第7話 マルクの親友達

 ギルドの外に出たラーミはマルクの手を取り足早に歩いた。

 いくつも角を曲がり、時折マルク以外の人間が居ないのかを振り向き確認する。

 (そんなに急いでどこに行くのだろう)



 マルクが疲れて来た頃、ラーミは立ち止まり、上空に向かって拳を上げる。そのポーズは勝利の構えだ。



「ふっふっふ。まいたようですね」

「はぁはぁ……まいたって、ミッシェルさんを?」

「あのハゲちゃぴんに名前で、しかも丁寧に『さん』をつける辺りは流石はマルクさんです」

「いや、当然だろう。しかしあそこまであおる事は……」



 息を整えてマルクはラーミに話しかけると、ラーミが絶望した顔になった。まるで大事な物を食べる前に道に落としたような顔だ。



「それいいます!? 私としては実力行使でフルボッコにしてもよかったのですけど、マルクさんが危険を起こすな。というので」

「あっ……ああ! あれか」



 たった数分前にマルクはラーミに無駄な争いはしないほうがいい。と心配したばっかりなのを思い出した。



「いや。本当にすまない」

「解ってくれればいいんです。ではお許しを得たので次回からはフルボッコにします」

「ん?」



 何かか噛み合ってないようなきがするマルクであるが、いい言葉が浮かばなく腕を組む。

 (俺としては争いごとを起こさないように。と言ったつもりが、しかしさっきの場合は争いごとは向こうから来たしなぁ)



「その陰口は俺も聞こえていたが聞こえないふりはどうだろうか?」

「私が淫売とか言われましたらマルクさんはどうしますか?」

「子供らしからぬ言葉――なんでもない。それは当然怒る」

「そういう事です」

 (俺のためだったのか……?)



 マルクは深く考えているが、ラーミにいたってはそんなに深い意味はない。他人を集団で馬鹿にしてくるのが偶然気に障っていただけである。

 毎回毎回相手するわけじゃなくて、たまたま気に触ってコテンパンにしてやりたい。と思っただけの事だ。

 これが毎回相手していたら子供で女性、しかも冒険者で高ランク。さらには元貴族のラーミだ、一日何十件と騒ぎが起こる。



「いいですかマルクさん。言われたら言い返す、冒険者の鉄則ですよ。マルクさんは止めましたけど本当は練習試合でもでもなんでもして力を見せた方が収まる事もあるんですよ」

「マルクだけにか?」



 とっさに出た加齢臭が匂ってきそうな言葉にマルク自身が固まってしまった。



「ええっと、笑う所なんですね」

「聞き流してくれ」

「はい。では……歩きながら喋りましょう。現に私がフルボッコにしたお馬鹿さん達は私の顔を見ると逃げます。逆に頬っておいた雑魚貴族はいまだにネチネチと攻撃するのです」



 (そういうものなのか)

 マルクは今まで実力行使を使った事はない。相手に怪我をさせても自身が怪我をしても困るし、軽く反論はするがそれ以上は行った事がない。それゆえに雑草王と呼ばれる始末ではある。



「なるほど……気に留めておこう」

「そうしてください。所でこの辺に雑貨屋さんは無いのですか?」

「雑貨屋を探していたのか?」

「ええ。ドラゴン退治! と行きたいですけど手ぶらではいけませんし」

「…………本当に行くのか?」

「もちろんです」



 依頼書を改めてみると、サンガク山にいるドラゴン亜種の素材集め。マグナからは馬車四泊五日、のんびりなら七日程度の長旅だ。

 移動費だけでも1人金貨1枚は必要になっていく。



 (参ったな……移動するにも金貨はいるな。シスターアンに……は借りれないな。となるとヤットに頼むか、しかしヤットの所も経営が楽とは聞いていないし)



「あの、何を固まっているんです?」

「正直に言おう。サンガク山まで行く交通費が俺にはない。まずは薬草を摘んでだな」

「ああっ馬車を使うつもりで? 大丈夫です走りますので」

「無理だろ」



 のんびり馬車の旅で七日だ。走り通しても二日はかかる。



「いけますって……あっもしかしてマルクさんも走ると思ってます? 安心してください私が背負いますので」



 ラーミが腰を中腰にしてどうぞ。というポーズを見せているがマルクが乗ると潰れる未来しか見えない。



「無理だろう……」

「行けますってっ」

「いやそれに」



 絵ずらが駄目だ。とマルクは困っている。



「道の真ん中で二人して何してるのよ? 久しぶりだねマルク」



 マルクは声のする方へ見るとエプロンをつけ子供を背負った女性に呼び止められた。濃い目のグリーン色の髪、スラっとしているが胸の部分は大きく垢ぬけた笑顔は周りを笑顔にさせるような顔である。



「ササリー!」

「おや、今度は人妻ですか……」

「マルクの新しい兄妹孤児院の子かい? ササリーだよ、よろしく。この先にある雑貨店店主ヤットの妻、マルクとは元冒険者仲間って所だね。ついてきなお菓子があるんだ。どうせ食べきれないからね一緒に食べてくれると嬉しいよ」

「これはご丁寧に。マルクさんの『』でラーミと言います」

……? あははは。随分となつかれたね」



 当然の反応である。

 小さい子が将来おじさんと結婚してあげる。ササリーはそう思ったし周りもそう思う。

 一人だけ困った顔なのはマルクでどう話していいか、さきほどから口を開いては閉じてまた開く。



「え。マジ?」



 その様子で何かを悟ったササリーは真顔になった。

 背中に背負った赤ん坊がキャッキャと笑う。



「その何ていうかマジなんだ」

「うっわっ」



 マルクの知り合いであるササリーもドン引きである、昨日まで恋人の恋も知らない堅物が翌日に一回りも下に見える子供と結婚しました。と報告を受けたのだ。

 もうさらって来て不可解な薬でも飲ませた。のでは。と思うのが普通の反応である。



「あの勘違いされているようですけど、私は正式な遺言状によりマルクさんの許嫁でして、それに洗脳されているわけでも薬を使われているわけでもなく嫌なら断れましたよ?」

「そうなの!?」

「ええ。荷物を持ちましょう」

「凄い重いよ!?」



 大丈夫です。これでも冒険者なので。と、ラーミはいうと本当に重そうな荷物を軽々と片手で持ち始める。



「いや、ええ本当に軽々持ち上げたね。どういう事なのか詳しく聞きたい」

「それはもう、マルクさんのご親友でしたら何でも聞いてください。私もササリーさんに聞きたいのです。どうしたらそこまで胸が大きく――」



 マルクは一人道の真ん中で取り残された。

 暫くたっていると離れた所で二人が振り返る。その顔は何突っ立っているの? という顔でマルクは慌てて二人の後を追った。

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