供もいない未亡人はつらいですし」



 ラーミの目が真面目だ。


 (確かにそうだろう、本当にラーミの事を思うならここで子供を作った方がいいのでは? いやそれでラーミを失っては生まれてくる子にも影が残る)



「わかった、約束しよう」

「あとちゅーしましょう、ちゅー!」



 (それだったらいいか……その、夫婦なんだしな……)



 マルクはラーミの側にいくと軽くキスをした。そのとたんにマルクの体がベッドに押し倒された。先ほどと同じ馬乗りになった体制だ。



「ラーミ!?」

「安心してくださいちゅーだけなので!」

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